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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
161/169

#157 漢気 シゲルシナリオ6/6

勇者 イガグリツムジ・モンブラン卿

挿絵(By みてみん)


姫 シブ・カワヨ

挿絵(By みてみん)


◇シゲル視点◇


「ぎゃああ~っ」


「姫様! カワヨ姫様! お逃げください……ぐ、ぐふっ!」


「待てっ、分かっておるのかゼクス! 我が国との和親条約を破れば、世界がキサマの敵となるのだぞ?!」


「キッキッキッ。故に、目撃者は一人も残さん……。死ね、雑魚共」


「ぐふっ!」


「ギヒヒ、あとはお前だけだ。シブ・カワヨ……」


「よ……よ……。よくもみんなを……。やああっ」


「ゼクス! オンナハ・コロスナヨ!」


「ケッ、面倒な注文だぜ。ほれよ」


 トン!


「うっ! イガ……ちゃん……。ぅぅぅ……」


「ギヒヒ……カワヨ姫。女性至上主義のシゲル君に感謝しろよ?」


「ハァ~・ズイブント・ハデニ・ヤラカシタナァ……」


「それよりも、惨劇の記録は、できたかな? シゲル君」


「……カキコミチュウダ・アト・イップン・マテ……」


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 神出鬼没の電光石火。ガラクスィアス・ブリッジの王宮ど真ん中に魔法転移して、親衛隊を瞬殺。シブ・カワヨを拉致して魔王城地下深くの牢屋に拘攣。ここまで僅か五分……。おかしい……。大魔王ゼクス。こんなデキル男では、なかったはず……。


「キッキッキ。なあシゲル君。君は以前、余にプロジェクション・マッピングを見せてくれたねぇ」


「ン? アア・ユウイチヲ・ショウカイシタ・キロク・エイゾウノコトカ?」


「キッキッキ。それは少し違うだろ。あれは記録映像ではない。記憶映像だ。つまり、在るものを消したり、無いものを付け足したりすることもできる。……そうだろぉ?」


「……ソレガ・ドオシタ」


 この非道さ。この狡猾さ。やはりおかしい。俺がレディと戯れている間に、何が起きた。ゼクス……。


「またまた、とぼけっちゃって~。勘のいいシゲル君なら分かるっしょ? 余の考えている、ことくらい」


「サァナ……」


「キッキッキッ。ならヒントをやろう。先程の惨劇を使って、勇者イガ・グリツムジ・モンブラン卿と、脳筋神谷雄一を、敵対関係にするには、どぉ~すれば、いいでしょう~?」


 まずい……。この俺が、絡めとられる……。


「キッキッキッ。ここまで言っても、まだとぼけるつもりかい? シゲルくぅん」


「……コノサンジョウヲ・ユウイチノ・ハンコウニ・シタテアゲル……」


「ピンポンピンポン! あ~、別に強制はしないぜ? 嫌だと言うなら、今すぐ断ってくれても……。なにせシゲル君とは、お、と、も、だ、ち……。だからねえぇぇえぇぇえぇぇ?」


「……ワカッタ・ヘンシュウスル……サンプン・マテ」


「よおしOK五分後、再びガラクスィアス・ブリッジに向けて出発だ! キッキッキッ……」


 ちっ、断れば、この国で関わったレディたちに、その牙が向かう……。それだけは避けねばならん。すまんな~雄一。ぜ~んぶお前に泥を被せるが、大人の事情だ。甘んじて受け入れてくれ――。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 ゼクスめ。今度は豪勢なコーチを載せたブラックドラゴンに搭乗して堂々と入国か。……手の込んだ演出だぜ――。


「なんだとーぉっ。姫が攫われただとーぉっ」


 にしてはセリフが棒読み。この大甘演出に、肝心の門番が気付いていない。


「ショックのあまり、ホシガキ陛下は床に伏せられ、現在国家の非常事態です。ゼクス様、今日の所はお引き取り下さい」


「いや~。ならば~なおのことぉ~、勇者モンブラン卿に会わねばならぬ~」


「と、申しますと?」


「余は~、犯人を示す、証拠を持ってきたのだ~」


「なんですと!? しょっ、少々お待ちを……」


 この演技力で国門が開く……。ガバガバだな。果物王国ガラクスィアス。


「ん~。どうだい? 上手くいったねえ~。シゲル君」


「……」


「キッキッキッ。そうそう、それでいい。最後まで、何があっても、声を出しちゃいけないよ。シゲル君?」


 あたまお花畑のガラクスィアス・ブリッジのみなさ~ん。殺人及び、誘拐犯が国門を通りますよ~。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


「悔しか~。おいどんがおりゃあ、こんなことには、ならなんだものを」


「そなたの留守中を、狙った犯行に、間違いなさそうだな。モンブラン卿」


「押忍。仮に脳筋神谷雄一が犯人ばすれば、男の腐ったような奴ったい」


 ……コイツが勇者、モンブラン卿か。バラダー並みの巨漢だな。つうかコイツ、頭が完全にイガグリじゃねぇか。


「押忍……押忍……。なるほど。このパンダが神谷雄一の防衛システムで、犯行時の様子を、映像として見せるこつできっとか……」


「襲撃状況は、余ですら目を伏せてしまうほど、凄惨だった。それでも見るかね?」


「押忍。当然たい。悪の所業を、こん目ば一ミリたりとも見逃さんでごわす!」


「ふむ、さすがは男モンブラン。さぁ、捕虜となった防衛システムよ。スクラップにされたくなければ、真実を映し出せ!」


 はいはい。仰せの通り流しますよ。捏造映像をな。でもよ、モンブラン卿。あんたのために、特殊演出を用意したぜ。全てを繋げば、陰謀の全てが分かるようにな……。


 ピカッ。


 さぁ、刮目せよっ! 勇者、モンブラン!


「ぬおおおっっす……。うわあっ! なんと惨い。ひええっ、これはとてもみちょれんったい。つらかぁ~、つらかとばいぃっ」


 おいおい、全然見てねえじゃねえか。いや、目がどこにあるのかは知らんけど。両手で顔を塞いだり、項垂れたり……、最後は背中を向けてやがった。


「ふいぃ~っ、ようやく残虐映像が終わったでごいす。皆、一命を取り留めたと言え、酷すぎでごわした」


 げっ。そう言う国家機密は、胸の奥にしまっとけ。イガグリ頭! 


「……ほう。この状況で、全員無事……とは。不幸中の幸いだったな。モンブラン卿」


「押忍。命ば取り留めたこと、医者は、奇跡と言うちょったばってん。依然として意識不明の重体。予断ば許さんたい」


「……そうか……。勇敢なる近衛兵たちの、一刻も早い回復を祈っている……」


「押忍、押忍」


 つおおっ、ゼクスの視線が背後から突き刺さる。


「しかし、神谷ぁば、なぜカワヨば連れ去ったとばい」


「それは簡単なこと。救世主決定戦で、モンブラン卿の持つ、漢気、それを利用するつもりなのだろう」


「押忍……。確かに、男として、カワヨを見殺しにばできん。おいどん如何なる要求でも呑んでしまうばい……。神谷雄一、なんと卑劣な男たい……」


「そこでどうだろうモンブラン卿。姫奪還は、余に任せてもらえぬか」


「それは、どう言うことばい?」


「お主は、救世主決定戦で、勇者メフレックスと手を組み、悪童神谷を滅することに、専念すればよい」


「なっ! 共闘など、そげな卑怯なこつできっか! おいどんの、男ば廃る」


「こちらとて、真の男が、権譎を前に倒れる姿を、黙って見過ごすわけにはいかぬ」


「むむっ?」


「正々堂々とは、正義同士の競い合い。悪は、正義同士が協力して滅するもの」


「押忍。言われてみりゃあ、確かにそうばい……」


「それにモンブラン卿。救世主の称号は、お主の手にこそ相応しい」


「なんと大魔王ゼクス。そなた、なぜそこまでおいどんを……」


「余が望むのは、偽救世主の討伐のみ……。是非、手伝わせてくれ。勇者モンブラン」


「そこまで言われては、その申し出、受けぬことこそ、男の恥。あい分かり申した。しかし、優勝までも貰う義理はなか。神谷ば滅した後は、メフレックス・コックローチ殿と正々堂々……」


「いいや。余は、真の勇者との友愛こそを求める者。メフレックスには、引かせる。……おおそうだ、宝珠だけ貰おうか。さすればそれが、友好の証となるわ」


「押忍。それは名案ばい。しかし、何たる雅量。ぬしもまた、男の中の男ったい」


 ダメだ。完全に丸め込まれた。さ~て、どうする……。いや、どうしようもねえか。今更トゥルー・フィルムを見せたところで……。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 帰路。俺は、ご機嫌なゼクスに絡まれる。


「親衛隊の急所は、確実に抉った。それを蘇生させるとは……。なかなかやるじゃないか、シゲル君? ちいと焦ったぜ」


「ヤリスギナンダヨ・オマエハ」


「ほう。言い訳無しとは潔い。キッキッキッ、それに映像の、違和感演出も、秀逸だったね。あれは、サブリミナル効果ってやつかい? 正直、肝が冷えたよ? 相手が予想以上の痴騃で助かったがねぇ。キキキキッ」


「マッタクダ・チケンノ・オマエデモ・キヅケタノニ……ナ?」


「キキキ、言ってくれるねえ。そんな騰蛟起凰な君には、論功行賞に応じた、とびきりの褒美をくれてやろう……」


「ククク……カクゴハ……デキテイル」


「キエエッ!!」


 ズボォッ!

 

 ゼクスは一撃で俺の胴に大穴を開け、ご満悦な顔を近づけてくる。


「キヒヒヒ、なあシゲル。これがアベレージ五千億の、邪神の力だ……。アダマンタイトの装甲が、まるで粘土のようだったぜ?」


 ゼクス。お前に触れることができ、やっとこさ分析できた。……この力は……。お前、相当ヤバイ物を取り込んだな。


「……ゼクス……イヘンニ・キヅカズ・スマナカッタ」


「ああん? 何を言っている」


「モウ・テオクレダ……タスケラレナクテ・ザンネンダヨ」


「身動き一つとれなくなっても、減らない口だねぇ。耳障りだ……ふんっ」


 ぐしゃっ。


「どうだい? 頭部を完全に潰された感想は」


「……ガガ……ガ……」


「……シゲル……君。……。キキキ……さて、シゲル。名残惜しいがお別れだ」


 ゼクスは、コーチの窓を開け、俺を空中から、樹海に遺棄した――。


 ひゅるるるるる……ぼかん!


 不発弾の様に、空中を切り裂く音を立て、地上に着地ダイブ。なんとも締まりのねえ格好だが……。うむ、なんとかなりそうだな……。御来場の皆さん、大変長らくお待たせしました。最後の曲は、ヘ音記号ヘ長調交響曲。「イタチの最後っ屁」です。どうぞ最後までお楽しみください。


「ぷっぷくぷ~っ! ぷぷぷぷぷぷっぷっくぷ~!」


 空を突き抜け、地面を這うような俺の絶歌。この歌に、人の嘆き、悲しみ、怒り、憂いによる、苦悩の開放を願い、放つ!


「ぱぱらっぱっぱっぱっぱあ~っ」


 予定が狂っちまったな。……いや、こんなオモチャじゃ、どの道アイツの器には、相応しくなかったか……。


「ぴぴぴぷぽーぷぷ~っ」


 キノウテイシ・マデ・サン……ニイ……イチ……。


「ぱぴぷぺぽ~~~~」


 ゼロ。


「――。」


 ――予定は狂ったが、悔いはない――。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


「……さま~っ」


 ん? なんだ? この声は。


「しげるさまーっ」


 ばさっ、ばさっ、ばさっ……。


 羽音と共に、俺を呼ぶ声が……、近づいてくる?


「ああっ、シゲル様! なんて姿にっ」


 その声は。まさか……リアンシ……か?

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