#157 漢気 シゲルシナリオ6/6
勇者 イガグリツムジ・モンブラン卿
姫 シブ・カワヨ
◇シゲル視点◇
「ぎゃああ~っ」
「姫様! カワヨ姫様! お逃げください……ぐ、ぐふっ!」
「待てっ、分かっておるのかゼクス! 我が国との和親条約を破れば、世界がキサマの敵となるのだぞ?!」
「キッキッキッ。故に、目撃者は一人も残さん……。死ね、雑魚共」
「ぐふっ!」
「ギヒヒ、あとはお前だけだ。シブ・カワヨ……」
「よ……よ……。よくもみんなを……。やああっ」
「ゼクス! オンナハ・コロスナヨ!」
「ケッ、面倒な注文だぜ。ほれよ」
トン!
「うっ! イガ……ちゃん……。ぅぅぅ……」
「ギヒヒ……カワヨ姫。女性至上主義のシゲル君に感謝しろよ?」
「ハァ~・ズイブント・ハデニ・ヤラカシタナァ……」
「それよりも、惨劇の記録は、できたかな? シゲル君」
「……カキコミチュウダ・アト・イップン・マテ……」
◇◇◇◇◆◆◆◆
神出鬼没の電光石火。ガラクスィアス・ブリッジの王宮ど真ん中に魔法転移して、親衛隊を瞬殺。シブ・カワヨを拉致して魔王城地下深くの牢屋に拘攣。ここまで僅か五分……。おかしい……。大魔王ゼクス。こんなデキル男では、なかったはず……。
「キッキッキ。なあシゲル君。君は以前、余にプロジェクション・マッピングを見せてくれたねぇ」
「ン? アア・ユウイチヲ・ショウカイシタ・キロク・エイゾウノコトカ?」
「キッキッキ。それは少し違うだろ。あれは記録映像ではない。記憶映像だ。つまり、在るものを消したり、無いものを付け足したりすることもできる。……そうだろぉ?」
「……ソレガ・ドオシタ」
この非道さ。この狡猾さ。やはりおかしい。俺がレディと戯れている間に、何が起きた。ゼクス……。
「またまた、とぼけっちゃって~。勘のいいシゲル君なら分かるっしょ? 余の考えている、ことくらい」
「サァナ……」
「キッキッキッ。ならヒントをやろう。先程の惨劇を使って、勇者イガ・グリツムジ・モンブラン卿と、脳筋神谷雄一を、敵対関係にするには、どぉ~すれば、いいでしょう~?」
まずい……。この俺が、絡めとられる……。
「キッキッキッ。ここまで言っても、まだとぼけるつもりかい? シゲルくぅん」
「……コノサンジョウヲ・ユウイチノ・ハンコウニ・シタテアゲル……」
「ピンポンピンポン! あ~、別に強制はしないぜ? 嫌だと言うなら、今すぐ断ってくれても……。なにせシゲル君とは、お、と、も、だ、ち……。だからねえぇぇえぇぇえぇぇ?」
「……ワカッタ・ヘンシュウスル……サンプン・マテ」
「よおしOK五分後、再びガラクスィアス・ブリッジに向けて出発だ! キッキッキッ……」
ちっ、断れば、この国で関わったレディたちに、その牙が向かう……。それだけは避けねばならん。すまんな~雄一。ぜ~んぶお前に泥を被せるが、大人の事情だ。甘んじて受け入れてくれ――。
◇◇◇◇◆◆◆◆
ゼクスめ。今度は豪勢なコーチを載せたブラックドラゴンに搭乗して堂々と入国か。……手の込んだ演出だぜ――。
「なんだとーぉっ。姫が攫われただとーぉっ」
にしてはセリフが棒読み。この大甘演出に、肝心の門番が気付いていない。
「ショックのあまり、ホシガキ陛下は床に伏せられ、現在国家の非常事態です。ゼクス様、今日の所はお引き取り下さい」
「いや~。ならば~なおのことぉ~、勇者モンブラン卿に会わねばならぬ~」
「と、申しますと?」
「余は~、犯人を示す、証拠を持ってきたのだ~」
「なんですと!? しょっ、少々お待ちを……」
この演技力で国門が開く……。ガバガバだな。果物王国ガラクスィアス。
「ん~。どうだい? 上手くいったねえ~。シゲル君」
「……」
「キッキッキッ。そうそう、それでいい。最後まで、何があっても、声を出しちゃいけないよ。シゲル君?」
あたまお花畑のガラクスィアス・ブリッジのみなさ~ん。殺人及び、誘拐犯が国門を通りますよ~。
◇◇◇◇◆◆◆◆
「悔しか~。おいどんがおりゃあ、こんなことには、ならなんだものを」
「そなたの留守中を、狙った犯行に、間違いなさそうだな。モンブラン卿」
「押忍。仮に脳筋神谷雄一が犯人ばすれば、男の腐ったような奴ったい」
……コイツが勇者、モンブラン卿か。バラダー並みの巨漢だな。つうかコイツ、頭が完全にイガグリじゃねぇか。
「押忍……押忍……。なるほど。このパンダが神谷雄一の防衛システムで、犯行時の様子を、映像として見せるこつできっとか……」
「襲撃状況は、余ですら目を伏せてしまうほど、凄惨だった。それでも見るかね?」
「押忍。当然たい。悪の所業を、こん目ば一ミリたりとも見逃さんでごわす!」
「ふむ、さすがは男モンブラン。さぁ、捕虜となった防衛システムよ。スクラップにされたくなければ、真実を映し出せ!」
はいはい。仰せの通り流しますよ。捏造映像をな。でもよ、モンブラン卿。あんたのために、特殊演出を用意したぜ。全てを繋げば、陰謀の全てが分かるようにな……。
ピカッ。
さぁ、刮目せよっ! 勇者、モンブラン!
「ぬおおおっっす……。うわあっ! なんと惨い。ひええっ、これはとてもみちょれんったい。つらかぁ~、つらかとばいぃっ」
おいおい、全然見てねえじゃねえか。いや、目がどこにあるのかは知らんけど。両手で顔を塞いだり、項垂れたり……、最後は背中を向けてやがった。
「ふいぃ~っ、ようやく残虐映像が終わったでごいす。皆、一命を取り留めたと言え、酷すぎでごわした」
げっ。そう言う国家機密は、胸の奥にしまっとけ。イガグリ頭!
「……ほう。この状況で、全員無事……とは。不幸中の幸いだったな。モンブラン卿」
「押忍。命ば取り留めたこと、医者は、奇跡と言うちょったばってん。依然として意識不明の重体。予断ば許さんたい」
「……そうか……。勇敢なる近衛兵たちの、一刻も早い回復を祈っている……」
「押忍、押忍」
つおおっ、ゼクスの視線が背後から突き刺さる。
「しかし、神谷ぁば、なぜカワヨば連れ去ったとばい」
「それは簡単なこと。救世主決定戦で、モンブラン卿の持つ、漢気、それを利用するつもりなのだろう」
「押忍……。確かに、男として、カワヨを見殺しにばできん。おいどん如何なる要求でも呑んでしまうばい……。神谷雄一、なんと卑劣な男たい……」
「そこでどうだろうモンブラン卿。姫奪還は、余に任せてもらえぬか」
「それは、どう言うことばい?」
「お主は、救世主決定戦で、勇者メフレックスと手を組み、悪童神谷を滅することに、専念すればよい」
「なっ! 共闘など、そげな卑怯なこつできっか! おいどんの、男ば廃る」
「こちらとて、真の男が、権譎を前に倒れる姿を、黙って見過ごすわけにはいかぬ」
「むむっ?」
「正々堂々とは、正義同士の競い合い。悪は、正義同士が協力して滅するもの」
「押忍。言われてみりゃあ、確かにそうばい……」
「それにモンブラン卿。救世主の称号は、お主の手にこそ相応しい」
「なんと大魔王ゼクス。そなた、なぜそこまでおいどんを……」
「余が望むのは、偽救世主の討伐のみ……。是非、手伝わせてくれ。勇者モンブラン」
「そこまで言われては、その申し出、受けぬことこそ、男の恥。あい分かり申した。しかし、優勝までも貰う義理はなか。神谷ば滅した後は、メフレックス・コックローチ殿と正々堂々……」
「いいや。余は、真の勇者との友愛こそを求める者。メフレックスには、引かせる。……おおそうだ、宝珠だけ貰おうか。さすればそれが、友好の証となるわ」
「押忍。それは名案ばい。しかし、何たる雅量。ぬしもまた、男の中の男ったい」
ダメだ。完全に丸め込まれた。さ~て、どうする……。いや、どうしようもねえか。今更トゥルー・フィルムを見せたところで……。
◇◇◇◇◆◆◆◆
帰路。俺は、ご機嫌なゼクスに絡まれる。
「親衛隊の急所は、確実に抉った。それを蘇生させるとは……。なかなかやるじゃないか、シゲル君? ちいと焦ったぜ」
「ヤリスギナンダヨ・オマエハ」
「ほう。言い訳無しとは潔い。キッキッキッ、それに映像の、違和感演出も、秀逸だったね。あれは、サブリミナル効果ってやつかい? 正直、肝が冷えたよ? 相手が予想以上の痴騃で助かったがねぇ。キキキキッ」
「マッタクダ・チケンノ・オマエデモ・キヅケタノニ……ナ?」
「キキキ、言ってくれるねえ。そんな騰蛟起凰な君には、論功行賞に応じた、とびきりの褒美をくれてやろう……」
「ククク……カクゴハ……デキテイル」
「キエエッ!!」
ズボォッ!
ゼクスは一撃で俺の胴に大穴を開け、ご満悦な顔を近づけてくる。
「キヒヒヒ、なあシゲル。これがアベレージ五千億の、邪神の力だ……。アダマンタイトの装甲が、まるで粘土のようだったぜ?」
ゼクス。お前に触れることができ、やっとこさ分析できた。……この力は……。お前、相当ヤバイ物を取り込んだな。
「……ゼクス……イヘンニ・キヅカズ・スマナカッタ」
「ああん? 何を言っている」
「モウ・テオクレダ……タスケラレナクテ・ザンネンダヨ」
「身動き一つとれなくなっても、減らない口だねぇ。耳障りだ……ふんっ」
ぐしゃっ。
「どうだい? 頭部を完全に潰された感想は」
「……ガガ……ガ……」
「……シゲル……君。……。キキキ……さて、シゲル。名残惜しいがお別れだ」
ゼクスは、コーチの窓を開け、俺を空中から、樹海に遺棄した――。
ひゅるるるるる……ぼかん!
不発弾の様に、空中を切り裂く音を立て、地上に着地。なんとも締まりのねえ格好だが……。うむ、なんとかなりそうだな……。御来場の皆さん、大変長らくお待たせしました。最後の曲は、ヘ音記号ヘ長調交響曲。「イタチの最後っ屁」です。どうぞ最後までお楽しみください。
「ぷっぷくぷ~っ! ぷぷぷぷぷぷっぷっくぷ~!」
空を突き抜け、地面を這うような俺の絶歌。この歌に、人の嘆き、悲しみ、怒り、憂いによる、苦悩の開放を願い、放つ!
「ぱぱらっぱっぱっぱっぱあ~っ」
予定が狂っちまったな。……いや、こんなオモチャじゃ、どの道アイツの器には、相応しくなかったか……。
「ぴぴぴぷぽーぷぷ~っ」
キノウテイシ・マデ・サン……ニイ……イチ……。
「ぱぴぷぺぽ~~~~」
ゼロ。
「――。」
――予定は狂ったが、悔いはない――。
◇◇◇◇◆◆◆◆
「……さま~っ」
ん? なんだ? この声は。
「しげるさまーっ」
ばさっ、ばさっ、ばさっ……。
羽音と共に、俺を呼ぶ声が……、近づいてくる?
「ああっ、シゲル様! なんて姿にっ」
その声は。まさか……リアンシ……か?