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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
125/169

#124 本当の自分

「くはは、まさか、こんな能力ちからも持っていたとは。侮れ難し四年生……」


 完全に姿を消し去った雄一を、捉えられずにいたトウテツは、焦りの色を一切見せない。


「ふっ、大した魔法だが、所詮は幻術の類。目に見えないだけで、ココにいることに、変わりはない」


 すると、トウテツは、ふんふんと、鼻を効かせ始めた。


「くはは。残念だったな雄一。我の嗅覚は人の百万倍。我の鼻と舌が、キサマの血肉の匂いを覚えている」


 トウテツは、犬にも優る嗅覚を頼りに、雄一の血の匂いを探り当てる。


「そこだ! 雄一ぃ!!」


 雄一の血の匂いを嗅ぎつけたトウテツが、何も見えない場所へ飛び掛かり、両爪を振り下ろした。


 ザクリ!


 爪の先には、雄一の血。しかし、そこに雄一の姿はなかった。


「こ、これは!!」


 トウテツの爪先の地面には、「はずれ」と、血文字が記されていた。


「は、はずれ……?」

「まさか、罠を張ったか! 四年生!」


「こっちだよ。四聖獣トウテツ」


「うぎょぎょっ!」


 今度は、真後ろから聞こえる雄一の声。


「うがああっ!」


 咄嗟のトウテツは、雄一の声を振り払うかのように、右腕を振るう。しかし、やはり雄一の姿はない。


「匂いも、声も、幻か!」

「ばかな、我が、この竜王が、陽動、翻弄されている……だと?」


 トウテツは、両手に、渦巻く風を纏った。


「なりふりに、構っていられぬようだな」

「くらえっ、竜刃波!」


 放たれた竜刃波は、強烈な風の刃。それがトウテツを中心に、波紋を広げるように広がった。城の本殿は真っ二つ斬られ、ズズズと音を立ててずれる。


「なにしてるの? だめだよ。お城を壊しちゃ」


 トウテツの頭上に響く雄一の声。


「そこかっ、いや、これも幻聴!」

「竜刃波! 竜刃波! 竜刃波ー!」


 スパッ! スパッ! スパパ!


 八方、立て続け放たれた竜刃波により、切り刻まれた城の本殿は、とうとう音を立てて崩れ出した。


「これでどうだ、竜刃乱舞!」


 崩れ落ちる城を、トウテツは、さらに粉々に打ち砕いた。


 一粒が巨大すぎる、水晶の雨あられが地面を叩き始めた。


「ちちちち父上……いいいいいくらなんでももももも、むむむ無茶苦茶です」


 プルゥートは、気絶するキャンドルを庇い、大きな羽を使って防御行動に徹していた。

 トウテツは、体を穿つ瓦礫など無視して、ひたすら雄一の気配を追っている。


「雄一ぃ。水晶の瓦礫を避けきれまい」

「この瓦礫の雨が、キサマの位置を、捉えるのだぁ」

 

「灯台下暗し」


「どりゃあ!」


 バゴオッ!


 トウテツの股下から聞こえた雄一の声に、トウテツは真下の地面を叩き割る。しかし、手応えは無い。


「くそ! 一体どうなってやがる。タクフィーラに、こんな能力は無かったはず」


「ぼくの師匠は、タクフィーラじいちゃん。だけじゃないから」


「ハッ!?」


 雄一の、吐息まで感じる声が、トウテツの右耳へと入ってくる。


 バシン!


 トウテツは、耳にたかる蚊を潰すように、右側頭部に掌底を浴びせる。しかし、自分の頬意外に手応えは無い。右耳にキーンと言う音が響いた。


「そんなことよりも。ほら、オヤコで向き合いなよ」


「今度は、こっちか!」


 すると今度は、左耳に雄一の声が入る。トウテツは同じように左側頭部を叩く。両耳がキーンとなる。

 両耳を塞ぐ格好になったトウテツ。憮然とした表情からは、苛立ちが隠しきれていない。

 すると、今度は脳裏に響く雄一の声。


「まだ、間に合うから。ねっ、おと~さん?」


「うがーっ。さっきから、一体何をしているのか、何を言っているのかサッパリ分らん!」

「キサマは一体、何なんだ。答えろ! 神か、悪魔かーっ!」


 トウテツの癇癪が爆発する。

 振るう両腕で、崩れた城の柱などを、殴り壊している。

 

 気がふれたとしか思えない。


「ちちちち父上様! どどどどどうか、おおお、お気を、たたた確かににににににに」


「こっこの、愚息が……」

「我の前で、そのような言い方をするなと、何度、言えば分るのだ!」


 雄一を捉えられないもどかしさと、苛立ち。その矛先の全てを、息子のプルゥートに向けるトウテツ。

 目を、殆ど直角にまで吊り上げ、のしのしと、プルゥートに向け、距離を詰め始めた。


「何度も、何度も、何度も、聞き分けの無い……」

「どうやら、また、キツイ折檻をして、その口を、矯正してやる必要があるな」


「わわわわ、我は、どどどどうしても、ききき吃音症が、ななな治らないいいのです」


「プルゥート! この、やいとは、父の愛と知れぇ!」


 トウテツは、槍の様に尖らせた爪を振り上げて、プルゥートの顔面目掛けて振り下ろす。


 ギュウン!


 その時、突如姿を現した雄一が、プルゥートの眼前で両手を広げる。


「ダメ!」


 ドス!


 トウテツの爪が、雄一の腹を貫いた。


「うっ」


「ここここ小僧!?」


「ぐははっ、なんだ、こんなところに、いたのか。雄一君」


 ぽす。


 ずるりと、力なく地面に落ちる雄一を、抱き留めるプルゥート。


「こここ、小僧! なななな何故……。」


「ほら、本当の自分を、ちゃんと、お父さんに、伝えて……」


「ほほほほ本当の、じじじ自分?」


「そう。本当の自分」

「ずうっと、我慢して、閉じ込めてる、本当の自分。だよ?」

「さあ、解放してあげて? プルゥートちゃん」


「プププ、プルゥート、ちゃん?」

「はっ! まっまさか! 私は!」


「あはは~、そう。そうだよ、プルゥートちゃん」

「良かった、ね」

「お父さん、にも、伝わる、と、いい、ね」


 雄一は、プルゥートの腕の中で、優しく微笑み、気を失った。

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