#114 企て
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
雄一たちがメガロス・インレットブノ大聖堂に帰ってきてからも、どこかティアの様子がおかしい。
ララやムーンが声を掛けても反応は適当で、意識的に距離を置き憮然とした表情で黙々と事務処理をこなすばかりであった。
「ララちゃん、ティアに謝ったら?」
「どうして?」
「ティアの機嫌が悪いのは、きっとララちゃんだけ、神谷・ララ・イクソスになったからだと思うよ?」
「う~ん、そうかしら。でも、謝ったところで、私じゃステータスカードの変更なんてできないし、意味がないわよ?」
「そんなことないわ。気は心って言うじゃない。今度ティアに会ったら謝るのよ? 私も一緒に謝ってあげるから。」
「どうしてムーンちゃんまで一緒に謝るの?」
「気は心っていうじゃない。」
「う~ん。」
応接室でアップルティを飲みながら、ララとムーンが不機嫌なティアの様子について話し合っていた。
シゲルはムーンの膝で、もぞもぞ蠢いている。
すると、神妙な表情をしたラークが応接室へ現れ、長い白髭を片手で整えてから、ララに話しかけてきた。
「ララ・イクソス殿、少々よろしいか。」
「あら、ラークさん。どうかされましたか?」
「誠に不躾なお願いなのだが、ちょっとわしの部屋まで、来てもらえんじゃろうか。用事はすぐに済ませる故。」
ラークは、少し目を泳がせながら大聖堂で借りた自室へ来るよう促す。
ララはラークの言葉に少し首をかしげる。
「?? 何のために?」
「ふむ……。ひいては雄一王婿の為に少し協力してほしいのじゃ。」
「雄一君の為? 分かりました、すぐ行きます。ムーンちゃん、話の途中で悪いんだけど、少しだけ待っててくれる?」
雄一の為と聞くや否や、ララは直ぐに離席すると、にやりと笑うラークの後をついて行った。
『ガルル、なんだあのジジイ。私とララちゃんとの楽しいガールズトークを邪魔しておいて、詫びの一つも入れずに。』
ムーンは、鼻息を一つ鳴らしてアップルティを口へ運ぶと、胡坐をかいて天井をぼんやりと見上げる。
シゲルが股座へポトリと落ちる。
『中途半端ハゲのラーク・コリダロス……。5000人組手で、疲労のピークと目隠し状態だったとは言え、雄一様が手も足も出なかった相手……。』
『老いぼれジジイとは言え、そんな相手とララちゃん。部屋で二人っきりって、大丈夫か?』
バタン。
その時、目を座らせたティアが応接室へと入ってきた。
「あらムーン。一人?」
「あっ、ティア。相変わらず機嫌が悪そうだけど、ちょっと聞いてよ!」
「機嫌悪くて悪かったわね。で、何よ。」
ムーンは、ティアに事のあらましを伝えた。するとティアが、曇った表情を更にどんより曇らせる。
「私もさっき知ったことなんだけど、あのラークってジジイ。アースの不貞を当然のことと言って擁護する、エロジジイだった。」
「ちょっマジで!? まずいじゃない。あのエロガッパ、雄一様をダシに、ララちゃんを部屋へ連れ込んじゃったわよ!?」
「ちっ。雄一の名を出せば、ララが断れないことを知ってのことだろう。」
「こうしちゃいられない。エロジジイの毒牙に掛かる前に助けなきゃ!」
「よっしゃティア! 私の背に乗れ! ワンワンワオーン!」
刹那、シルバーオオカミと化したムーン。ティアはシゲルを脇に抱えると、その背に乗った。
「影移動!!」
ムーンは、瞬く間にラークの部屋の前に到着した。
すると、ラークの部屋から漏れた声が二人の耳に入った。
「大丈夫。痛いのは最初だけじゃて。力を抜いてリラックスしておれ。」
「でも、私こんなの初めてだし、ちょっと怖いわ。」
「そうじゃな。しかし、これも雄一王婿の……。」
「分かってる。雄一君の為なら、私、我慢する。」
「済んだ後、少し、血が出るかもじゃが、すまぬのお。できるだけ早く終わらせるからの?」
その会話を聞いたティアとムーンは、どちらが先と言わずにドアを蹴破った。
「くぉらー! このエロジジイ!!」
「ワンワン! ララちゃん、早まっちゃダメ!」
すると、そこには、ラークから採血を受けるララの姿があった。
「おや、どうかされましたかの。ティア殿、ムーン殿。」
「さぁ、ララ殿、採血は終わりました。痛みはありませんかのぉ?」
「あ、はい。ラークさん。採血なんて、初めてで怖かったけど、平気です。」
「って、あんたたち、ナニやってたんじゃないの?」
「なんの話? ティアちゃん。」
ふと見ると、近くに雄一まで座っていた。シゲルがぴょんぴょこ跳ねて、雄一の頭に収まる。
「あは、あは、あははー。私ったらドア壊しちゃったねー。あははは~。」
ティアは、とても言葉にできない勘違いを噛み潰そうとしたが、どうにも引き攣る。仕方ないので、蹴破ったドアを盾にして姿を隠し、そのまま退出しようとした。
「ティア殿、多忙は承知じゃが、丁度良いところに来てくれた。しばし時間をくれんじゃろうか。」
ティアは歪んだドア越しに、頬を赤らめ、コホンと小さく咳払いをする。
「まぁ、少しだけなら構わないわ。」
「ふむ、かたじけない。実は雄一王婿の血液検査をした結果を、是非ティア殿にも見てほしいのじゃ。」
「雄一の、血液検査?」
部屋には、ラークのジェラルミンケースから出されたと見られる、様々な機器が並べられていた。そしてラークは、ほぼパソコンのような装置の、モニター画面を指さした。