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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
159/169

#155 籠の中の籠 シゲルシナリオ4/6

 ◇リアンシ視点◇


 翌日になっても、ルームメイトのシャーパは帰ってこなかった。

 大魔王の側近、とやらに見初められ、玉の輿に乗ったのだろうか。

 だとしたら、相当な権力者がお相手だ。夜のお店の衣装や、私とシェアしている日用品なんか、いちいち取りに戻りはしないだろう。


 でも、こんな派手なドレス、処分に困るわね……。そう思っていたら、昨日の執事が現れて、手紙を渡された。


「シャーパ直筆の、手紙……?」


 予想通りだった。シャーパは、めでたく婚約したらしい。そして婚約披露宴に友人代表として、あたしを招きたいと書いてあった。


「このドレス、あたしには少し派手だけど……。しょうがないわよね」


 シャーパの残したドレスを纏い、慣れない紅を引いた。手製の小さなネックレスを胸に下げ、迎えの馬車に乗る。

 あたしの心は、馬車の揺れに合わせて落ち着かない。


『あたしにも、お姫様になりたい願望が、潜んでいるのだろうか。何かを期待しているわけでもないのに……。ふっ。ばかばかしい……どうかしてるわ』


 そう。現実は、決してあたしをお姫様にはしない。それどころか、人間扱いさえ、してくれない。

 馬車の男は執事ではなかった。人攫いだった。


「きゃあっ、これは、どう言うこと!?」


「うるせえ、ココに入ってろ鳥頭。いだだっ?! コイツ、噛みやがった」


 バシィッ!


「きゃあっ」


「へっ! ざまあみろ」


「おい、サンシタ。大切な商品にキズをつけるな。サイコガンを操るボスに殺されるぞ」


「ぅひぃ! すっ、すまねえミカミの兄貴。この女が抵抗するもんでつい……うっこのアマ、なんて目をしてやがる。メンチ切ってんじゃねぇぞコラッ」


「ほほう、確かにいい眼をしている。まるで空の支配者熊鷹のようだ……。しかし言っておく。ここでの抵抗は、自分を不利にするだけだ。女としての価値がなけりゃ、即刻、強制労働所に送られるぞ?」


「あんたたち、人身売買をする奴隷商か……」


「売れりゃあ、しばらくは可愛がってもらえるぜ? 玩弄としてだがな……。くくっ、しかしその醜い面じゃ、顔に付いたその傷など関係なく、労働要員だな」


「へへへ、なら兄貴。今の一発は、スネイク親分には内緒で、おなしゃす」


「おいサンシタ。アジトの中とは言え、ボスの名を口に出すな」


「ぅひぃ、すいやせん。ミカミの兄貴」


 ミカミは、サンシタの頭を小突いて去っていく。サンシタも、彼の後をついて行った。


 行先は、性奴隷に強制労働所か。この様子じゃ、男女問わずに連れ去ってるな……。最近、町の喧騒が緩んだと感じていたのは、このせいか……?


 閉じ込められた地下牢の中には、悲愴する女性が五人しゃがみ込んでいた。その中に、シャーパの姿もあった。


「シャーパ。シャーパ大丈夫?」


「リアンシ? リアンシなの? ううう、あなたまで巻き込んじゃってゴメンね? 私、あいつらが怖くて、つい、あんな手紙を……」


「気にしないで。それよりも、ココから何とかして出ないと……」


「そんなの、とても無理よ。この牢屋は、頑丈な鉄格子に囲まれ、その上、魔法障壁で覆われている」


 確かに、この牢は簡単に破れそうにない。四方の壁だけでなく、天井や床にまで障壁が張り巡らされている。

 だからって、諦めるにはまだ早い。……ようし……。


「それで? 肩を寄せ合い、泣いているの? はぁ、情けない。こんなだから、この国の女どもは、いつまでも虐げられるんだ」


「リアンシ、あなた何を……?」


「自分たちを、悲劇のヒロインと投影し、嘆き喚いているのね。自分で自分を慰めモノにして。なにが愉しいの?」


「おい新入り。あんた、私たちに喧嘩売ってんの?」


 奮起する者が出てきたな。よしっ。このまま焚きつけてやる。


「あら、あたしの喧嘩を買えるのかしら。涙でマスカラが、顎まで下がってるわよ? お嬢ちゃん?」


「お嬢ちゃんではない。私の名はペルテドル。その生意気な口を、封じるくらいの魔法は、使えるわよ」


「ちょっと、こんな時に喧嘩はやめて。リアンシも謝って。ね?」


 シャーパは、余計なことを言わないでほしい。せっかく、みんながノッてきてるんだから。

 せめて、あたしを集団リンチにするぐらいの気概は欲しいわ……。


「どうせココにいる全員が、旨い話に目を眩ませて騙されたんだろ? お前ら全員、男に依存し、他力に身を任せる性根が、沁みついているんだ……。この尻軽女ども!」


 ゴゴゴゴ!


 おおっ、大気が揺れ出した。これは……来たか?


「私の名は、ルーザー。この女をるってんなら、加勢するわよ。ペルテドル」


「同じく。私は、イティメノス」


「私はフェリエラー」


 いいぞ。怒りが全体に伝播した。さっきまで、メソメソしていた乙女達が、見渡す限り般若に変わってる。


「私は、シャーパ。リアンシ……、例え親友でも、言っていいことと悪いことがある。少しお仕置きをしないと、気が済まないわ」


 あれ? シャーパ? あんたまで般若になってどーする。まあ、いいか。狙い通り、全員戦闘モードになったみたいだし。

 さて、これからが肝心の要だ。


 がばっ!


「なに? リアンシ、今更土下座なんて往生際が悪いわよ」


「そうよ。もう手遅れよ」


「どうせあんたみたいな不細工。女として無価値なんだから、殺しちゃっても平気だわ」


 煽り過ぎたか。予想以上の殺気ボルテージだ。いや、これくらい本気でないと、道など開けない。


「みんな、お願い! その怒りの力を、一度だけあたしに貸して!」


「そうよ! 殺しても平気だわ! 焼き鳥にしてやる」


 焼き鳥? あれ? あたしの声、小さかったかな? じゃぁ、叫ぶように大声で。


「あたしは魔力を持っていない! だから、お願い! あなたたちが協力して、この魔法障壁を……」


「ミンチだっ! 鳥のミンチにして、つくねにしてやろう!!」


「生ぬるいわ! まずは生きたまま、皮を剥ぎ、コイツの口に突っ込んでくれる! ミンチにするのは、その後だっ!!」


「よし! シャーパ。それでいこう!」


 あらまずい。罵詈雑言レシピが激しすぎて、あたしの言葉オーダーが通っていない……。シャーパのが一番えぐいのが気になるけど……いいだろう。言葉が通じないなら、態度で示すのみ――。


 あたしは、全力で床に、額を叩きつけた。


 ガンッ! びしゃっ!


「「「「「!!?」」」」」


 っつ~……。全力を出し過ぎたか。額が割れた。いいや、これでいい。あたしの奇行に、ようやくその場が静まった。


「あたしを料理する為の、憤怒魔法……、一度でいいから、魔法障壁に向けてほしい……」


「リアンシ。まだあんた、そんな無駄なことを……」


「無駄じゃない!!」


「うっ?!」


「無駄なんかじゃないよ……。そして、あんたたちは、無力でもないよ……。みんなが心を一つにすれば、こんな壁、簡単にぶち破れるよ」


「でも、こんな強力な魔法障壁……」


「障壁の、全てを破る必要なんてない。一点に集中し、頭が抜けられる程度の穴が開けられればいいんだ」


「小さな穴……? それくらいなら或いは……。でも鉄格子はどうするの」


「鉄格子は、あたしがなんとかする! なんとかできる! だから、頼むっ!」


「うっ……この眼力。理非曲直などでは語れない説得力がある……」


「わたしなんだか、本当にできそうな気がしてきた……」


「リアンシ……。ひょっとしてあなた、みんなを団結させるために、あんな思ってもない悪態を……?」


「そうか、男に依存する尻軽女って言葉も、私らを独立奮起させるためだったのね?」


 みんなごめん……。そこは本心からだったよ。


「その、悲しくも優しい眼差し……。そうなのね? そうだったのね、リアンシ……。だったら、喜んで力を貸すよ、私の大切な親友。リアンシ!」


 からの痛みに耐えきれぬ涙目まで勘違いしてくれて……さんきゅ……。


「私もだ」


「私もよ」


「私も」


 上出来だ。みんなに沸き上がった攻撃目標は、あたしから、魔法障壁に変わった――。


「それじゃあみんな、いいわね。私たちを束縛する、この理不尽な壁を、憤怒の力でぶち破るわよ!!」


「「「「おーっ」」」」


「それでは、ご唱和ください。……いち、にい、さん!」


「「「「ダアアアアッ」」」」


 ギョアアアア!


 ドレス姿の美しいレディたちが、掛け声を合わせて、色とりどりの攻撃魔法を繰り出した。

 魔法障壁が、まるで水飴のように溶けだし始める。心を合わせた力は、彼女たちの想像を、遥かに超える力となった。


 どろどろ、ぽっか~。


「すごい……」


 開いた。人ひとりが通るのには、十分過ぎる大きさだ。


「ぷはぁっ! もう、限界よ? リアンシ」


「ありがとう、みんな! 後は、あたしに任せて。どおりゃあああっ!」


「はあ? 冗談はやめてよ。あの子、人力のみで鉄格子を曲げる気?」


 ギギギ……。


 鉄格子が軋む音が鈍く響く。


「うそ、まさか、本気で? シャーパ、あの子、何者なの?!」


「リアンシは……。日雇い肉体労働者なの……」


「肉体労働って……、まさか」


「炎天下の環境で、彼女は、鉄骨や岩、土嚢など、様々な資材を、一日中運んでるの。扱いは、それこそ奴隷以下よ」


「それじゃあ、このまま売られるのと、変わらないじゃない……?」


「そうかもね。だから、リアンシがなぜ必死に出ようとしているのか分からない。……でも、これだけは言える。日々の労働で鍛え上げられた彼女の筋肉は、見せ筋なんかとは比べられないほど強力で、しなやか」


 ギギギギ……。


「す、すごい……。鉄格子が、歪んでいく……?」


「うぎぎっ、あ、あたしは、強制労働なんか怖くない……。自由を奪われるのが怖いんだ」


「!?」


「みんなだって……。本当は、そうだろ?」


「「「「リアンシ……」」」」


「うぎぎっ、あたしたちは今……。自由を勝ち取るために……、一致団結したんだ……」


「「「「がんばれ……リアンシ」」」」


 キイィィィィ~……。


「思い知れミカミ!! あたしたちは、無力じゃない!! 心を一つに……力を合わせれば……どんな困難も……突破できるんだ!!」


「「「「がんばれ! リアンシ~ッッ!!」」」」


「どおりゃあああああっ!」


 ぐにゃ~っ!


「「「「すっげーっ! リアンシ~ッッ!」」」」


「やったわリアンシ! あたしたちの前に、道が開けた! 自由への道が!」


「はぁ、はぁ……。ふふふ。ドボジョの力、なめんなよ」


「よし! リアンシを先頭に、みんなで、脱出だ」


「「「「オーッ!」」」」


 みんなは順々に地下の牢獄から抜け出した。しかし、外の世界へ通じる扉の前には、ミカミが立っていた。


「リアンシと言ったな……。只ならぬ眼力だった故、まさかと思えば案の定か……。しかし、この僅かな間に、皆をまとめ上げ、牢を破るとは。驚きを通り越して、感心する……」


「くっ、ミカミ……!」


 一度奪われた自由を取り戻すのは、容易ではない。

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