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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
152/169

#148 幽体離脱 ティアシナリオ7/8

 ディアーナの丘 ティア視点


『ティアも随分成長したし、そろそろ、幽体離脱かな』


『え、幽体離脱?』


『そうだ。ゆ~たいりだつ~……だ。一歩間違えば、あの世へ一直線だが、際限なく、自由に動き回れる、便利な魔法だぞ』


『そんなことしなくても、移動は、通常魔法で自由自在ですけど』


『レッツ、臨死体験!』


『ちょっと、ディアーナ。ガッツポーズ決めてないで、話、聞いてよ』


『ティアこそ、何を言っている。魂魄魔法と通常魔法を今更比較するなんて』


『うっ』


『なーに。危険な魔法に変わりはないが、その肝っ玉なら大丈夫さ。それに……』


『それに?』


『雄一の精神に飛び込むってんなら、幽体離脱くらい朝飯前になってもらわないと……』


『やるわ。教えて』


『クスクス、さすが我が……むす……、んっんっ、弟子だ。親の顔が見てみたい』


『なによ、それ』


 魔女ディアーナが、幽体離脱の仕方を、教えてくれた。

 肉体、器、魂の三位の意志の、安定を維持し、仮死状態を作りつつ、切り離す。

 要するに、自分に内在する魂魄を、一時的に剥離させる自殺魔法だ。


 ディアーナの言われた通りに奇天烈詠唱していると、気が付けば、私は、私の抜け殻を見下ろしていた。


『え……できた……の?』


『いきなりできるなんて、やるじゃんティア』


『ってディアーナ!? あんたって、あたしソックリ!?』


『こらっ落ち着け! ちょっとうまくできたからって興奮するんじゃない。マジで死ぬよ!?』


『いや、あんたの姿に、驚いただけだよ』


『言い訳すんな。幽体離脱は心の動揺が一番危険なんだから。大事なことだから、もう一度言っておく。ココでは精神の乱れは死を意味する。だから虚空白を生ずを肝に銘じろ』


『虚空、白を生ず?』


『虚空とは無念無想。白とは真理を意味する。要するに、何ものにも捉われずにいることが、重要ってことさ』


『はいはい。わかったわよ』


 幽体離脱して見る世界は、目で見る世界とも魂で見る世界とも異なっていた。あらゆるものの色彩が、とても鮮かなのだ。

 これはきっと、臨死体験をした人が見てる世界なのだろう。絶空の果てには、三途の川っぽいものが流れているもの。


『クスクス……しかし、こうも簡単にこなすとは。やはり、たっくんの血を引くだけのことはあるね』


『たっくん? その名前、ちょいちょい聞くけど誰よ』


『誰でもないよ。それより、いいかティア。幽体離脱は、虚空であるだけじゃダメなんだ。ほらほら、何処へ行くつもりだい?』


『え? あれ? 流される。なにこれ』


 驚き戸惑っている場合ではなかった。私は、異次元からの風に揺られ、気を抜くと三途の川の方へ流されそうになる。

 するとディアーナは、私とディアーナの肉体に小さな篝火を炊いた。

 それはまるで命のロウソクのようだ。


『厳密に言うと、ココは第五次元だ。五次元は十次元と隣り合わせであり、十次元へ行くと戻れなくなる。厳密には違うが、要するにココは、この世とあの世の境なんだ。だから、お出かけの際は、自分の肉体に、道しるべを残しておかないと、戻れなくなる』


『なにそれ、コワイ』


『そこで、あの澪標が役に立つんだ』


『みおつくし……。ああ、あのロウソクのことね?』


 二つの澪標を残して、ディアーナに手を引かれ、あちこち彷徨った。

 そこで、ディアーナの言った、際限のない移動って意味が分かった。確かに幽体離脱は自由で便利だ。

 だって、物質に干渉されないんだもの。どんな壁でもすり抜けちゃう。

 やろうと思えば、煮えたぎる地球の中心へだって行けるんだ。

 ホント、幽霊ね。


『ねぇ、ディアーナ。私、行ってみたいところがあるんだけど……』


『クスクス、早速おいでなすったか。あんた、よっぽど好きなんだねぇ、彼のこと』


『あのねぇ、人を淫女と思ってるでしょ。行きたいのは、私の故郷よ?』


『故郷? ……ってソレ、ディスケイニ修道院か?!』


『身寄りのない私を、養女に迎えてくれた。母であり恩師。サルベイション・ディスケイニ先生の所へ……。もう二度と、会うことができなくなるかもしれないから……』


『育ての母か……。そうか……。す、済まなかったな……それは』


『淑女と分かってくれればいいのよ』


『そう言うことじゃ……。なくて……』


『じゃあ、どう言うことよ』


『いや、何でもない。きっとお前の出生は、訳あって預けられた、高貴な血統なのだろうってな』


『んな訳ないし。いい? 私が捨てられた時は、世界大戦中の混乱期なの。きっと口減らしよ』


『……ちゃぅゎ……』


『えっ? 聞こえない。小声漏らして何膨らんでんのよ。ディアーナ』


『……ふん』


 移動中ディアーナに、修道院での暮らしは辛かったんじゃなかったのかと聞かれた。確かに。厳しい躾に、過酷な修行。粗末な食事に、ツギだらけの衣服。正直、良い思い出などない。

 でも、周りの皆がそうだから、貧しいと思ったことはなかった。孤独を感じたことは無かった。少なくとも私は、不幸ではなかった。

 そう答えたが、ディアーナの顔は上の空だった。絶対聞いてなかったよね? 私の話!


『さあ、着いたぞティア。ココがティアの育った修道院だ。ほうほう、豊かな緑に囲まれた豪華なキングビルが並んでいるぞ』


『やっぱり話、聞いてなかったわね。ディスケイニ修道院は、草木も生えない砂漠の真ん中に建つ、朽壊寸前のオンボロ施設。此処じゃないわよ』


『んなこと言っても、見てみろ。門には、ちゃ~んと、神谷立ディスケイニ修道院と……ん? 神谷立?』


『神谷って……、まさか雄一のこと? なんで、あいつの名前が門に刻まれてんのよ』


『落ち着けティア。五次元でそれ以上動揺すると、引き摺り込まれるぞ? あの世へ』


『これが落ち着いていられるか。あいつ、私の知らない間に、何してくれてんのよ』


 サルベイション・ディスケイニ先生の魂が見える。場所は、高層ビル群の中心で、一際目立つ豪邸の中だ。

 入ってみると、イダニコ国のトロル、アルデアもいた。……なんで?

 二人は、部屋で談笑をしている。


「灼熱地獄の砂漠が、まるで麗しのユートピアとなりました。イダニコ国女王、アスカ・ケッツァコアトル様には感謝の言葉もありませんわ」


「謝意は伝えておこう。しかし、聖母サルベイション。これは全て、神谷雄一王婿のご意志によるもの」


「オホホ。でも、未だ信じられませんわ。バラダーを死んだことにして、膨大な資産を移すだなんて。こんな鬼謀文書を作成したのが、まだ十の少年だとは」


 そう言うと、先生は書庫から、二枚の文書を持ってきた。


「フフフ。千里眼で内容を知った我が主も、この文書には舌を巻いておられた。はて……、しかし、二通目があるとは、聞いておらんな」


 私は慌てて一通目の文書に目を通した。

 小難しい法律を並べられていてよく分からない。だが、雄一がバラダーから相続した遺産の全てを、ディスケイニ修道院へ寄付すると言った内容であることは分かった。


 百七十億を超えるキャッシュをポン。あいつ、お金に関しては、相変わらずアホ過ぎだわ。

 どうやらララの金銭教育は、実を結ばなかったようね。


「しかし、さすがは雄一王婿。法律の網の目を突き、バラダーの資産を完全に守られた。この見事な文書からは、大人の狡猾ささえ伺える」


「一見すればまるで、莫大な相続税を免れるための、資金洗浄ですものね」


「むっふっふっ。まあバラダーに臆度なされたのであろうが、全額とは。さすが雄一王婿、器が違う」


「臆度。ですか?」


「別れの日に、バラダーが雄一王婿に伝えていたそうだ。青年期、この修道院で暮らしと教え。聖母サルベイションに、感謝していると」


「まぁ、あのバラダーが、そのようなことを……。彼にとってここは、決して楽園では無かったはず。それなのに……。ああ、修道女冥利に尽きます……。おや、枯れた筈の目に……」


 鬼の目にも涙……。先生の厳しい指導には、私も何度か涙を呑むことがあったけど。感謝しているよ。

 そうだね、雄一。あなたをアホ扱いした私が間違ってたわ。バラダーの資産は、ディスケイニ修道院が受け取るべきよね。


「でもアルデア様。ご寄付の動機は、バラダーへの臆度だけでは、ないようですよ?」


「ほほう?」


「彼は、ティア・ディスケイニのために動いたのよ」


 突如出てきた私の名前。その心の動揺を、十次元の風は見逃さない。


『また流されてる! おいティア。いつもの凄味は何処へ行った!?』


 不安と期待の入り混じる感情を押さえられない中で、先生がアルデアに、二枚目の文書を差し出した。


「ほう。これは……。フフフ、成程。主が一枚目しか、内容を教えてくれなかったわけだ……」


 なんなのよ。二枚目に、何が書いてあるって言うの? どれ――――。


 ◇◆


 でぃすけいに しゅ~ど~いん おんなか


 ティア様を 育ててくれて ありがとうございます

 ティア様は とっても優しくて いい子です

 ぼくは そんなティア様が 大好きです

 およめさんに きてほしいくらい 大好きです

 これからも たくさんのティア様のようなひとを 助けてあげてください


 神谷雄一


 ◆◇


 ――ナニコレ――。


「これは。フフフ、なんともかわいい、恋文ですな」


「オホホ、そうですね。十歳の、子どもらしいラブレター」


 ら、ら、ら……。らぶれたぁ~?


「しかし、駑駿の過ぎる二通の文書。これを同一人物が作成したとは、とても思えませんわ」


「フフフ。いいや、これこそが、私の知ったる雄一王婿だ」


 その後も、先生とアルデアは、多岐にわたる会話を続けた。

 今後もイダニコからの支援は続き、都市化、オアシス化は広がること。

 護衛には、アルデア率いるトロル隊が駐留すること、等々。難民、恵まれない人々救済に向け、何やら、細かいことを話し合っていた。……が、私の耳には何も入らなくなっていた。


『動揺の風に今にも吹き飛ばされそうになってる……。おいっ! ばか! しっかりしろティア!』


『およめしゃん? わたしが? だれの?』


『肝が据わっていると思ってたのに。幼稚な艶書一つでなんてざまだ……。ヤバイ、撤退だ、撤退!』


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


『私の魂は、無事に肉体へと戻った――』


『無事じゃねぇよティア! あたいがいなかったら、あんたマジで、帰れなくなる、ところだったんだぞ!?』


『悪かったわよ。これからは、予想外や想定外にも動じないよう、心を鍛えるわ。虚空白を生ず……だっけ?』


『そうしてくれ。でないと、コッチの身がもたないよ。で? せめて、幽体離脱からの戻り方は、分かったんだろうね』


『ゴメン。澪標とか、ほとんど覚えてないわ』


『だーっ、今日一日、何だったんだ! 雄一って子は、あんたにとって、諸刃過ぎるぅ!』

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