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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
147/169

#144 魔女と魔導士 ティアシナリオ2/8

 ディアーナ視点


 暗い。あたいの世界は闇に包まれている。

 あたいは魔女ディアーナ。

 自分の、たった一つの願望を叶えるために、この身の全てを捧げた女。

 自ら光を、捨てた女。


 たっくん……暗いよ。寒いよ。寂しいよお。……だれど、後悔は、微塵もないよ。あたいには、あの子がいるのだから――。


 ん? 誰かやってくる……。封印に近い、この強力な結界を抜けられる者など、この世に一人しかいない。あたいの待ち人……たっくんだ。


『……たっくん? 会いに、来てくれたの?』


「うわっ、心に話かけてきた。キモイよ~」


『たっくんじゃない。ダレだ、キサマは……』


◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆

◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇


 六十年以上前、この丘に、濃紺に染まる荒々しい髪をなびかせた男が、あたいを討伐しにやってきた。

 いばらの様に、棘だった太い眉毛の下には、力強くも優しく光る二重の瞼。高い鷲鼻。口元はローブで見えないが、無精髭が覗くワイルドな顔立ち。スラリと伸びた肢体は、分厚いナチュラルな筋肉に覆われていた。

 簡単に言えば、あたい好みの激渋細マッチョだ。


「魔女ディアーナとは、お前のことか」


「クスクス。あんたいい男だね。お前も、あたいの傀儡コレクションに、加えてやろう」


 あたいは挑発するように、過去の「いい男」で作った傑作群を見せてやった。そうしたら、激渋オヤジ、ブルブルと肩をふるわせていたわ。


「なんと惨い……。貴様はそうやって、何人の罪なき民の、生き血を吸ったのだ」


「クスクス、おバカさんね。コレクションに入れてもらえるのは、ほんの一握り。その他おおぜ~は、もれなく大地の一部となるわ」


「なんだと?!」


「例えば、あなたの足の下。そこは二カ月前に現れた、勇者を語る御一行でできた地面よ? ほら、よっく耳を澄ましてみて? 聞こえない? ニセ勇者の呻き声が」


「くっ、人間を大地に変えるとは。これが噂の魂魄魔法か……」


「クスクス、深い眉間のシワ……。怒った顔も、ス、テ、キ。あたい、ゾクゾクしちゃう」


「くたばれっ! 魔女ディアーナ!」


「さあ、仕事だよコレクションども。あの男を捉えておしまい」


 ◇◇◇◇◆◆◆◆

 バトル開始から五時間経過……


 ちゅど~ん。ぱらぱら……。


「くぅぅぅ! なんと苛烈な……。魔女ディアーナ。噂以上の強さだ」


 しぶとい……。なんなのこの男。防御も攻撃も、とにかくネチっこい。あ~、やだやだ、中年オヤジの悪い所が出てる。見た目はタイプだったけど、中身はサイテー。

 てか、コイツ、筋骨隆々で武闘派だとばかり思ってたのに、チョー魔法使い。しかも、これまで出会ってきた中で、一番の使い手だわぁ。うっざ~い。


 ぴぅぅっ、はらり……。


 と、ここでオヤジのローブがはだけ、隠れていた口元が、露になった。その容姿に衝撃が走る!

 それは、分厚過ぎの唇。たらこ唇どころじゃない。肉厚すぎて、縞模様の亀裂が入る山ナメクジが、顔の均衡を全て台無しにしている!


「おええっ! こんなナメクジ要らないっ!」


「ナメクジ?」


「め~ら、めらめら、め~らめら。ほのうにおどれ、め~らめら。えっさ、ほいさっ……」


「魔女の詠唱か……。うっ、なんと美しい歌声。まずいっ、思わず聞き入ってしまう!!」


猛炬魂剥輪舞もうきょこんぱくろんど


 メラメラメラ!!


「しまったっ! 猛炬に巻かれてしまったっ! だが……。なんの、これしき……。土に変えられた善良な人々が、今なお味わう、苦痛に比べれば、どうってことないさっ!」


「くっさ! セリフがいちいち臭すぎる。にしても、猛炬魂剥輪舞まで効かぬとは……」


「この魂、燃え尽きるまで、わしは決して諦めんぞ!」


「炎を纏って、まだくっさいセリフ吐いてやがる。ええいっ!! 二度とあたいに近づくんじゃないよっ、ぴ~ぷ~、ぴ~ぷ~、とんでいけ。おやまのはてまで、とんでいけ。ぷ~っ……」


「ううっ! 美しいうたごえ……」


「颶風茜雲!」


 びゅおおおおおっ!!


「ぐわあああぁぁぁっ」


 ぴゅ~ん。


 面倒くさくなったあたいは、コレクション諸共、その男を吹き飛ばしてやった。

 ざまあ見ろってんだ。ばいば~い。

 ようやく丘に静寂が戻り、ほっと一息付くと、あたいの嗅覚が異臭を感じ取った。


「くさっ、くっさぁっ! この匂いは、あいつの体臭だ! 臭いのはセリフだけじゃなかった! もーサイテー。さっさとシャワーでも浴~びよぉ~っと」


 いくらシャワーを浴びても、あたいについたあいつの体臭は、三日も続いた。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 平穏で静かな、変わらぬ日常が戻った。そんなある日のこと、またあの悪臭唇オヤジが現れた。もう、うんざりだ。


「二度とあたいの前に、ツラ見せるなと言ったのに……。体臭を付けられる前に吹き飛ばしてやる。ぴ~ぷ~、ぴ~ぷ~……」


「うううっ、美しい歌……。はっ、いかんいかん! 待ってくれディアーナ! 誤解なんだ!」


「誤解?」


「まず、聞いてくれ。わしは、一緒に吹き飛ばされた、傀儡と土から、肉体と魂を開放することに成功した」


「なんだと? マジか」


「マジだ。今ではニセ勇者も元気いっぱいだ」


 いやいや、どう考えてもハッタリだろう。魂魄魔法は、どの魔法属性にも該当しない異次元魔法。うっ、まてよ。そう言やこのおっさん、その魂魄魔法を何度も防いでいたな。


「でも、まさかっ。そんなこと、ありえないっしょ」


「いや。どうやらわしも、魂魄魔法の適性者だったらしい。て言うか、練習の結果、この大地に封印された人々を、開放することだってできる。だから復活させても、いいか?」


「うぅっ、ちょっちょっと待て。あたいの頭が整理できてないのに、話を進めるな……」


「そうだな。話したいことは他にもあるのだ。……わしは、あんたのことも調べたんだ」


「え? あたいを? なんで……?」


「あんたの、余りに特異な出生秘話。理不尽な生い立ち。壮絶な争いを経ての孤独! ……そう孤独! あんたの人生は、孤独の一言に尽きる」


「孤独の一言? あたいは、物心ついた時から一人なんだ。んなもん苦じゃねぇよ」


「マジメな話だ。最後まで聞け!!」


「ぅぇ? はい……」


「解放した男達からの話、古い文献と言い伝え……。そこから導き出された結論はこうだ。あんたは魔女なんかじゃあない。月からこの大地へ舞い降り、竹から出でた、女神だったのだ」


「ふえ? んなあほな。真面目な話じゃなかったのか?」


「成長したあんたは、その美貌を時の権力者どもに狙われ続けた。そして、とうとう育ての親から離れ、この丘へと逃げたのだ」


「ふええ? あたいはただ、風光明媚なこの丘が好きで……」


「そう、その通り! ここは、あんたがやっと辿り着いた、安息の地だったのだ。それでも、襲撃する下衆どもは、後を絶たず……。それで、封印していたのだな? やむを得ず……」


「それのどこが、その通り! よ。全然、分かってないじゃない」


「優しいディアーナ。罪深き人間ゴミすらも、殺めることができず……」


「優しい? このあたいが?」


「だが、聞いてくれ。多くの者は、誤解や命令によって封じられた人々だ。そんな彼らを、わしは開放してやりたい」


「ちょっと、その勘違い。一体どこまで続けるつもりよ……」


「ディアーナ、お願いだ。わしが人々を開放する間、ここに住ませてほしい」


「にゃにっ? ココにしゅむ?」


「マブロフイスイの国王にも、話は通してある。人々を解放すれば、今後、討伐隊がここへ来ることはなくなる。どうだ? これなら、あんたにとっても悪い話ではないだろう?」


「あたいとココに住んで……? うそ……でしょ?」


「大丈夫。わしはあんたを傷つけない。誰にも傷つけさせない。嘘ではない。約束する。だから、頼む。ここにいさせてくれ。月の女神。ディアーナ」


 凛然とした怜悧賢者かと思ったら、大間違い。こいつ、おつむのネジが、何本か、ぶっ飛んでんじゃない? 古い文献で、あたいを調べたって言ったけど、それって御伽草子「かぐや伝説」でしょ。


 でもまぁ、土塊に変えた人間どもに興味はないし、定期的に現れる討伐隊には、正直うんざりしてる……。


 あ~、考えんの、めんどくさ。もー、どーでもいいや~……。


「はあ……。好きにすれば……」


「本当かっ! やっぱり思った通りだ。やっぱりディアーナは、優しい女神様だったんだぁ」


 ちげーよ、ば~か。

 ああんっ? 馴れ馴れしく、両手を握ってきやがった。

 懐くな、懐くな! おっさんが子どもみたいな笑顔を、向けてんじゃねえよ。


 ……と思ったら、早速、大地へ向かって魔力を集め出した。

 割と切り替えが早いな。

 カス共の開放を許したんだ。もう少し、具体的な感謝を受けても良かったのに……。


「それにしても、凄まじいな。それが人間の魂を、開放する術か……」


「ああ、そうだ」


「……で……。名は、何という」


「ああ、この法術。燐火幽剥離と名付けた」


「ぅっ? ……そうか。いい、名、だな……」


「へへへっ」


「……で?」


「ん?」


「ぅぅぅ……で、お前は?」


「わしが、どうした?」


「ぅぅぅ~っ……、しばらくココに住むんだろ? だったら、お前! や、あんた! では……」


「ああ、わしの名を聞いているのか……。あれ……。もしや、最初聞いたのも、術名じゃなく、わしの名を……?」


「ももも、もういい! 別に知らなくても、どうでもいいし! お前みたいな山ナメクジ、名前で呼ぶ機会など、ないし! だけど、それでも……」


「タクフィーラ」


「えっ」


「わしは、マブロフイスイの魔導老師。アラーフ・タクフィーラだ」


「ぅぅぅ……。いい、名だ……」


「へへへっ」

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