表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳筋だもん  作者: 妖狐♂
117/169

#116 暗鬼

 ……十分後、初体験を済ませ、未だめそめそ泣いているムーンの血液検査の結果が出た。


「ふむ、喜べ。と言ってよいかどうか分らんが、ムーン殿も陽性じゃぞ。」


「ほ、ホント!? どっ、どれ!?」


「ほれ。ララ殿と全く同様の重度感染。DNAとRNAによる壁糸構造じゃ。」


「やったー! 私も雄一様の加護GETだー。アオ~ン!」


 ムーンは涙を飛ばし、ラークの部屋を所狭しと飛び跳ねて、喜びを表現している。

 一頻り暴れ回った後、満面の笑みを浮かべるムーンは、ティアに絡みだす。


「ほら、ティアも! 今度はあんたも診てもらいなさいよ!」


「……はぁ。やれやれだわ。」


 ムーンからぐりぐりと肘を二の腕に当てられ、ティアはあからさま不機嫌そうに顔を歪める。


「いいえ。私は結構よ。」


「えーっ? なんでー? きっと、ティアも重度感染者だよー? やってもらおうよー。」

「あー、それとも、自信ないの? わんわん?」


「殴るわよ。っと、それよりも、雄一。ちょっとあんたのカードを見せてみなさい。」


「いいよ。はい。」


 ティアはムーンに対し、手で、しっしをしながら、雄一のステータスカードを受け取る。


「要するに雄一は、二つのDNA遺伝子を持つってことでしょ。ラークじい。」


「まあ、そうじゃの。」


「だったら、尚更。今、確かめなきゃ。」


 ティアはそう言うと静かに深呼吸をして雄一のステータスカードを見る。


「うっ!」



神谷雄一(10) ブラックカード

天職:脳菌様 LV70


体力:1

力:1

俊敏:1

魔力:0

魔法耐性:0



「見て。また天職名が変わってる。」


「わぉん、「菌」だって。雄一様の、ウイルス感染の話に、合わせて変えてきたのかな。」


「ムウめ、敵認定しても、おちゃらけやがって。あくまでも雄一で遊ぶつもりか……。」


「あはは~。ぼく、きのこ?」


 皆に共通の頭痛が走る。そんな中、ティアが発破をかける。


「まだよ。意識を保って、みんな。」


「どうしたの、ティアちゃん?」


「いい? 私たちは、いつもいつも、この表面だけを見て驚愕し、終わっていた。」

「でも、今回、私が見たいのは、このカードの裏面。」


「裏面? つまり、雄一君も、裏面に何か別のステータスが刻まれてるってこと?」


「狂った神、ムウのやることだ。何もかも信用できないけど、二つのDNAを持つ雄一なら、或いは鬼の正体が……。」


 雄一のステータスカードを覗き込む皆。その顔を、ティアは上目遣いで確認した後、再度、深呼吸を着いた。そして、ゆっくりカードをひっくり返した。


「げげっ!」


「こっ! これは!」


「わ! さすが!!」


「しゅ、しゅてん……。」



守天雄一

天職:守天一族 


体力:3憶3千万

力:4憶5千万

俊敏:3憶8千万

魔力:0

魔法耐性:0



「やはり、やってやがったか。狂神ムウ!」


「わお~ん。凄い桁外れの力。雄一様の強大なパワーの源は、コレだったのね。ステキだわんわん。」


「この数値。ゲノム・イン・ゴッドが霞むわね。」

「でも、やっぱり魔法の才能はないのね、雄一君。」


「そこは、やっぱり、だね。」


皆が目を丸くする中、ラークが顔を天へ向ける。


「守天……。ああ、なんてことじゃ。わしはこの名を知っておる。こやつこそが雄一王婿に棲む「鬼」じゃ。」


「ラークじい。本当に間違いないのね? コイツで。」


「間違いない。わしと対峙した鬼は、邪悪な気配を放ち、守天雄一と名乗った。」

「ふおおっ、奴を思い出し、恐怖で全身の毛が逆立ちよるわい。」

「ティア殿、これは、このまま放おっておく訳にはいかぬぞ。」


 ラークは、雄一の遺伝子モデルを、再度詳しく検証し直し始める。


「わしは、どこかで鬼の力を、雄一王婿の、秘めた力の一つではないかと楽観視しておった。」

「じゃが、それは根本から見誤っていたようじゃ。」

「あの四重諸糸構造の遺伝子の一方が、守天雄一だとすれば、僅かな差で傾く天秤のようなもの。」

「いずれ細胞の支配権を、鬼に奪われる可能性がある。」


「神谷雄一が守天雄一に乗っ取られる?」


「わしは、途轍もなく嫌な予感がする。これは、これまでの歩んできた人生経験からくる予感じゃ。」


 ラークのその予感は、まるで、近いうち、必ず訪れる予言と思わせた。

 皆が息を呑む中、ラークは両手で机を叩く。


「くそう! 何もかも分らん! 脳筋ウイルスがわしらに与える影響も、鬼の正体と、その影響も!」

「到底、味方とは思えん、あの鬼の正体が、皆目掴めん。」


 頭の混乱を整理しようと、しばし厳しい表情のままのラークが、キーボードを叩くように打ち続ける。

 カタカタと言う音だけが部屋を包む中、忙しく動くラークの手に、ティアがそっと手を重ねる。


「ラークじい、いえ、ラークさん。あなたの分析力と知識の深さは大したものです。」

「蟲毒の儀が行われたインレットブノ大神殿。そちらへ行けば、雄一の「血のルーツ」が分かるかもしれません。ラークさんさえよかったら、大神殿へ行かれませんか。」


「血のルーツ? そうじゃ、ティア殿。まずは雄一王婿の道程を探りたい。」

「じゃが、異邦人のわしが御国の神殿に足を踏み入れてもよいかの?」


 ティアは、ラークの目を見据えて頷く。そして、丁寧な言葉で続ける。


「当然です。ラークさん。むしろ、私では手も足も出ない、こちらからお願いしたい案件です。アース王には、私の方から文書を出しておきましょう。」


「そうか。うむ、かたじけない。」


「雄一は、聖道の最奥。ムウの予言書が発見された場所に転移してきました。儀式が崩壊した後、神殿はきっと、儀式前の状態に戻っているでしょう。後で聖道を示す地図をお渡しします。」


「分かった。わしは、その場所を目指そう。」


「それから、私は、蟲毒の儀を終えた雄一に、「魔法ウイルス」を掛けました。ムウの指示だったから、脳筋ウイルスとの関係を無視できないと思います。」


「ほう。「魔法ウイルス」とな……。心に刻んでおこう。」


「神殿内は弱小モンスターの巣窟ですので、危険はないと思いますが、油断や無理はしないで下さい。」


「うむ。分ったティア殿。差し当たり数日の予定で、雄一王婿の足跡を辿ってみようと思う。イダニコ移住希望者、MKSに関する後のことはイエラキを頼ってくれ。」


「ラークさん。いろいろと、ありがとうございます。」


「ふおふお。なあんにもじゃよ。雄一王婿はわしの孫も同然じゃからのお。」


 かくしてイダニコ最強の武人、知将ラーク・コリダロスは、三日分の食料とジェラルミンケースを片手に、インレットブノ大神殿へと足を踏み入れた。

 しかし、ラークは、三日どころか一カ月経っても、二カ月経っても、戻ってくることはなかった――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ