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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
148/169

#145 胡言乱舌 ティアシナリオ3/8

 アラーフ・タクフィーラ三十四。その若さで魔法界の頂点を極めた男。そして私以外で初めて、魂魄魔法の適正を持つ男。

 それだけじゃない。聞けば、最近、四神青龍をも退けたらしい。本人は、竜王との契約をし損ねたと悔しがりながら笑っていたけど、とんでもない話。

 ……この男、危険だわ……。


 私の身は、いずれこの男によって滅ぼされる。そんな気がする……。


 だったら、られる前にってやる――。


「ぐ~っ、ぐ~っ」


 クスクス……、よ~く、眠ってやがる。日中あれだけ魂魄魔法を使ってりゃ、そりゃあ疲れるでしょうよ。……しかし殿方の寝所へ忍び込み、寝込みを襲うだなんて……、ドキドキ。まるで夜這いね。

 思えば私は、これまでアホな男どもの、度重なる闇討ちを返り討ちにしてきた……。ん? まてよ? 夜這いまがいの夜襲など、やつら下郎のすることではないか。

 月の女神である……、いっいや、気品高き魔女である、この私がすることではないわ。


「夜襲は中止だ。命拾いしたわね、タクフィーラ」


「ぐ~っ、ぐ~っ」


 でも、られる前にる。それは変わらない――。


 ぐつぐつ、どろどろ。


「たっぷりお肉と、季節のお野菜ハーモニー。隠し味にはちょっぴり危険な猛毒を……。うふふっ、名付けて、魅惑の青酸カリ―よ」


 未だに女神と勘違いしてるあの男。昼を馳走してやると言ったら、手を合わせて拝んでやがった。クスクスおばかさんね。

 でも、手料理を男に振る舞うだなんて、初めて……。なんだろう、ドキドキ。胸が鳴る。

 いつも通り、おいしくできたかしら……。料理が下手って思われたら、やだな……。

 ……そうだ、味見しとこう。


 ぱくり。


「うんっ。七種のスパイスが効いていて、ちょっぴり大人の本格カリー。あのブサイくちびるには勿体ない絶品ね……。ぐはっ! うげげっ、本格的な毒が回ってきた! 死ぬっ。死ぬ~っ」


 神経系を侵す、完璧な毒薬に、我ながら感心するわ。急速に体温が失われていく。

 もう……立って……られ、ない……。


 ガタガタ、ガシャーン!


「なんの騒ぎだ? あーっ大丈夫かディアーナ! むっ!? 口元に付いたカレー……。これは、まさか!?」


「……なあんだ、毒殺計画がバレちゃったみたいね。クスクス……ホント笑えるわ。……ほら、あんたも笑いなさいよ」


「何も……言わなくていい……」


「……なんて顔してるの? 早くあたいを滅しなさい……。正義の使者、タクフィーラ……」


「黙ってろ! ディアーナ」


 タクフィーラは、その太い腕であたいを抱きかかえた。すると、いつもの刺激臭が、あたいの鼻を襲う。

 でも、なぜだろう。ちっとも嫌じゃない……。慣れたのかな、それとも、間近な死を前に嗅覚がおかしくなったのかな。それにしても嗚呼、こんな温かいの……初めてだ。


「今、毒の分析している。待ってろ。……よし、わかったぞ! うっ、しかし、これでは……」


「クスッ……。憎悪を練り込んだこの猛毒に、治療法なんて、ないわ……」


「す、済まない……。ディアーナ」


「いいのよ。身から出た錆だもの……。それよりも、お願い。……その腕で……あたいを強く……抱きしめて」


 あたいの最期のお願いを、タクフィーラは、叶えてくれた。彼の胸に包まれた瞬間、全身にビリビリと電流が流れる。まるで、麻酔にかかったように……。なんとも心地のいい刺激だった。


「ありがとう……。もう、思い残すことは……ない」


「本当にごめんよ? 責任。取るから!」


「責任? 何……言ってるの? ……ふぎゅううっ?!」


甘露接吻エンジェルキッス!』


 あたいの小さな唇に、山ナメクジが、ドッキング。

 ナニコレー! あたいってば襲われてるぅ! すまん、とか、ごめん、ってのは、このことかーっ。

 コイツコロス! あたいの初めてを奪いやがって。切り刻んで殺してやる。覚えてろぉっタクフィーラ……ラララ? ちょっと待って? ナニコイツ、何してんの? や、やめて……まさか、このまま大人のキッスをする気じゃ。どきどき……。


体内洗浄ヘルウォッシャー


 うっぎゃあああ! 違った! これは胃カメラ以上の潜航度だ!

 地獄だ、地獄! 助けて! もう、やめてーっ!


朝凪花霞アフターケア


 ほえ……、ほええ~、これは……気持ちいい……。まるで、早朝の新鮮な空気を、胸いっぱいに吸い込んだみたい。


「ぷはっ、はぁ、はぁ。もう大丈夫だ、ディアーナ」


「ふわわ~っ……」


 彼の背中から、手がほどけた。気が付かなかった。あたいは彼の背を、ずっと掴んでいたんだ。

 初キスの余韻って、こんなに凄いの? いいえ、きっと彼のは特別。だよね……。

 しか~し、ソレとコレとは別の話……。さあぁぁて、キスの重罰。どうしてくれようかタクフィーラ……。ただ殺すだけじゃ済まさねえぞ。


「タクフィーラ。よくもあたいを穢してくれたな。これでも、私……。初めて……。だったのよ!?」


「ああ、知っている。月の女神は、純潔貞節の女神でもある」


「ああん? あんた、まだそんなトチ狂ったことを……?」


「だからこそ覚悟は決めている。何でも、好きなことを命じてくれ。死ねと言うなら、自刃する」


「え?」


「これが、わしなりの、責任の取り方だ」


 あり? 何この展開。結果的にはあたいの思う壺になっちゃった。

 クスクス。コイツ、本当に底抜けのおバカさんね。

 ならばアラーフ・タクフィーラ。あんたの望み通り、あたいは月の女神になってやる。

 そう思い込んだまま、満足して死ぬがいいさ。

 え? なに? 医療行為は仕方ない? 恩を仇で返す気か? んなもん関係あるかい! あたいは、泣く子も黙る、冷酷非道な魔女。ディアーナよ。


 しかし、それにはあたいの謀略が、相手に悟られぬようにして、おかねばならないことが、あることもある。もじょもじょ……。


「どうしたんだ? ディアーナ。少し顔が赤いようだが……」


「ねえ、たっくん……」


「たっくん? わしのことか?」


「たっくんには、大切なひとは、いないのか?」


「大切な人? ああ……。生憎、両親は他界した」


「まあっ!」


 それは大変失礼なことを……って言うかボケ! てか、生憎ってなんだ。両親ご存命の場合、それをあたいが慶ぶとでも? 勘違えるのも、いい加減にしろっ。

 おっと、いかんいかん。本性が悟られるぞ。女神、女神っ!


「ぅっ、ぅぅぅっ……。好きな人……、心に決めた女性は、いないのかと聞いてるんだ」


「そうだな、わしにとって女性とは、星に同じ……。数多に美しく輝くが、決して手には届かぬもの」


「まぁっ!」


 ロマンチックな答えねってバカ! あたいに対して手はおろか、唇が届いてんじゃねぇかっ!

 待て、落ち着け。少し攻め方を変えてみるんだ。

 こちらの謀略が、気付かれてはならん。あくまでも女神! 女神の笑みでっ……。


「いい? たっくん。純潔の女神が愛せる男は、生涯に只一人だけなのよ」


「え、あ……ああ分かっている。誠に申し訳ない。どうすればいい。今すぐ死のうか?」


「なぁぜ、そうすぐ死にたがるっっ!」


 全っ然、分かってない! これだけ攻めても伝わらないなら、具体的に言ってやる。

 あくまで、こちらの謀略を懐中に隠匿して……。女神! め~が~み~で~ぇ……。


「つまり、あたいが愛せるのは、この世にたっくんしかいない。と言うことなんだ。その意味が分かるか!」


「分かる! あたいってば傷物にされて、もうお嫁に行けない! と言うやつだ。わしは取り返しのつかぬことをした。重ね重ね謝る。すまん!!」


「ちゃうわっ!」


 鈍感、鈍感、鈍感! でも、あたいにだって、女の意地がある……。

 告白するのは、絶っ対! そっちからなんだ!!


「あたいを好きになって欲しいって、言ってんのよっ!!」


「えっ?! ディアーナ……?」


 しまったぁっ! 口が、ドン滑りしたぁ~っ。

 アホかあたいは。これじゃあ、あたいが全力で惚れてるみたいじゃないかあっ!


「ぅぅぅ~っ……」


 やばい……恥ずかしい。顔が、熱くなっていくのが、分かる。

 そうだ。バレないよう、前髪で隠しとこ。さり気なく、さり気なく……、よしOK。

 なあに、こいつは筋金入りの鈍感男だ。今回だって、分かっちゃいない。きっと華麗にスルーするさ。


「ディアーナの顔、真っ赤だ。て、ことは、君は本当にわしのことが、好きなのか?」


 バレてるーっ! さっきまでの鈍感力はドコへ消えたぁっ?!

 もうヤダ。もう出てくっ。こんな丘、出てってやるぅっ。


 逃げるように背を向けると、たっくんは、あたいの肩を掴んで無理矢理向き直した。

 あたいの顔を見つめるたっくん……。

 恥ずかしすぎて、もう目も合わせられない。くさい! ブサイク! キライ! 大キライ! 大大大大……。


「好きだ」


「ぅぇ?」


「わしの方がもっと好きだ。ディアーナのこと、大好きだ! 大大大大……大好きだ! わしなんかでよければ、一緒になって、くれぬか!」


 ニッタ~! やったー! 勝ったー! 告白させたぞっ!! 騙されやがってタクフィーラ! 単純すぎて、超イキル~!

 あたいは女神でも天使でもない。情の欠片も持ち合わせぬ、魔女なのにっイェィッ!


「あのう。ディアーナ……? 返事……は?」


「……はい。……喜んで」


 そう答えると、たっくんの顔が、笑みで崩れた。よ~しよしよし、騙されてる、騙されてる。クスクス、クスクス……。

 おおお? どうしたたっくん。急に顔を青くして俯いて。なんだなんだ? あたいに、何か不満でもあんのか?


「あはっ、なんとも、嬉しいな。しかし、わし、これまで、好意を持った女子と、手を繋いだ、経験すら、なくて……」


「たっくん……。あなた何を言って……?」


「その、なんだ? 世に言うアレだな? 異性交遊……ってもんの、経験がな? あはっ……。男らしく、リードしたいのだが。はてさて、これからどうして良いものか、見当もつかなくて……あれ? ディアーナ?」


 クスッ。なるほど、そう言うことか……。そう言うことなら、まぁなんだな。特別に、少しだけ、くれてやってもいいな。

 頑張って告った、ご褒美を……。


「ディアーナ。顔が、近っ……むぐうっ」


 今度はあたいから、山ナメクジに向かっていく。


 クスクス。たっくんったら、お日様みたいに顔を真っ赤にしてやがる……。


「ぷはっ! はぁっ、はぁっ。ディアーナが……。ディアーナが……。こんなわしに、愛を……?」


「クスッ。クスクス。クスクス、クスクス」


 高潔なあたいを穢したコイツは、一生騙し続けて、人生を滅茶苦茶にしてやるんだ。死ぬまで、月の女神を演じてやるんだ。

 そんなことにも気付かず、おめでたいやつめ。


 超イキル~。クスクス、クスクスクス――――。

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