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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
118/169

#117 納品

 インレットブノ大神殿へ、ラークが向かった翌日の早朝。

 チェダックの弟子を名乗る、小汚い格好をした、小柄な青年メロフが、ティアとイエラキを訪ねてきた。


「早朝より、申し訳ございません。博士が少しご相談したいことがあると申しておりますので、工房までご足労願えませんでしょうか。」


 確かに今日が、MKSの修理完了の納期。しかし、これでは実質二日程度しか経っていないことになる。

 イエラキは、欠伸をしながら応対する。


「なんだ、トラブルか。ったく、無理して二日でできる何て、最初から言わなきゃいいんだ。」


「いえ。MKSの修理は完了しております。ご相談と言うのは、報酬についてでして……。」


「なんだと!? できた?」


「あ、それから。バゴクリス様もお連れするよう、言い付かっております。」


 弟子のメロフ。よく見ると、全身が煤だらけだ。目の下には隈を作って顔色が悪い。

 どうやら、不眠不休で過酷な作業にあたっていたのだろう。足元は不確かで、今にも倒れそうだ。

 これ以上歩けば命に関わる。そう判断したティアは、準備時間中に、熱いスープをメロフに与える。

メロフはそれを、涙を流して啜っていた。


「テレポ。」


 そして、早朝から集まったティア、イエラキ、バゴクリス。ついでに、雄一、ララ、ムーンと、それに抱かれるシゲルが、チェダックの工房前へと瞬間移動した。


 メロフが皆をチェダックの元へと案内する。すると、そこには、何やら複雑な部品を組み立てるチェダックの姿があった。


「やっぱり、まだ整備中じゃねえか。どうせ起動と同時に、いかれたんだろ。MKSも気の毒に……。」


 ところが、皆の目に、忙しく動き回るMKSの姿が映る。

 黙々と進むチェダックの作業を、MKSは嬉々としてサポートしていた。


「MKS。お前、直ったのか。」


「イエラキカ・ミテノトオリ・キノウ100%ノ・ジョウタイダ。」

「コノ・センセイハ・カミノテヲ・オモチデ・アラレル。」


 信じ難いことだが、MKSは完全に調子を取り戻しているようだった。

 しかし、MKSの博士への懐き方が尋常ではない。まるで恋人か妻のようにチェダックに寄り添い、かいがいしくお世話をしているのだ。

 チェダックに都合よく改造されたのではないか……と、疑うほどに。


「チェダック博士。クライアントをお連れしました。」


「……。」


「チェダック博士。クライアントをお連れしました。」


「……。」


 チェダックは、憑りつかれたように、作業に没頭している。メロフがオウムの様に繰り返し呼び続けるが、まるで反応しない。


「ねえララちゃん。あの小汚いモグラ男、何度かコッチ見てるわよね。」


「あ、ムーンちゃんも気が付いた? 私も、三回ほど目が合ってる気がするよ。」

「アレって、無我の境地で、見ていても、見えてないものなんだよね。」


「あー、獲物以外は景色に見えるってやつね。」


「うふふ。対象が違うだけで、きっと、そんな感じなんだろうね。」


 ガシャーン!


 突如、製作途中の部品を、地面に叩きつけるチェダック。

 精密部品が床へ散らばるのを、MKSが黙って片付ける。


「キャン! 今度は何だろう。壺を焼く芸術家が、作品の出来が気に入らないって割る。アレかなぁ。」


「きっと、そうね。アレね。見るからに、こだわり強そうだもんね。」


「うるせー!! アレって何だー! おいっメロフ! 誰が、こんな美少女たちを連れてこいと言った! 気が散るだろーが!!」


 違った。チェダックは、ララとムーンを見てドギマギしていただけだった。


「ちっ、交渉の邪魔にならなきゃいいが……。ほらよ、バゴクリス。」


「えっ!?」


 ガチャリ。


 突然バゴクリスにライフル銃が渡された。


「チェダック博士、これは、一体……。」


「そこにいるガキが作った固体魔導エネルギー。俺はそれから魔導電池を発明した。」

「それは、魔導電池を利用して作った、新型魔導兵器、パトリオットだ。」


「新型魔導兵器、パトリオット?」


「そうだ。濃縮されたエネルギー弾。魔導砲を放つことができる。試し撃ちしたら、予想以上の破壊力に、しょんべんちびったぜ。」


 確かに。チェダックの股付近に茶ばんだシミが確認できる。女子からの視線が急速に冷えていく。


「確かな腕を持つお前に相応しい武器だ。持っていけ。」


「私に、これを?」


「ああ、これで国を護ってやってくれ。」


 本人は、渋くキメたつもりなのか、周囲にドヤ顔を見せつけ、猛烈にアピールする。しかし、ちびった時点でアウトだった。誰もが視線を逸らす。


『ふっ。俺の才能に畏怖しているな。よし、この調子だ。』


 チェダックは、次に、布を被せたモノを、MKSとメロフの三人で持ってきた。


「さて、俺は今回、神に挑戦した。」

「MKSの解析を数時間で終わらせ、あっと言う間に修理を終わらせた。」

「三日などまるで必要ではなかった。この勝負、俺の勝ちだ。圧勝だ。」

「しかし、俺はただ、神が作ったものを修理したに過ぎない。ハッキリ言って、神からテクノロジーを教えられただけだ。」

「俺は試合に勝って、勝負に負けた。」

「負けた? バカ言うな。神はこれを三日で作った? ならば、俺はそれを超えて行く。それを、形にした物が、コレだ!!」


 バサッ!


「こっ! これは!?」


 勢いよく捲り上げられた布から現れたのは、MKSにそっくりのロボット。


「まさか、この狂人、インスパイアとは言え、MKSの兄弟機をたった一日程で完成させたってのか……。」


 イエラキは頭を抱えてしゃがみ込む。予想を超えるチェダックの能力を認めざるを得ない。


「ふん、こいつは、魔導戦闘兵器、M・K・P、だっ!!」


「MKPって、どういう意味よ。」


「ミリタリー・キラー・ポリス、もといっ! めっちゃ・かわいい・ぱんだ。の略だ。」


 MKSがクマ型ロボットに対し、MKPはパンダ型のロボットだった。MKSに比べてふくよかな頬が、光を柔らかく反射する。

 皆の目は、もれなくテンだ。


「はぁ。まさか、ネーミングセンスまで同じだったとは。ムウとあんた、他人同士じゃないよね。」

「でも、さっきから動けないみたいだし、未完成みたいね。」


 ティアの未完成と言う言葉に、チェダックが舌打ちを打つ。


「だまれ、ティア。完成はしてる。魔導電池も内蔵済だ。ただ、スライムを捕まえている時間まで無かっただけだ。」


 悔しそうに頬を引きつらせるチェダックに、雄一が声を掛ける。


「あはは~。スライムならここにいるよ~。ほら、シゲルさん。ごあいさつ。」


「なにぃ!? ホントだっ、ならば、早速ココへ入れろ! クソガキ!」


「チェダックちゃん。ダメだよ、あせっちゃ。」


「ああん!」


「ちゃんと、シゲルさんの気持ちを確かめてから。ねっ。」

「どうかな? シゲルさん。……えっ? ほんと? うん、うん。そうなんだ……。」


「くああっ。相変わらずイライラさせるクソガキめ。ああ~っ殺したい!」


 両手、両指を、わなわなと動かすチェダックをよそに、雄一はシゲルとコンタクトを続けた。


「シゲルさん、MKPに乗ってもいいよって。よかったね、チェダックちゃん。」


「わーい、ホント? 魔法使いの雄一おにーちゃん。あたいカンゲキ!」

「おらあっ、ままごとに満足したら、さっさとよこせ、こんのクソガキがぁっ。」


 チェダックは、MKP起動に必要な最後のパーツ「スライム」を、乱暴に掴み上げ、MKPの背中の割れ目に充填する。


「スライム充填完了。後は、自動で起動するはずだ。さあ、目覚めろMKP!」


 数秒後、MKPの目が、妖しく輝いた。

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