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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
160/169

#156 籠の鍵 シゲルシナリオ5/6

◇リアンシ視点◇

 

 ミカミの背後からサンシタが飛び掛かってきた。

 サンシタは、あたしを狙ってナイフを振り下ろそうとしたが、魔女たちの一極集中魔法がサンシタを吹き飛ばしてくれた。

 そしてすぐ、みんなの魔力はミカミをロックした。みんな、人が変わったね。


「さあミカミ。怪我をしたくなければそこをどけ。邪魔をするならあたしたちは、自由のために戦う!」


「自由? ……そうか。ふっふっふっ、なるほど自由か、面白い。いいか? お前たちの、その自由を奪っていた、あの魔法障壁は、俺が一人で張ったものだ。意味が、分かるかな?」


 集まる魔力が大きく乱れた。ミカミの言葉に動揺が隠せないんだ。


「自由には、責任が伴う。俺に戦いを挑むのなら好きにしろ。それも自由だ。ただ、その責任は取ってもらう。一人でも歯向かえば連帯責任だ。……皆殺しにしてやる」


 やるなミカミ。連帯責任と言えば、みんなを率いているあたしが動けなくなることを知ってるんだ。見え見えだけど、効果的なブラフだよ。


「自由ってのはな、力のない者には無慈悲なのだ。それにお前らは何か勘違いをしている。奴隷ペットと、聞こえこそ悪いが、ようは支配者に選ばれるんだぜ? 皆がうらやむ豪邸に住み、雅なドレスで着飾り、温かい食事を摂る。つまり、束縛の対価に、ご主人様からの庇護が与えられるのさ。不細工な烏頭リアンシを除く、別嬪レディたちには……な」


 くっ。自由と束縛を引き合いに、生と死を天秤に掛けやがった。嘘でも、こんな言い回しをされれば、みんなの心が揺らいでしまうだろう……。


「さて、ここで提案だ。このまま大人しく地下牢へ戻るなら、この脱獄劇を見逃してやる……。無論、首謀者である烏頭も咎めやしない」


「ぐっ……ミカミ……」


「オラァッ!! 勝手気ままな雌猫ども! さっさと牢へ戻らんかあっ!」


 救いの道を提示してからの恫喝に皆の肩が竦み上がる。ミカミはまるで、逃げる羊の群れを見事に誘導する牧羊犬のようだ。

 ……まいった。チェックメイトだ。


「みんな。悔しいけれど、ここまでのようね……」


「なぁにリアンシ。自由を、諦めるの? だったら一人だけで牢に戻ればいいわ」


「フェリエラー……?」


「そうよ、リアンシ。私たちは一致団結したんでしょ? それは、私たちでも戦えるってことでしょ? 自由のために」


「ペルテドル……」


「正直、今も震えるほど怖いわ。でも、私もう、無力と諦めて、泣いたりなんかしないよ。リアンシ」


「ルーザー……」


「皆殺し? 上等じゃない! やれるものなら、やればいい。自由には、それだけの価値がある。ねっ、そうでしょ? リアンシ」


「イティメノス……」


「みんなの覚悟と運命は一緒だよ? さあ、私たちを導いて? 自慢の親友、リアンシ」


「シャーパ……。ありがとう。みんな、みんな、ありがとう……」


「心が一つに、団結している……? まさか、こんな鳥女に、ここまでのカリスマがあるとは……」


 予想外の展開に、あたしは動揺と同時に高揚した。同じく予想外のミカミは、焦燥と同時に馮怒している。

 みんながくれたこの好機。どう活かせるか……。


「自由には責任が伴う……。そう口にしたな。ミカミ」


「き、きさま……」


「当然できているんだろうな。お前は」


「なんだと?」


「こうなった以上、あたしたちに残された道は、自由か死の、どちらかだ」


「うぐっ」


「どちらを選ぶにせよ、ミカミ。お前はその判断に、責任を持つ覚悟ができているのか?」


「うぐぐぅっ」


「スネイクの所へ連れていけ。お前の責任は、このあたしが取ってやる!!」


「まつ、まさか、ボスに直接交渉する気か」


「お前もここに、不良在庫の山を、築きたいわけではないだろう?」


「くっ……。くうううぅぅぅ……。わかった……。俺の負けだ好きにしろ」


 よし。ミカミは攻略できた。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 スネイク団のボスは、ウシガエルのように、おぞましい顔をしていた。

 その目は深海に浮かぶ魚眼の様に、無機質で冷たい。

(……イヤな予感がする……)

 スネイクは、葉巻を咥え、球状の指先で器用にそろばんを弾きながら、ミカミの報告に耳を傾けている。

 計算高い奴なら、条件次第ではどうにかなるかもしれない……。

(それなのに……、胸騒ぎは大きくなる……)

 あたしはそもそも、交渉相手の性質を、根本的に、読み違えてはいないだろうか?

 と……。スネイクがあたしと目を合わせ、ニタリと笑った。


「ゲロゲ~ロ……。汚染は、ひとケースで済んで良かった。だが、ミカミ。なぜ俺様の言いつけを守らなかった?」


「それはスネイク様……。うっサイコガン!? まずいっ、リアンシっ、逃げろーっ!」


 パキュッ!


「!!?」


 銃口すら確認できなかった。

 ノーモーションでスネイクから放たれたサイコガンは、ミカミの胴を貫いた。

 あたしは、吹き飛ぶミカミを慌てて抱き留めた。


「ミカミ! 大丈夫かっ?」


「リアンシ……。俺も……自由になりたかった……。この……組織から……解放されたかった……。頼む……俺も、連れて行ってくれ……。お前の進む……束縛の無い……世界へ……」


「ミカミ!」


 ミカミは、そう言うと、あたしの腕の中でこと切れた。


「汚染は、感染する前に滅菌すべし。汚染に気付かなかったか……或いは、お前も既に、感染していたか……」


「ちょっと、ガマガエル! あんたなんで仲間を……?!」


 パキュ。


「シャーパ!!」


 どさり。


「ゲロゲ~ロ。ミカミも、お前らも、み~んな感染者だ」


「感染? 一体何を……?」


 パキュッ!


「フェリエラ―!!」


 どさり……。


 パパパパパキュッ!


 どさどさどさ……。


「ペルテドル! ルーザー! イティメノス!」


 サイコガンで倒れた仲間たちは、即死なのだろう。ピクリとも動かない。

 スネイクは、悲鳴はおろか、呻き声すら許さなかったのだ。


「ゲコ、ゲコ。滅菌完了だ……」


 ちくしょう、ちくしょう、完全に見誤った……。スネイクは、反乱したあたしたちを「人」としては勿論、もはや「商品」としてすら見ていなかった。

 あたしたちは言わば、病原菌に侵された家畜……。感染拡大を防ぐための、殺処分対象だったのだ。


「病原体の元凶。リアンシ・バゴクリスとは、お前だな」


「スネイク……確認も取らずに、あたしを残したのか」


「ゲココ。お前だけ、眼の輝きが違ったからな。哀れな羊の群れに、人を導くおおとりが混ざってるようだったぜ」


「過ぎた評価をいただけて、光栄だわ。で、何してるの? さっさとあたしも、滅菌すれば?」


「ゲコココ。お前から、交渉を申し込んでおいて、それはないだろう」


「交渉? ふんっ。交渉は決裂した。あたしも、皆と同じ運命を選ぶ。寝ぼけてないで、さっさと殺せ!」


「その毅然とした態度。度胸。覚悟。じゅるり……。惚れたぜ。お前に死は許さん。お前は俺の、女になれ」


 ガチン! ……ゴクリ……。


「なあに、別に断ってもらって結構だ。不撓不屈の魂を持つお前のことだ。縛り付けていても、十分楽しい夜となる。ゲコゲコ、ゲココココォ」


 ゴクリ……ゴクリ……。


「ゲココ。さてはミカミ……。奴も、この女の才に惚れたか……。殺しておいて正解だぜ、生意気なクズが」


 ゴクリ……ゴクリ……。


「ゲコ? さっきから何だ? この音は。おい女、うすら笑いを浮かべて、何を飲み込んでいる!?」


 にやり……ゴクリ……。


「まさか!」


 バシィッ!


 びしゃあっ!


「ゲゲッ!」


 惚れた女に平手打ちとは恐れ入る。……でも、もう遅い……。

 あたしは……この鳥籠を離れ……あの弥天へと飛騰する……自由な……鳥……だ――。


「死んだか……。舌を噛み切り、器官を詰まらせて尚、それを悟らせぬとは……。さすが俺の見込んだ女……。いや……、バカな女よ……」


 ひゅう……。ひゅうううぅぅ……。


「ゲコ? 密室で、風籟とは、瑰詭なり……」


「……ヒトーツ・ヒトノ・イキチヲ・チョーメ・チョメ……」


「だっ誰だ!」


「……フターツ・フラチナアクギョウ・チョーメ・チョメ……」


「う~む、曲者めっ、姿を見せろ!」


「……ミッツ・ミンナデ・チョーメ・チョメ……」


「そこかっ!」


 パキュッ! ドカン!


「……ヨッツ・ヨナヨナ・チョーメ・チョメ……」


「ちょめちょめの、意味が分からんのに、ちょめちょめが……多すぎる!」


「……イツツ・イツデモ・チョーメ・チョメ……ムッツ……エット……アレ? ム?……ム……ム~……。ンッンッ! ミッツ・サン・ジョウ・シゲルサン……」


「六つめが思いつかず、三に戻った! 一体どう言うことだ!」


「ユカカラ・ゴメンツカマツル! マルヒオウギ・アナル・キング(肛門OH!)」


 ズドン!


「うぎゃあー! 下半身が八方に割れたぁ!」


「ツミブカキ・ガマガエルヨ・コンゴハ・カマガエルトシテ・イキロ」


「けろろ~ん。何この鳴き声。イヤン、バカン!!」


「リアンシ・メヲサマセ……シハ・ジユウヘノ・トビラジャネエゾ?」


「ケロロ、あら、残念ねぇ。その女は、とっくに死んでるわよ」


「ククク・ナラバ・オレノ・フィンガーテクニックデ・テンゴクニ・オクッテ……イヤイヤ・テンゴクカラ・ヨビモドシテヤル」


「呼び戻す? ケロロロロ。このパンダ人形が、神にでもなったおつもり? あなた、相当のバカ~ンね」


「ピピピ……タダイマ・ハカイブイ・オヨビ・サイボウソシキヲ・ブンセキチュウ……カンリョウ……ヒキツヅキ・サイボウサイセイ・オヨビ・セイメイキノウ・サイコウチクチュウ……サン……ニイ……イチ……フィィィーヴァァァー!!!」


 ぱちり。


「ケロロロ~ン! 死者が蘇った!!? これって、まさかまさかの神降臨?!」


「……。あれ? ……シゲル……さ、ま?」


「ククク・ヤア・リアンシ・サンズノカワハ・デカカッタカ?」


「三途の川? ああ、あたし、死んじゃったから……。ここは、地獄? それとも天国? ……でもシゲル様が一緒なら、どっちでもいい……かな?」


「……ククク・マダスコシ・コンランシテイルナ……オチツクマデ・ヤスンデロ」


 まるで夢を見ているよう。

 あれ? スネイクが薬指を咥え、股を押さえてもじもじしてる。シゲル様に向ける流し目が、気持ち悪いわ。


 そんなことより信じられない。シゲル様に触れられた仲間たちが、次々に起き上がる。

 シゲル様は、神様だったの?


「サーテ・ミンナ・ブジ・フッカツシタナ」


「あの~、シゲル様。ミカミが死んだままなんだけど」


「モンダイ・ナイ」


「え? 問題だよ。ミカミもスネイクの、犠牲者なんだよ?」


「オトコニ・ジンケンナド・ナイ」


「えっ! 冗談でしょ? シゲル様」


「オレノユメハ・オレ・イガイノ・オトコノメツボウ……セツニ・セツニ・ネガッテイル……」


「最っ低な願いを、切に願うな!」


 前言撤回。こんなのが神様であってたまるか。


 シャーパたちも加わって、粘り強く説得を続けた結果、ようやく、渋々、本当に嫌々といった感じで、シゲル様はミカミを復活させてくれた。

 ホント何を考えてんだか……。


 その後、シゲル様はスネイク一味を全員拘束。

 アジトに捉えられていた人々を、全員解放した。


「アッ・コレニテ・イッケン・ラクチャ~クウゥゥゥ~」


「シゲル様……?」


「ン? ナンダ・リアンシ」


「助けてくれてありがとう。でも、どうして、この場所が、分かったの?」


 そうあたしが質問すると、シゲル様はあたしの胸を指さした。


「……リアンシ……オレハ・ズット・キミヲ・サガシテタ……」


「え? あ……、あたし……。あたしを、ずっと?」


 まさかシゲル様は、あたしを我武者羅に探し求めて、見つけてくれたって、こと? やだ、あたしったら、胸がどきどきしちゃう。

 いや、落ち着いてリアンシ。そんな簡単に、この男を信じちゃダメ。そうよ、質問の論点がずれてるわ。きっと、嘘よ。探して見つけたなんて……。

 

「……ソノ・ピンキーリング・ニアッテルゼ」


「うっ、これは……。か、勘違いしないでよね。こんな物……、お店のママにあげようとしたけど、シゲル様の、あたしへのご好意だから貰えないって……。それで、仕方がないから、チェーンにくぐらせてネックレスにして……あわわ、何言ってんだろ、あたし……」


 更に動揺してしまう。やだ、どうしちゃったの? あたし。しっかりして!

 違うわよシゲル様。あたしは、こんなピンキーリングに喜んでるわけじゃないんだからね、寧ろ怒ってるんだからね……。


「ソノ・リングニハ……ハッシンキガ・ウメコマレテイル」


「え。発信機?」


「ソウダ……オカゲデ・スネイクノアジトヲ・ハッケンデキタ……タスカッタゼ・リアンシ」


「助かった?」


 論点ずらしじゃなかった。ずれていたのは、あたしの気持ちだけ……。そうか。全て解ったよ、シゲル様。要するにあたしは、スネイク団を捕まえるための、道具だったんだ。そういうことね……よっく、解ったよ……。

 でもダメよ、リアンシ。その感情は間違ってる。シゲル様が命の恩人であることに、変わりはないんだから。そうダメよ、リアンシ。その湧き上がる、その感情を爆発させれば、シゲル様への想いが、特別なものだと、認めることになるんだから。


「それでも……」


「ン?」


「それでも我慢……。できるかーっ!」


 バシイッ!


 グリングリン……。


 あたしは、命の恩人であるシゲル様の顔面を、平手でぶった。無理に感情を抑えていた分、手加減できなかった。シゲル様の頭が、まるで独楽の様にぐるぐると回っている。

 まさか、本当に、ロボットだったなんて、ね……。


「さよなら。シゲル様……」


 グリングリン……。


「……アア……サヨナラ・リアンシ」


 グリングリン……。


 これで、本当のお別れ。もう、二度と会うことはないでしょう。あたしはシゲル様に背を向け歩き出す……。あ、発信機付きのピンキーリング。これも返さなきゃ……。こんなもの、振り向きざまに叩きつけてやるんだ。


「こんなもの、返っ……!!?」


 だ、大魔王ゼクス!!?


「キッキッキッ……どうだったかな、シゲル君。おやおや……? ふむ。どうやら、目的の女は救えたみたいだねぇ」


「……ヨケイナ・クチヲ・ハサムナ・ゼクス……」


 大魔王に睨まれ、ただ立ち尽くしてしまう。大魔王がどうしてここに? シゲル様と、知り合い? 最近頭角を現した側近って、まさか? ダメだ。パニックだ。


「しかし分からんねえ。傾城の美女とは程遠い雌鳥一匹のために、君はあんなに取り乱して、余を頼って……」


「ゼクス! ソレイジョウ・クチヲウゴカセバ・コウカイスルコトニ・ナルゾ!!」


「ギヒヒヒ、おおコワ。まぁ、情報提供はしたんだ。今度は君が、余との約束を果たす番だよ。シゲル君?」


「アア……ワカッテイル」


「情報提供? どう言うこと? シゲル様?! この場所が分かったのは、発信機のお陰だったんじゃないの?! ちょっと待ってシゲル様!! 一体どこへ……」


「ヨカッタナ・リアンシ……コンドコソ・キミハ・ジユウナ・トリダ……」


 バシュン!


「シゲル様ぁっ!!」


 消えた。大魔王の魔法転移で、どこかへ行ってしまった。


 何が自由な鳥よっ、どう言うことよシゲル様っ。あたしは、あなたの染愛に満ちた表情の裏に、離涙に歪む姿を見たわ!

 あたしの自由のために、あなたは何を、代償にするつもりなの?


 シゲル様のバカ。あたしはもう、あなたの持つ籠の中の鳥。こんなの、全然、自由なんかじゃない!


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 これからあたしは、人生でも数少ない経験をするのだろう。その覚悟を胸に朝頄に目を凝らせば、映る世界が、変わって見える……。


「じゃあ、もう行くね、シャーパ」


 ばさり!


「うん。幸運を祈ってるわ。リアンシ」


 ばさっばさっ……。ばさっばさっ……。


 あたしは、極天へ向かって羽ばたく。


 生えたばかりの、漆黒の翼を使って。


 あたしの籠の鍵を持つ、君を探し求めて――。


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