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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
155/169

#151 脳菌襲来 勇者アイミ2/4

 俺の名は、コンス・タカシ・ノープル、十七歳。

 プロタゴニス皇国の完璧なる賢者にして、勇者(笑)ヤシロ・アイミの親代わりをやっているハンサムボーイだ。しかし、告白や縁談は全て断ってきた。なぜなら、俺はいつだって完璧にこだわる。理想に対し、一切の妥協はしないからだ。そう。一点の曇りなき人生を歩むため!

 そして今日も、朝からアイミの世話に手を取られている……。


「ごめんなしゃい、タンチしゃん。ごめんなしゃい」


「タンチじゃない。タカシだ! この憃愚勇者!」


「ほへ? トウグ?」


「生まれつきのバカって意味だバカ!」


「ぁぅぅ……。ごめんなしゃい。おふとん洗ってくれて、ありがとでしゅ。あとは、自分で干しましゅ」


 ずるずる、ずるずる。


「バカ! 引き摺ってる! 引き摺ってるって!」


「ほへえ?」


「全く。俺がいないと何もできゃしない……。もう、布団はいいから、そのシミの付いたパジャマ着替えてこい」


「ぁぅぅ、はいでしゅ」


 十にもなって、おねしょとは、情けなくて泣けてくる。

 昨夜、トマトの怪談話をせがまれたから、トマトがカビに侵される「うどんこ病」の話をしてやった。そしら、しこたま怖がり布団へ潜って震えていた。その結果が……コレだ。

 勘弁してくれよ勇者様。


「ほら、飯を食ったら、さっさと学校行くぞ。今日は、完全に遅刻だ」


「でも、とまとしゃんや、小鳥さんの朝ごはんがまだなんでしゅ。タンチしゃん、先に行っていてくだしゃい」


「バカっ。今から、水やりとパンやりをするつもりか? んなことしてたら、昼になっちまうぜ」


「バカでごめんなしゃい。でも、アイミだけおなかいっぱいは、やでしゅ。にゃはは~、とまとしゃ~ん、おまたせでしゅ~」


 ダメだ。本気でダメだ。いくら鍛えようとしても、コイツの頭の中は、トマトでいっぱいだ。


 ヴオオオォォォー、ヴオオオォォォー……。


「こっ、これは緊急警報!? おいアイミ、いつまで小鳥と戯れてんだ!」


「ほへえ? なにがでしゅか?」


「ほへえじゃないバカ。有事だ、有事。大災害か、他国からの侵略を受けたか……。とにかく避難場所の学校へ向かうぞ」


 警報が国中に響く中、俺はアイミを脇に抱える。ええいっ鳥がうっとうしい! 突っつくなっ、俺は、敵じゃねえ!


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 最悪だ。有事の現場は学校だった。


「敵襲! 敵襲! 生徒の皆さんは、教官の指示に従い、速やかに退避行動をとりなさい。繰り返す……」


 この国が誇る、最高戦力が、侵略者排除に全力を挙げている。

 どおどおと、幾重の爆音が、鈍い音で地表を揺らし、捲土が落ち着く間など無い。


「はじめまして~。ぼくは~神谷雄一で~っす。遊びに来ましたぁ~」


 そんな中、自己紹介とは恐れ入る。

 メガロスの犬め……。俺には分る。キサマは、ヤシロ・アイミを潰しに来たのだろう?


「なにこえ……。がっこが、メチャクチャでしゅ」


「いいかアイミ。奴の目的はお前だ。絶対ここから出ずに、隠れていろ」


「いあ! いあ! タンチしゃん……。あたち、こあいよ……。ここにいて?」


「そんなに心配そうな顔をするな。俺は国の敵を挫く、摧龍だぜ?」


 アイミは臆病風に吹かれ、震えている。そうだ。今はそれでいい。

 今は、俺が助けてやれる。


「先生。戦況はいかがですか」


「おお、ノープル君か。見ての通り、足止めはできている。しかし最悪なことに奴は、ブルードラゴンを連れておる!」


「何ですって」


「まさに十五年前の将軍バラダー襲来に同じ。悪夢の再来だ」


「……先生、軍も含め、ここから退避してください……」


「何をバカな。そんなことをすれば、敵が攻勢に転ずるぞ……?! うっ、その目は……」


「遊びに来ただと? 俺を挑発するに、この上ない言葉だ」


「摧龍が動き出す! プロタゴニス軍避難行動! 繰り返す! 全軍避難行動!!」


 約十五年前、プロタゴニス皇国は、オクトスロープ王国と共にメガロス王国へ侵攻。

 これは当時、ブルードラゴン事件で弱体化したメガロスの隙を突いたもので。我が軍は瞬く間に王都直前まで攻め込んだ。

 しかし、メガロスの新型魔導兵器の登場で戦況は一変。膠着状態へと入った。

 そんなある日、おびただしい数のドラゴンが、我がプロタゴニス皇国の空を埋め尽くした。

 ブルードラゴンとの契約を済ませた、将軍バラダーによる無差別攻撃が開始されたのだ。


 国防軍の抵抗虚しく、終戦協定が結ばれた時には、国土の半分が焦土と化していた。

 父は戦死。母は、この街の戦火に捲かれた。

 俺は戦災孤児となった――。


「地獄へ落ちろ。メガロスの糞ども。メテオ・インパクト!」


 溶融した巨大隕石の雨がブルードラゴンへ降り注ぐ。

 校庭中央が、激しい爆音と共に爆ぜ、融解する。


「まさに地獄絵図……。さすがは摧龍、圧倒的な力だ……。しかし相手はブルードラゴン。油断はするな。全軍距離を保ちつつ、魔力を集めておけ!」


 戦闘態勢を取り直す? さすがは歴戦を生き抜いた猛者達。抜け目がない……と言いたいところだが、溶岩の池しか残っていないのに、そんな必要は……。


「ノープル君っ! 何をぼさっとしておる。下じゃ!!」


 ぽこっ。


「なにっ?」


 神谷が、俺の足元に頭をひょっこり出している。 どうやら地中深くへ、逃れていたらしい。おのれその頭、叩き潰してやる。


「あはは~、ぼくは、メガロスの人間じゃないよ? 日本国民なのです」


「プチメテオ!」


 ぼかん! ぼこっ。


「こっちだよ」


「プチメテオ!」


 ぼかん! ぼこっ。


「こっちこっち」


「下らん。モグラのように掘った地下道は、一つに繋がっているんだ。キサマの空けた穴は、墓穴だ。くらえ脳筋! 九頭竜炎舞ヘル・ファイヤ・ブォーテックス!!」


 ボン! ボン! ボボボン!


 一つの穴に苛烈な炎を送り込めば、神谷の空けた全ての穴から、次々と火柱が立ち昇る。ざまあみろ。


「この程度の炎で倒せるとは思っていない。火で追い詰め、頭を出したところを衝撃弾インパクトで仕留める」


 ひょこ。


「もらったぁ。ああん?」


 穴から出てきたのは、神谷ではなかった。少女だ。それも、とびきり可憐な少女。

 その輝くブロンドの髪は、まるで戦場に芽吹く平和アラマンダのつぼみ。


「もー、雄一君。勝手なことされると、守り切れないよ?」


「アラマンダが……、しゃべった? これは、脳筋神谷の擬態能力か……?」


「ぴょ~ん、がしっ」


「ぐは」


「背後から、ノープル君が抑え込まれた!!」


 神谷の両足が、俺の首に巻き付き、締め上げる。さらに手で目隠しをされ、視界を奪われてしまった。

 先生。あんたの判断は正しかったよ。戦場では、一瞬の油断が命取りになる。


「ぼくは、神谷雄一です。あなたは、だあれ?」


「ぐおっ! くくっ、ふがおが……息ができん! し、しぬ~っ!」


「あっ、ごめん。首を強く、締めすぎてたね。あはは~」


 暗闇の中、俺のことは、いつでも絞め殺せる。そう言っているのだな。なかなか高度な脅しのテクニックだ。

 脳筋のくせに。


「ケホケホ。その前に答えろ。キサマの目的はなんだ」


「ぼくは、ヤシロ・アイミちゃんに会いに来たの。遊びに来たんだよ?」


 やはり、目的はアイミだったか。生憎だが、まだその時ではない。


「完璧なる擬態パーフェクト・ミミック!」


 ぼむ!


「わっ、びっくり! イケメンが、かわいい女の子になった」


「何を隠そう、私が、ヤシロ・アイミだったのだ。よろしくな、神谷雄一」


「あはは~、そうなんですね。よろしくお願いしま~す」


 ふっ、ちょろいな。アホ面下げて信じ切ってやがる。


「くんくん……くんくん。でも雄一様、この者からは、雄の匂いしか、しませんが?」


 くぁ、ブルードラゴン。キサマ余計なことを言うなっ。


「うふふ、擬態ミミックって……言っちゃってたしね」


 アラマンダ! お前もかっ!


「ダメだよ二人とも。それは、アイミちゃんに失礼だよ」


 OK! 最重要人物がアホで助かった。


「ぼくは、君がアイミちゃんだと信じるよ? ね? さっきのお兄ちゃん?」


「気遣い上手かっ、この脳筋! まぁいいだろう名乗ってやる。俺の名は、コンス・タカシ・ノープル」


「コンス・タンチ・ノープルさんだね?」


「タンチじゃねえ、タカシだ! まさかお前、アイミと同類ではなかろうな。ぶるる……イヤな予感がする」


「ねえ、タンチさんは背が高くて、瑠璃色の目と髪の毛の、かっこいいお兄ちゃんだね」


「ふっ、おだてても無駄だぜ。メガロスの犬が……」


「ララ姉ちゃんも、そう思うでしょ?」


「うふふ、そうね」


「……あ、アラマンダ……。ホントか?」


 ララと言う名だったのか。……うん。いい名だ。

 アホの神谷へ向けた困り顔、からの破顔一笑。嗚呼、眩暈がするほど魅力的だ。花の精霊が如き可憐なララちゃん。完璧だ……。完璧な女性だ……。

 そんなララちゃん、俺のことを、カッコイイと言ってくれたな……。間接的にだが。


「ぢ~っ……」


「うっ、なんだよ、神谷。俺の顔をじっと見て。気持ちが悪いだろ」


「ねぇねぇ。タンチさんったら、ララ姉ちゃんのこと、好きになっちゃった。みたいだよ?」


 なんて奴だ! この小悪魔キューピット。勝手に代理告白しやがった。ララちゃんが勘違いしたら、どーしてくれんだバカヤロウ!


「あら、そう? うふふ」


 ナイス! それって俺のこと、まんざらでもないってことだよね? なかなか有能なキューピットじゃねえか神谷。

 俺は思う。告白とは、男からするものだと。大事なことだから、もう一度言っておく。告白は、男の仕事だ。

 しかし、焦ってはいけない。紳士たるもの、会ったばかりで告白などしない。

 まずは、誘い(デート)だ。


「アラマンダ……いや、ララさん。今度、ディナーでもご一緒しませんか」


「あはは~。いいね、それ。ぼくも一緒にいく~」


 邪魔すんなっ、このポンコツキューピット! キサマ一体なにがしたいんだ!


「その時は、アイミちゃんも一緒。だよね?」


「はっ!」


 俺は、我に返った。誘惑の鎖を、断腸の思いで断ち切って……。

 ズバリ神谷は、アラマンダ・ララちゃんを餌に、アイミを引き出す作戦だったのだ。俺は危うく神谷の罠に嵌るところだったのだ。

 こんなガキが色仕掛けとは恐れ入る。しかし、他の者は騙せても、完璧なる賢者、コンス・タカシ・ノープルを騙すことはできん。


「キサマ……。このハニートラップで、何人の純真な男を屠ってきた」


「え~っと、言ってることが、分かりません」


「ふっ、蒙稚のフリをしても無駄だ。天と、真眼を持つ俺は、誤魔化せん!」


「うん。確かにタンチさんは、全てを見通すほど、鋭くて優しい、いい目をしているね」


「この期に及んで、まだ誑し込むとは……。覚悟しろ。お前は本気で俺を怒らせたんだ!!」


 脳筋、神谷雄一。

 真眼を使って見たところ、コイツには、有り得ない影がいくつも見える。

 影の正体は、神か悪魔か……。いずれにしても、これまでに出会ったこともない、ヤバイ相手だ。

 それでも、勝つのは、この摧龍、コンス・タカシ・ノープルだ。

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