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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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#23 授与式前日

 メガロス王国宮廷にて執り行われる、位階授与の儀。

 その準備のため、首都、スメロスアメロスまで、出かけることになった。

 雄一は、準備された軽装を身に着け、玄関先に座って、足をぶらぶらさせている。


 そんな雄一を、壁越しに、そっと見つめる美女がいた。

 雄一に恋する乙女ではない。赤虎紅だ。気の毒なことに彼女は「雄一恐怖症」になっていた。


「コラ、紅! なに震えてんの? 大の大人が情けない」

「さっさと行くわよ」


「ひいぃっ。やっぱり、行きたくない~。バケモノに~、殺される~」


「バカね。ほら、行くわよ」


 ティアは、嫌がる紅を引っ張り出す。

 人の姿をした紅を初めて見る雄一は、礼儀正しくお辞儀をする。


「初めまして。ぼく神谷雄一です」


『そうか。虎の姿を見せなければ、あの時の因縁を付けられずに済むぞ』


 雄一が紅の素性を知らないことをいいことに、威厳ある挨拶を返す。


「お初にお目にかかります。覇者雄一様」

「私、ティア様の親衛隊隊長をしております。紅と申します」

「本日の護衛は、私が責任をもって致しますので、どうぞ、ご安心してお買い物をお楽しみください」


『なかなか、図太い性格してるわね。紅……』


 ティアは、半笑いのまま黙っている。言わぬが花だ。

 そうこうララもムーンも軽いおめかしを済ませて玄関から出てきた。

 白いワンピース姿のララは、これまでと印象が随分変わり、高貴な透明感のある、可憐なお嬢様のようだった。

 ムーンも落ち着いた、黒いドレスの服装で、銀色の髪とのコントラストが美しい。大人の雰囲気が押し出されていた。


 全員が玄関に揃うと、黒龍アトラスが運転する、黒塗りの自動車が現れた。

 相変わらず、全力で、雄一にガンをくれている。


「これって、じどうしゃ?」


「あら? 雄一の世界にもあるの?」


「うん。よく似てるのがあるよ」


「そう。これは、魔力駆動四輪車と言うのよ」

「略して魔動車。インレットブノの神殿にある魔法塔からエネルギーを貰って走るのよ」


 魔動車は、移動範囲は、魔法塔の有効範囲と同様、メガロス国内でしか走ることができないが、燃料補給の要らない、便利な自動車だった。


「チェダックと言う、変態……、いいえ、天才魔導工学博士が発明したのよ」


「ふーん。あ、見て、きれいな町が見えてきた」


 町は大変美しい造りで並木道には花壇があり季節の花が咲き誇り、道も広く、レンガ詰めで整備が行き届いている。

 川には橋が架かり、清らかな水が流れ、川辺には何人かの子どもが遊んでいる。小鳥たちは空を踊る。


 町は自然と調和し、人民の生活水準は非常に高いように感じる。車の窓からそれを感じ取っていたのはララである。


「この環境も、ムウの予言による恩恵なの?」


「わかる? 流石ララね」

「でも、間接的な恩恵かしら。ムウ様の予言の多くは天変地異の対応策を示していたの。大きな災害が回避されることで、豊かな文明が築かれてきたのよ」

「そして、今から、五百年ほど前に、全属性の魔法塔が完成して以降、魔導工学が生まれた」

「魔導工学の発展で、生活に便利な道具や兵器が発明され、国は急速に発展したの」

「それこそ他国を圧倒するほどの力と富を得たわ。」


「他国にはムウの「予言の書」はなかったの?」


「そうね。ムウの黒印、と、呼ばれるものが世界中にあるけど、予言の書があるのは、この国だけね」

「ここメガロス王国は、世界の聖地なのよ」


「世界の国々は、この国に対し、恐れ、妬みと言った負の感情を抱かないの?」


「そうね。正直、妬みはあるかもしれない。過去には侵略戦争も、度々起こってる」

「でも、魔導兵器の登場以降、メガロスの軍事力は圧倒的になったわ」

「魔法塔ありきの兵器だから、いくら強力でも自衛でしか使えないことが玉に傷だけど、大きな戦争抑止力になってくれていることは間違いないわね」


「この国は、攻めも、攻め込ませもしない国、ってこと?」


「そういうこと。ここは、世界一豊かで、平和な国。世界中の憧れの国」

「あっ、それから、魔導工学技術の輸出で他国の平和的発展にも貢献してるのよ」


「ふ~ん。平和的……ねぇ」


 大きな店の前で車が止まる。

 目の前にあるのは、建物そのものが宝石の様な洋服店。内装外装、装飾品。そのどれもが一級品。

 ララとムーンの目が輝く。

 王族御用達の最高級衣服専門店スクピドトポス。

 タキシード姿の紳士が、上品に頭を下げる。


「これは、ディスケイニ様。いつもお世話になっております。今日は如何様な御用でしょうか」


「明日までに礼服の誂えをして欲しい。時間は無いが、最高級の生地で、一式お願いしたいのだが」


「承知しました。うちの職人が総力を挙げて、必ず明日までに、仕立てさせてもらいます」

「生地は、そうですね。伝説の織師、ヒサ・オクトリバ謹製の逸品を、ご用意いたしましょう。」


「うむ。それで頼む」


 ララとムーンは、店員に囲まれ、美しい装飾品や衣装を合わせている。

 二人は大はしゃぎだ。

 

 そんな中、雄一は、一人の店員に声を掛けた。


「お坊ちゃん。いかがなされましたか」


「えっと、ちょっとお願いがあります」


 雄一は、そう言うと、ポケットからボロボロの汚れた生地を、差し出した。


「おや、これは?」


「あのね。これは、とても大切な布なの。何とかしてほしいの。」


 雄一が店員に手渡したボロ布は、雄一のパジャマだった。

 

 ティアが洗ってはくれていたが、染みついた汚れは残り、激しい戦いで生地のあちこちが破れ、裂けていた。誰が見ても、使い古した、雑巾以下の生地だった。

 しかし、雄一にとっては、唯一、元の世界と自分を繋ぐ証。


「なるほど。承知いたしました。私共に、お任せください」


「あはは~、よかった。よろしくおねがいします」


 流石は最高級衣服専門店。嫌な顔一つ見せることなく快諾する。


「ちょっと、雄一! こっちおいで」


 雄一は、ティアに腕を引っ張られる。


「きゃあ、ほら見てよムーンちゃん。これがいい。これが、かわいいよ雄一君」


「そんなのダメよララちゃん。こっちのがいい」

「わおん! さすが雄一様。これが、ワイルドで、素敵だわん」


「肌の露出が多すぎる!」

「二人とも却下! 厳粛な儀式なんだから、コレがいいわよ」

「ね? とても十歳には見えなくなった」


「え~っ! ティアちゃん、いくらなんでも、それは地味過ぎるよ」

「きゃ~っ、コレ、絶対コレがかわいいっ」


「あんたそれ、スカートじゃない……」

「うっ! 似合ってる」


 雄一は、暫く、姦したちの、着せ替え人形にされ続けた。


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