#147 魂魄魔法 ティアシナリオ6/8
ディアーナの丘 ティア視点
魔女ディアーナ曰く。通常魔法は、陰陽エネルギーを具現化するもの。対し魂魄魔法は、魂のエネルギーを操るもの。
魂のエネルギーは、別次元の力。なので、異次元魔法とも呼ぶ。
次元の数は、最大十一に及ぶと言うが、干渉できる次元と、干渉できない次元があると言う。
ディアーナ自身は、五次元まで干渉できるが、六次元以降は無理なんだって。って、どこよソコ。
のっけから理解の範疇を超える。
魔女ディアーナ曰く。森羅万象、ありとあらゆる物質には、大なり小なり魂の器なるモノが内在していると言う。
そして、その器に魂が宿り、生命活動が始まるのだと。
魂は、結ばれた第五、第十異次元空間から、出ては現れ、現れては消える神秘のエネルギーで、精霊の類だそうだ。
そしてこれは、意志に近いエネルギーで、物質ではないと言う。
五次元と十次元の関係性は、試験に出る程、重要らしいがゴメン。ぶっちゃけ、聞き流した。
魂魄魔法の基本は、器への干渉。即ち魂の器をすげ変えたり、変形させることにあった。
マスターすれば、誰かと誰かを入れ替えたり、違う生物やモノに変える。
ここからは、ちゃんと聞いた。だって、基本でできることがヤバイんだもの。
そして上級能力が、精霊との会話。即ち魂魄を直接操ることだ。
誰かから器と魂を抜き取り、傀儡を造ったり、魂を入れ替えて、別人へ変えることもできる。
当然、魂を異次元へと還し、殺したりもできる。
しかも、魂魄魔法は適性の無い者は、防御不能だそうだ。こんな魔法が流行ったら、世界はパニックね。
『魂魄魔法の適性率って、どれくらいなの?』
『あたい以外には、たっくん……んっんっ! この千年では、一人しかいなかった』
目の前が暗くなる。私には、とても無理だ。そう思っていたら、ディアーナの丘に張られた結界を破った時点で、私は適性者なんだそうだ。
ほんと大丈夫? 都合良過ぎない? 買ってもいない宝くじの高額当選とか、補助金やるやる詐欺みたいな不安感が消えないんだけど。
『まぁ、習うより慣れよ、だ。まずは、器を捉える練習から、始めよう』
『お、お手柔らかにお願いします』
『ぽぽぽぽ~、たんぽぽぽ~。ぽぽぽぽ~、はとぽっぽ~……。ほれ続けて?』
『あ。やっぱりするのね。そのふざけた詠唱』
◇◇◇◇◆◆◆◆
ぽぽぽ~を続けること丸三日、やっと花が蝶へと変わった。
『金碧のアゲハか……。う~む、こうも簡単にこなすとは。さすがはあたいのぉ~……んっん、我が弟子』
『簡単じゃないわよ。不眠不休の修行に、ついて行くだけで精一杯よ。それよりディアーナ。花から蝶へと変わった、この命は、どうなるの?』
『は? 何も変わらんが?』
『え?』
『これまで花として生きてきたように、これからは蝶として生きる。ただ、それだけだ』
『まるで別の生物に、変えてしまったのに?』
『生体が置換されただけだ。魂には、何も影響していない』
それだけ聞くと、少し安心した。
でも本当に、それだけのことだろうか。
この行為は、ゲノム・イン・ゴッドを乱用した、かつての人類に同じだ。
なんと罪深き力だろう……。
せめて……。うっ。
せめて? せめてなに? こんな考えは、私の思い上がった正義で、神からすればむしろ卑賤な大罪。そう……そんなことは、分かってる。それでも、こうせずには、いられない……。
『ほう。すぐに復習とは、感心だねぇ……って、ティア? あんた今、詠唱無しで魂の置換をしてなかった!?』
私は、隣に咲いていた花も蝶に変え、放ってやった。
すると二匹は、小さな楕円を繰り返し描き、金と紺を混ぜ合わせながら、どこかへと、飛んで消えた。
雄一……。私は、この身に鉗梏を重ねつつ、あなたに向かって、進むわ。