表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋だもん  作者: 妖狐♂
133/169

#132 剛毅果断

 刺客ディーが、シゲルに、とっちめられていた頃。

 ティアの部屋に、ララとムーン、そしてプルゥートが集まっていた。


「どうして、そーなるのよ。わうう~っ」


「だから、このままだと、雄一が殺されちゃうのよ」


「未来が見えるなら、ムウみたいに、すればいいじゃない。何でもできるんでしょ?」


「予知夢って言ったでしょ? 自分の意志なんて関係ない。見える未来も、場面も、バラバラなのよ」

「今回だって、雄一が、おなかに穴を開けて帰ってくる未来を見抜けなかった。微妙で、お粗末な能力なのよ」


「だからって、どうして私たちとサヨナラするのよ。くぅ~ん、くぅ~ん」


「泣かないでよ。サヨナラじゃないわ。雄一を助ける方法と、力を手に入れたら帰ってくるわよ」


 ペタンと女の子座りをして、泣きべそをかくムーン。ティアも、泣きたい気持ちを、我慢している様子だ。


◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆


 ティアは、ゲノムインゴット後に、決まった夢を見るようになった。

 その内容は、多岐にわたるが、大きく二つ。

 一つは、守天と名乗る、七本角の鬼に、雄一が殺される夢。

 そして、もう一つは、ティア自身が魔女の元で修行を積んでいる夢だ。


 夢は、雄一を助ける鍵が、ティアにあることを暗示していた。


 しかし、この夢、ムウによって仕組まれた、見させられている夢であることは、明らかだ。

 ティアは、帰国後、猜疑心に囚われながらも、バラダーの遺言書を利用して、その後釜を、アトラスに引き継がせた……。そう、全ては、ムウの思惑通りの行動だ。

 そのことに気付いていても、ティアは、そうせざるを得なかった。


 そんな中で、ティアに、トドメの情報が入る。

 それは雄一の裏ステータス。

 そこには守天の文字。悪夢で知り得た、雄一を殺す鬼の名前。

 悪夢は、やがて来る現実だ。ティアは、そう確信した。


『ククク、怖いかティア? 恐ろしいか? ティア』

『さて、どうする? 自分で決める、と、豪語していたティア』

『おや、どうした? 好きにすればいいじゃないか。全てお前の自由だ。ククク……』


 ムウから、そう笑われている気がした。


 悩むことすらできなかった。気が付けば、ティアは、ラークを神殿へといざない、自身は、メガロス王国に、辞表を提出していた。


◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆


「本当は、黙って旅立とうと思ってたわ。自分の決意が揺らぐのが怖くて」


「そんな寂しい決意、揺らげばいいんだ。そんな悲しい決意、消えちゃえばいい! ずるずる」

「そうだ! 私も魔女の所へ行く。ティアと一緒に行く! ずるずる」


「そうは、いかないわ」


「なんでよ! 雄一様の敵は私の敵だ! 私も鬼と戦う! 私も魔女の修行を受ける! ずるずる」

「ティア一人に手柄を取られてたまるか。これで、いいでしょ? ティア。ずるずる」


 ムーンは垂れ下がる二本の鼻水を何度も啜り上げ、ティアに食い下がる。


「それが、できるなら、苦労はしない。でも、守天雄一は、神谷雄一の中にいるんだ」

「二人の精神世界へ、どうやって辿り着くつもりだ」


「そんなもの、気合で何とかなるわ」

「ララちゃんだっている。新参者だけど、駿竜も仲間になった。皆が力を合わせれば、地獄でも、天国でも、どこへだって行けるわよ!」


 ムーンは如何なる説得も受け入れるつもりなど無い。毛頭ない。目が本気だ。本気でムーンはティアについて行く気だ。


「力を合わせれば、何処へだって行ける……そうね、或いはそうかもしれない」

「その言葉、何よりとても勇気づけられる」


「そうか、だったら話は終わりだ」


「でも、やっぱり、それはできないんだ、ムーン」


「なんでよ」


「私が、魔女の元で修行を積む間、雄一には雄一の、ララにはララの、なすべきことがある」

「そして、ムーン。それはあなたも……」


「なによ、それ」


「あなたの夢も、少し見るのよ」

「とても大きな、ドーベルマンのような怪物犬。それと、あなたが対峙している夢」


「うっ!」


 ティアは、過去視でムーンの過去も知っている。当然、夢に現れたドーベルマンの正体も。


「あなたは、あなたで、自分のなすべきことが、あるんじゃないの?」


「ぐるる……」


「ゲノムインゴッドで得た力。それを使う場所を、あなたは、知ってるんじゃないの?」


「がううう……」


 ムーンが、カタカタと少し震えている。幻影に怯えるように、表情も青い。しかし、目だけは、力強い。


「それでも、関係がないと。それは私の、鳥越苦労と言うのなら、それでいい」

「ララが、私を認めてくれたように、私も、ムーン、あなたを認める」

「あなたの決心を、尊重するわ」


「ティア……」


 ムーンは、ムウからのメッセージを思い出していた。

 前半は、意味不明な禅問答だったが、後半は分かる。


『そう。ムウの言った通り、確かに私は、親から逃げている』

『私は、親が敷いた人生のレールを拒むために……自分を認めてもらうために、強大な力を求めて、家を出た』

『その目標は、ゲノムインゴッドで、十分すぎる程、達成された』

『分かってる。そんなこと、言われなくても、分かっているんだ!』


 ムーンは、ティアの目をじっと見つめる。


「がうっ……決心なんて、つかないよ」

「でも……」

「それでも、今から私が出す答え。それが、どんな答えでも、認めてくれる? ティア」


 ティアも、ムーンの目を見つめ返す。


「もちろん」


 ムーンは、ララと目を合わせる。ララもそれに応える。


「ララちゃん、も?」


「もちろんよ。ムーンちゃん」


 ムーンの目に、これまで感じたことのない、熱い感情が沸き上がってくる。


 ムーンは、プルゥートと目を合わせる。


『えっ? 私も?』


プルゥートは、少しきょどってから、コクコクうなづいた。


『ティアも、ララちゃんも、私を信じてくれている。ついでにプルゥートも、たぶん……』

『だったら、私が、私を信じないでどうする』

『私が、私自身を見失ってどうする』


 ムーンは決意を胸に刻む。


「ティア、ララちゃん、プルゥート」

「私、一度、故郷に帰る」

「両親にちゃんと、認めてもらって戻ってくる」


 皆は、輪になり、肩を抱きしめ合った。

 誰もが涙は見せない。

 明るい表情を、努めて作っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ