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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
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第七章 感染馬鹿発 #134 就活 シゲルシナリオ1/6

◇大魔王ゼクス視点◇


 魔王国、アルヒネロミロスの地は、先の大戦でその領土を大きく広げた。しかし、その代償に、国は勇猛魁悟な父を失った。


 しかし超大国となった魔王国。余は父の跡を継ぎ、この国を統治し始めた。


 しかし残念ながら余は、権柄の才に乏しかった。

 先代魔王の威光をかざすだけの庸暗。

 影では、小魔王と呼ばれていたことを知っている。


 人心を惹きつけるカリスマが欲しい。神をも超越する圧倒的な力が欲しい。そして誰もが平等に絶望できる暗黒世界を開きたい。

 しかし、余の描く理想は、所詮、絵空事。現実は余りに厳しかった。

 いくら憎しみを焚きつけても、暴力は続かず、必ず秩序が生まれる。

 いくら闇を落としても、時が経てば光が差し込むのだ。どこからともなく。


 なんと忌々しいことか。このままでは、いずれ魔王国は滅ぶ。

 余は力を求めて世界を回った。

 そして、北方極限の地でアバドン様に出会った。


 怒りと憎しみに包まれ、恐怖と絶望を振りまく、滅ぼす者。まさに、理想の邪神。

 余は、アバドン様に忠誠を誓い、その見返りに、強大な力を貰った。

 能力値アベレージ五百万! それからは、とんとん拍子。側近や権要は無論。余の評価は、瞬く間に変わった。


 しかし、関係を続ける中で、余とアバドン様との理想には、決定的に違いがあることにも気が付いた―――。


「現世と、異空間を一つにし、新世界の扉を開く……ですか?」


「そうだ。全次元を一つに集約し、無の世界を創るのだ」


「無……、ですか? 悪が善を支配する、ヒャッハーな世界じゃなくて?」

 

「大魔王のくせに、何を寝ぼけたことを。善悪など許さぬ。光を消せば、闇も認めね。生と死の境すらない完全なる無だ」


「あのぅ……。その完全なる無の世界、いくら何でもやり過ぎかと。そもそも何の為か分かりかねます」


「それが、我が、アバドンとして生まれた瞬間に芽生えた本能だからだ……」


 ちょっと、いやだいぶ理解に苦しむ。

 余はただ、皆が憎しみ合い、奪い合い、殺し合う。そんな、緊張感と充実感を持った日常を、作りたいと思っているだけなのに。……どうやら、仕える主人を見誤ったらしい。


『……サミ……シイ……』


「え? 今、何と?」


「?? ……何も、口にしておらぬが?」


 寂しい……。確かにそう聞こえた。

 だとすれば先程の言葉と、まるで矛盾している。

 そう。それはまるで、強く愛を求めるあまり、相反する行動をする駄々っ子のよう。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆

 

 邪神アバドン。これ以上、深入りせぬ方が良い。しかし、放っておいても、傷が癒えれば復活する。それももう、間もなくのこと……。


「仕返しされんの嫌だしなぁ~。やっぱ、付かず離れずの距離を取んのが一番かなぁ~」


 力を貰ったあの日から、胸に何かがつかえたように、もやもやとする。歳、かな……。


「クックックッ・キイテイタ・ハナシト・インショウガ・スコシ・チガウナ……ゼクス」


「ギクッ!」


 余の座る玉座に、アダマンタイト製のパンダが肘をついて、もたれかかっている。

 そして背後の壁には、見覚えのない穴がポッカリ開いていた。

 

「何だ、貴様は!!」


「ノウキン・カミヤノ・ボウエイシステム……ソウイエバ・ハナシガ・ハヤイカナ?」


「ディーのヤツ、しくじりおったか」


 考え事をしていたとは言え、声を掛けられるまで気付かなかった。

 余は、咄嗟に拳を振り上げたが、その手首を掴まれてしまった。

 やはり、かなりの手練れ。


『この力……、五百万で返せぬとは……』


 凄まじい力で手首が捻られた。マズイ、やられる。


 ちゅっ。


 パンダは、余の手にキスをした。


「はぁ?」


 そのまま頭を垂れて片膝を着くパンダ。何の真似か見当もつかない。


「オレノナハ・シゲル……マズハ・ミヤゲガワリニ・オモシロイ・モノヲ・ミセテヤロウ」


 そう言うとパンダの目と口から、音声付き立体映像が飛び出した。

 一人の少年が、洞窟を彷徨っている。


「こいつは……脳筋神谷か」


「コノエイゾウデ・カミヤノ・ノウリョクガ・ワカルハズダ・ソシテ・オレガ・ココヘキタ・リユウモ・ナ……」


 ヘビに睨まれたカエル。完全に主導権を握られた。


 ◇◇◇◇◆◆◆◆


 神谷雄一。思った以上に厄介な敵だ。

 魔力がゼロの筈なのに、雷電と言う雷系の能力を使っている。この空間把握能力など、並みの魔法ではないぞ。

 しかし、それとは別に、違和感を覚える。神谷に関わった連中……。まるで、神谷に憑りつかれたかのように変化している……?


「オイ・ゼクス・テメー・チャント・ミテルカア? ココカラガ・イッチバン・ジュウヨウ・ナンダゼ?」


「ムカッ! 余は大魔王だ。口を慎めカチカチパンダ!」


 映像の神谷は、図書室で、分厚い書物を開いて、手紙を書いている。

 その横ではシゲルが、モフモフだの、エロだのと、クソの役にも立たないことで騒いでいる。


 ところで神谷は、一体何の本を開いているのか……。うっ、これは、各国の法律全書。ガキの読むような本じゃねえぞ。で、書いている内容は……相続に関する内容。ふむふむ、バラダーの遺産……。ん? 多国籍の地方銀行を複雑に経由して……? 修道院に寄付?! このガキ、まさか、メガロスの莫大な相続税を免れるために、マネーロンダリングをするつもりか!?


 へらへらとした表情で、法的効力を持つ公文書を作成しきる神谷。

 法の専門家でなければ、とても真似ができる芸当ではない。


『わーい。おてがみ、できたー』


 神谷はそう言って、二通の文書を封入した。見た目は、あどけない子ども。それ故に、悪魔じみた不気味さを、感じる。


 まさか……。神谷の最も強力な武器は、この非凡な頭脳か……。と、ここで図書室に、ドラキュラのディーが現れた。


 ディーは以外にも、神谷相手に善戦していた。しかし、このパンダに無茶苦茶されてしまった。


「……なるほど。ディーをおなら扱いした挙句、ココへ案内させたって訳か……」


「ドウダ・ワカッタカ?」


「ふうっ、まあな。ステータスカードを無視したその強さ。まさに、伝説の鬼神、オーガに相応しい少年だ」


「ソウイウコトダ……ガ・シカシ……モウヒトリ・イタダロ? スクッテヤルベキ・アワレナ・オトコガ」


「ふうっ、まあな……。ディーには苦労させた。後で、労ってやろうと思う」


「ソウイウコトダ……ヨカッタナ・ディー・シンミリ……ッテ・チガウ・チガウ!」


「なんだ? 違うのか?」


「オレダヨ・オレ!」


「はぁ? 貴様が? 救われるべき男だと?」


「オレガ・ココニキタリユウガ・アッタダロ? タップリト!」


「そんなシーン、あったっけ」


「カーッ・アレホド・ヨクミトケト・イッタノニ……」


「少し思い出す。待ってろ」


 雄一の防衛システム、シゲル。チェダック製のハイテクマシーン。

 余を力で捻じ伏せ、ディーの不定形能力さえも封殺する分解、再構築能力。そして、この音声画像の記録機能……。


「うーむ、分からん」


「マジカ・セッカク・ココマデキタノニ……」


「分からんなぁ~。まさか裏切るなんてことは、ないだろうし……」


「ピンポンピンポーン・ソノトオリダヨ~ン……ヨカッタ~・ワカッテモラエテ」


「うそっ、冗談だろ?! 神谷は、嫌われ者の貴様クズを、唯一認め、可愛がっていたんだぞ?」


「ダッテ・ユウイチッテバ・オオカミオンナ・イッピキ・ヨコサナカッタ・ダロ?」


「狼女? ああ、そう言えば、そんな下りがあったな。ムーンをくれ~、ムーンくれ~と、腐った男のように……、それが、どうした?」


「オンナヲ・モフモフ・シタイトイウ・セツジツナルネガイ……ソレヲ・ユウイチハ・フミニジッタ……ガ・ガガガッピー!」


「女を、もふもふ? ちょっと待て、シゲル。まさかキサマ、そんな不埒な理由で、主人を売る気か!」


「オレハ・カンジョウノナイ・ロボットトハチガウ……ナカミハ・タダノ・オッサンダ」


「中身はおっさん? ソレじゃあ、余計ダメだろ」


「ソレナラ・テイセイスル……ミズシラズノ・オンナニ・イノチヲカケル・オロカモノ……ソウ・ヨンデクレ」


「無理矢理カッコつけてもダメだ。このエロオヤジ」


「エロオヤジカ……フッ……イインジャネェカ? オトコハソレデ」


「はいはい。もう十分理解した。貴様は信用に値する者ではない。この場から、早々に立ち去るがよい」


「シンヨウ?……クックックッ・ジブンニ・ウソヲツキ・ゴマカシテイルノハ・オマエダロ? ゼクス」


「なにぃっ?!」


「オマエノ・カラダニ・ササッタ・トゲ……ソレハ・ホントウノ・チカラジャ・ネェゾ」


「ぎくり。貴様、余を分析したな?!」


「ズイブン・ムシバマレテイル……コノママジャ・オマエ・スウネンモタナイゾ」


「余命数年? しかし、魔王国をまとめるために、この力を失う訳にはいかぬ」


「チカラナド・オレガ・ナントカ・シテヤルヨ」


「ぅっ……?」


「コンナバカ・ミチマッタラ・ホットケネェジャネェカ……」


「まさかお前、余を、助けてくれるのか……?」


「オマエヲムシバム・アクダマキンハ・オマエヲマモル・ゼンダマキン二・カエテヤル……イマ・スグニナ」


「シゲル……君」


「イキロ……トモ・ゼクスヨ」


「シゲル君!」


 初めてできた余の友は、邪悪な力を聖なる力へと変換してくれた。

 胸のつかえが取れたように晴れやかな気分だ。


「トコロデ・ニサン・オネガイガアルンダガ……」


「何でも言ってくれよ。シゲル君」


 余は友に、資金と役職を与えてやった。友の望むがままに。

 すると友は、「サッソク・シゴトダ」と言い残し、夜の街へと消えてしまった。


 よし決めた。アバドンとは、次を最後に、手を切ろう。


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