#165 いざ鬼退治へ? ティアシナリオ8/8
ティア視点
『クスクス。今日も一人で、見に行ってたようだね。ティア』
『なんのことよ』
『クスクス。なんのって、今日のダーリンだよ。こないだは勇者アイミとのお茶ちゃアツアツデートの覗き見だったが。今日はどんな様子だった?』
『ああ、ダーリンって、雄一のこと? あいつなら今日は、顔面イガ栗男に血だるまにされてたわ』
『なんだぁ、野郎絡みは、つまらんからええわ。それにしてもティア。一人でダーリンに会えるようになって随分経つな』
『動揺しなくなったのは、まだ最近だけどね。それよりディアーナ。雄一を、ダーリンって呼ぶのは、やめてくれない?』
『クスクスクス。なんだ悟りに近づいたと思ったのに。この呼び名に恥じらいを感じるようでは、まだまだじゃわい』
『違うわよ。そうやって、あんたが、はしゃいでんのがムカつくのよ』
『クスクスクス。心が揺さぶれることに同じじゃて……。虚空白を生ず。もっと精進し、真理を目指すがよい。フォー、フォッフォッフォッ』
『その言い方。誰の真似よ』
『クスクスクス、フォッー、フォッフォッフォッ』
『なんかムカつく……。なるほど、私もまだまだね』
神谷立ディスケイニ修道院での一件以降。私は毎日、幽体離脱をして雄一に会いに行った。
雄一で動揺する精神を鍛えるためだ。
そこで私は、見たこともない雄一をの強さを見て、興奮し、死にかけた。見たくもない、優しい雄一を見て嫉妬し、死にかけた。そうやって、何度も死にかけ、その度、ディアーナに救われ、叱られた。
『クスクス。でもあんた、見違えるほど強くなったよ。あたしゃあんたに教えることは、何もない』
『そう。ありがと』
そう、それは、私も感じる。最近、本当に何があっても動じなくなった。イガグリ頭によるリンチシーンだって、微塵も動揺しなかった。あのララでさえ、逆上したのに、私は平気だった。
ムーンの様子を見に行った時もそうだ。
どう言う訳かムーンは、ウェディングドレス姿で大暴れしていた。そこでムーンが、ララと同じく、神谷・ムーン・カオスになったことを知る。
そこでもやはり、動揺はなかった。その話をディアーナにすると、むしろ、そこは嫉妬するべきだと言われた。だが、それすら私は耐えたのだ。
つまり私は、修行の果て、遂に何も感じない、虚空を手に入れたのだ。完璧だ。今の私なら、たとえ雄一が死んだとしても、何も気にならないだろう。
あれ だったら私 なんで こんなこと してるんだろう……。
『いよおおしティア。時は満ちた。いざ敵陣に向かい出撃じゃあ~!!』
『……なんで?』
『にゃっ! にゃにぃっ?!』
『……。雄一を救ったところで、虚しいだけだわ』
『虚しい? ティアお前、自分が何を言ってるのか分かってんの?』
『……。無論分かっている。これ即ち……虚空白を生ず……。私、悟ったの。この世は何もかも虚しい虚無だってことに』
『ティア。あんた、まさか……』
『ぶつぶつ……、愛など、快楽が生み出す幻想に過ぎない。ぶつぶつ……』
『こっ、これは、思春期によくある鬱状態。愛の燃え尽き症候群だ! おいっ! しっかりしろティア! あんた、世界を救う使命を持ってんだろっ!?』
『ぶつぶつ……、私が雄一を救い、雄一が世界を救ったとて、何になろう。ぶつぶつ……、生きとし生けるものは皆、等しく死ぬのだ。ぶつぶつ……、雄一が救った未来もまた、生と死を繰り返すだけの、無意味な世界が続いていくのが自明の理』
『何この子。急に語り出しちゃったよ。ウザいよ~、たっく~ん』
『ぶつぶつ……、そしてその生命の営みも、永久に続くものではない。ぶつぶつ……、始まりがあれば、いずれ必ず終わりは来る。ぶつぶつ……、ただそれが、早いか、遅いかだけの違い……ぶつぶつ……』
『思想まで、若いころのあたいにソックリだ。うへぇ~、同族嫌悪って、まさにこれのことね。あわわ、最悪。顔まで当時のあたいになっちまってるよ』
『ぶつぶつ……私は、解脱し、もう、世俗のことでは、何も感じやしない……。私は、空を手に入れたのだ。ぶつぶつ……』
『んなもん空と呼べるか! って、自分の妄想に浸っちまって、全然聞いてねえ。うううっ、だめだコリャ……。ええいっ、来いっ、ティア!』
『ぶつぶつ……、私を無理矢理幽体離脱させて、どこへ連れて行く気だ。ディアーナ』
『決まってんだろ! あんたのダーリンの所だよ!』
『ぶつぶつ……。ふん、ソコもまた空だ。雄一も私も、存在していない。どうなったっていい……』
ひゅるるる……ボカン!
『あーっ!! ばかっ! なんてことしやがるっ!澪標を破壊しやがって。これでもう、肉体へ戻れなくなったぞっ!?』
『……ふふふ……。見ろ、ディアーナ。こんな絶望的状況でも、平常心を保っていられるぞ。ふふふふふ、……ぶつぶつ』
『真剣にダメだコイツ……。たっくんごめん。あたい、娘の育て方を、間違えたみたい……』
再投稿を始めてから、投稿分の手直しにばかり追われ、次章の投稿に間に合いませんでした。必ず完成させますが、再び長期充電期間に入ります