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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
157/169

#153 変貌の九輪 勇者アイミ4/4

 勇者(笑)の農業魔法、天地返しにより、生き埋めにされた者たちは、モグラ雄一によって、全員救出された。

 そして――。


「麻呂はプロタゴニス皇国、天帝マラセチア・フルフルの子、オツム・フルフルでごじゃる」


「ぼくは、神谷雄一です」


「勘違い。とは言え、君には大変失礼な振る舞いをしたでおじゃる。許してたもれ」


「ううん、楽しかったです」


 雄一たちは、俺たちと共に宮殿に招かれ、サロンで立食パーティをしている。

 しかも、あのブルードラゴンまで……。

 損得勘定のオツム親王。不倶戴天の仇敵でさえ国賓にしやがる。


「ほう。では何かの。雄一君は、救世主の位階にも、その証とされる宝珠にも、興味がないでおじゃるか」


「うん。あのね、ぼくね、アイミちゃんが守れれば、それでいい」


「ほう。見返りを求めぬつわもの……。雄一君はまるで、アイミ君の愛の騎士でおじゃるのお。のお、勇者アイミ?」


「にゃはは~。うれしいでしゅう~」


「おっ、顔が赤いでおじゃるよ? 勇者アイミ」


「あわわ、はじゅかしいでしゅ。しんにょうしゃまの、いぢわる」


「ほ~っほっほっ。天下無双のビッグカップル誕生でおじゃる。ほれ、皆も祝福しよし」


「ほんにめでたいですな親王様。これで救世主決定戦バトルロイヤルも安泰でございますぞ」


「盟約バンザーイ! 共闘バンザーイ!」


 普段は鉄面皮のくせに。雄一の一挙手一投足に、皆が営業スマイルか。

 てか、青っ鼻を垂らして、頬を染めるなっ! 残念勇者! 


「おやおや、雄一君。先程から丁稚羊羹ばかりに手を出しているようじゃが?」


「よ~かん大好きなの」


「ほっほっほっ。甘いものばかりだと、喉が渇くでおじゃろう。何か飲むかの?」


「じゃあ、熱い、お茶ください」


 羊羹に茶を添える。舌が、隠居したじじいだな。


「あたちが持ってくるでしゅ。あたち、ばかでしゅが、お茶を煎れるのは得意でしゅ」


 ウソつけ。ジョウロの水しか、入れたことがないくせに。


「雄一しゃんは、ココで待っていてくだしゃい。らんらん」


 顔をウキウキさせるダメ勇者。解せん……。ハッキリ言って、時間の無駄だぜ。


「あの……、ノープルさん?」


「ぬあ?! アラマンダ」


 花の化身、妖精アラマンダ・ララが、俺に声を掛けてきた。突然有意義な時間がこの俺を襲ってきた!!


「んにゃんでちょうか……」


 しまったあっ! 大事な場面で噛んだぁ! ダサ過ぎる! 完璧でない俺なんか、このまま舌噛んで死んじまえ。


「うふふっ。ノープルさんって、おもしろい方なんですね」


「ア……アラマンダ……」


 疑うことを知らぬような屈託のない笑顔。それでいて、笑みを恥じらうその仕草。その瞳の奥には、王侯貴族が放つ独特の気品を感じる。


「失礼しました。改めてご挨拶を。私、コンス・タカシ・ノープルと言います」


「完璧なる賢者にして、摧龍であらせると、聞き及んでおります。国をお守りする立派な仕事をされていますのね」


「はい。されど、道半ばと知り、学び舎に身を置いております」


「向学心に溢れ、素晴らしいですわ。私は、神谷・ララ・イクソスと申します。どうぞお見知りおきを」


「いやあ~、素晴らしいだなんて……、てっ。今、神谷。と、申されましたか?」


「あ、はい。私は、雄一君と同じ遠い過去から、この世界へ召喚されてきました。あ、でも私は、ロドロス国の出身です。雄一君は更に過去の世界、日本と言う国の……。あら、私ったら。うふふ、分からないですよね、こんな天外話」


「いいえ、解ります」


「あら、そうですか? さすが賢者さんですね」


 神谷&神谷。要するに、アラマンダ・ララちゃんと、クソボケ脳筋雄一は、別世界と思える程、遠く離れた「異母姉弟」の関係なのだ。

 政略結婚の横行する、王侯貴族には、よくある話だ。

 解る。解りますともアラマンダ。


「ところで。ヤシロ・アイミさんには、お母様がおられると、聞いていたのですが。どちらにおいででしょう」


「えっ、ああ。ヤシロ・トモエさんなら、私やアイミの住む孤児院で寮母をされていたのですが、八年前、病気で亡くなりました」


「まあ、八年も前に? 知人(↓アース王)が安否を気遣っておりましたが……。そうですか、それは残念です」


 知人に……。そうか。トモエさんの消息を知るために、俺に声を掛けてきたのか。

 トモエさんが結んでくれたこの縁、無駄にはできないぜ。


「強く優しく美しい。まさに聖母のような方でした。まだ二歳にもならなかったアイミは、トモエさんのことを、ほとんど覚えていないようですが。私にとっては大恩人なのです。先の大戦で両親を失った私を、我が子のように愛しててくれましたから……」


「ノープルさんは、その恩でアイミちゃんを?」


「アイミの親代わりをし始めたのは、確かにそれがきっかけですが……」


「あら、他に何か」


「あの子は先天性の、知能障害を持っているんです」


「まあ」


「あの子は、この厳しい現実社会において、誰かの支援なしには生きられぬ子……」


「そうでしたの。でも、アイミちゃんの幸せいっぱいのあの表情。タカシさんの愛情の賜物ですわね」


「そう言っていただけると、救われます。しかし、義理とは言え、娘に埋められるとは思いませんでした。埋めるなら、せめて死んでからにしてもらわないと。ははは」


「あら、天地返しのことですか? おかしいわ。うふふっ」


 湿っぽい話題から、軽いジョークで笑いを取ったぞ。いい感じだ。この流れから、デートに誘わねば。


「弟君はどうですか? 私のように、扱いに困っておられませんか?」


「弟君? ああ、雄一君のこと? ……そうですね……。彼は至純の白痴ですから……」


「白痴? まさか、弟君も生まれつきの?」


「特別を知らない彼は、無条件に愛をばら撒いて、自らを傷つけて……私に心配ばかりさせる……。けど、私はそんな彼を……」


「そんな、彼を……?」


 がちゃ~ん。


「ん? アイミの奴、こけて茶を雄一君にひっかけたぞ。ああっ、ばかっ。あいつ、使用済みの台ふきでお世話してやがる」


「うふふっ。拭きながら、顔を耳まで赤くして、必死に謝って……。かわいい」


「アイミは弟君のこと、随分と気に入ったようです。そうだ、今度どうですか? 皆でディナーなど」


「……うふふ。そうですね」


 お互いに自然な表情で会話が続く。意気投合とはこのことを言うのだろう。

 俺の斜め下から覗かせる憂いた表情。はにかむ笑顔。困った風に膨らませる方頬……。完璧だ……。


「アラマンダ」花言葉は、「恋に落ちる前の隠された美」……か。素敵だ……。


 時を忘れた俺は、気が付けばブルードラゴンの背に乗る雄一と、アラマンダを、手を振って見送っていた。


「行っちゃいました。雄一しゃん……。ばとるろあいやる? でお会いできる日を、指折り待つでしゅ。らんらん」


「嗚呼、アラマンダ・ララ・イクソス。バトルロイヤル終了後のディナーが楽しみだルンルン」


「あたちたちも帰りましょ、タンチしゃん。らんらん」


「嗚呼。帰ってデートプランを立てねば。ルンルン」


 帰ろうとしたその時、オツム・フルフル親王に、アイミが居残るよう命じられた。

 神谷と共闘する件で、話があるらしい。

 有頂天の俺は、気にも留めず、そのまま帰ってしまった……。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 日も落ちる頃、アイミが帰ってきた。

 朝、出来なかった水やりでもするのだろう。トマト畑へ向かっている。

 そう、思っていたら……。


 ドゴ―ン!!


 アイミはトマト畑に火炎魔法を落とした。業火に包まれるトマトの苗が、無表情のアイミを照らしている。


「ばかっ! 何やってんだアイミ!」


 火を消そうとする俺に、アイミが襲い掛かってきた。

 殺気は無い。しかし、その攻撃は確実に命に関わる威力だ。


「死ね。コンス・タカシ・ノープル」


「くおおっ。魔法はトマト一択のお前が、暗黒魔法だと? ……一体どうしたってんだ。アイミ……?」


 真眼でアイミを覗くと、おぞましい化け物の姿が映る。


「こいつは……蜘蛛……?」


「暗黒魔法。鯨濤霜華」


 ピキピキピキ!


「しまった! 氷に足を取られた!!」


「暗黒魔法。雷帝雄烈斬」


 ザシュウゥ!!


「ぐあああああーっ」

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