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脳筋だもん  作者: 妖狐♂
107/169

開眼・黎明編  #106 激変ステータスカード

 雄一たちがメガロス王国へ帰路に立つ日の夜明け前・・。


 「うわあーっ。なんじゃこりゃあー!!」


 グラグラグラ! バリン! バリン! バリン!


 ティアのけたたましい叫び声で城が揺れ、生じた爆風によりティアの部屋の窓ガラスが微塵に割れる。


 只事でない事態に、ララとムーンが慌ててティアの部屋へと駆け込んだ。城の妖精たちも遅れてやってきてドア越しに中の様子を窺っている。


 「どうしたの。ティアちゃん!!」


 「うああ。ララ、こっこっ、これを見てぇ。」


 出立準備を終え着替え終わったティアが地べたに這いつくばった状態で右手を震わせながら伸ばす。


 「これって。ステータスカードじゃない。」


 ティアの震える手の中のステータスカードをララが受け取る。と、ララの表情が一変した。


 「こっ、これは!?」


 「なになに~?」


 ムーンもティアのステータスカードを覗き見る。


 ティア・ディスケイニ(13)レッドカード

 天職:魔導士LV39

 体力:5800万

 力:7800万

 俊敏:4400万

 魔力:5億1300万

 魔法耐性:2億9800万



 「わっナニコレ! 滅茶苦茶ステータスが跳ね上がってる! 完全に怪物級だ。」


 「ウラ。ウラも見てぇ。」


 呻き声のようにティアは指をカタカタ震わせ呟く。


 「裏? うわっ!」


 ララはティアのレッドカードの裏面を見て額から汗が滲み出る。


 「これって、雄一君と同じブラックカード?」


 ティアのステータスカードは表面が赤、裏面が雄一のカード同様、漆黒の闇に変化していた。

 そして裏面にはこう記してあった。



 裏・ティア・ディスケイニ

 天職:脳筋手習い

 体力:1

 力:1

 俊敏:1

 魔力:0

 魔法耐性:0



 「裏? 脳筋、手習い?」


 ララとムーンが揃えて首を傾げる中、ティアは顔を青くしたままガタガタ全身を震わせている。


 「ひょっとして、私のも何か変わったのかなぁ。」


 そう言ってムーンが自分の胸ポケットからステータスカードを取り出して見て驚きの声を上げる。


 「うわ! 私もめっちゃ変わってる!」



 ムーン・カオス(16) グリーンカード

 天職:魔法武導家 LV40

 体力:1憶2300万

 力:1憶4000万

 俊敏:5億8200万

 魔力:5200万

 魔法耐性:2400万



 「す、凄い。私ってば、ちょー強くなってる。」


 「ムーン、あんたもやられたか。ガクリ。」


 そしてムーンがステータスカードをひっくり返すとティア同様に裏面が漆黒の闇になっている。

 そして、こう記されていた。



 裏・ムーン・カオス

 天職:脳筋手洗い

 体力:1

 力:1

 俊敏:1

 魔力:0

 魔法耐性:0



 「んん? 脳筋、手洗い?」


 ムーンが顎に手をやりララに尋ねる。


 「ねえララちゃん。この「手洗い」とはどういうことだろう。お便所のこと?」


 「そうね。ムウのやることだから「誤字」とは言い難いわね。多分しょうもない「いちびり」で深い意味など無いと思うわ。」


 「ふむ、なるほど。だったら、いちいち気にしなくていいな。」


 ムーンはララから適当な返答をもらうと落ち着いた様子でステータスカードを胸ポケットへ戻す。


 「ガチガチ。ムーン、あんた平気なの?」


 「なにが?」


 「ガタガタ。私たちに何が起きたのか分からないのよ? 私、脳筋になったの? バカになったの? こわいよぉ、いやだよぉ。」


 両手両足を縮めて地面に転がり震えるティアにムーンは「ふっ」と笑みを零す。


 「大丈夫よティア。要するに私たちはちょー強くなったってことでしょうよ。」

 「それにしても天職が脳筋ってどういう効果があるんだろう?」


 「ブルブル。やっぱりあんた、身に起こっている現実が見えてねぇだけじゃないか。」


 「でも、そんな震える程のこっちゃないでしょーよ。まぁ、理由わけくらいは知りたいけど。」


 「ガチガチ。ねえ、ララ、あんたなら何か分かんない?」


 ララは自分のステータスカードを静かに見ている。


 「私には何もしてあげられることがない、か。ふふふっ。」


 「えっ? ララちゃん?」



 ララ・イクソス(14) ゴールドカード

 天職:魔導騎士  LV16

 体力:198000 

 力:110000

 俊敏:95000

 魔力:193万

 魔法耐性:573万



 「やだ意外! ララちゃん、ほとんど変わってないわよ。」


 「うふふっ。そうね。」


 そう言ってララは笑顔でゴールドカードを裏返す。と、やはり裏面は漆黒の闇。そこに記されていたのは‥‥‥。



 神谷・ララ・イクソス

 天職:脳筋見習い

 体力:1

 力:1

 俊敏:1

 魔力:0

 魔法耐性:0



 「ふがっ!!?」


 「ビクビク。どうしたの? ムーン。」


 ムーンの鳴らした豚鼻にティアが震えながら頭を上げる。


 「なんでなんで……? なんでなんでなんでなんで!? なんでララは神谷ララなのぉー!!?」


 「なにぃ!?」


 ガバ!


 「あら、ティアちゃん。よかった、元気になれた? 顔色は優れないけど。」


 ティアは「神谷ララ」のフレーズに両手など使わず膝だけで立ち上がった。そしてララの持つゴールドカードをふんだくるようにして手に取った。


 「かっ神谷・ララ・イクソス。本当だ。これは一体どういうことなんだ。」


 「うふふ。そうね。」


 ララがじらすようにゆっくりとティアの部屋にあるベッドに腰を下ろし、前髪を少しくるくると弄る。


 「これはきっと、ムウの仕業。」


 「ムウ? あの変態の?」


 「そう。あの変態ムウが過去マシーンに私たちを乗せた目的の一つは厄災の正体を見せること。」

 「そしてもう一つは。」


 「もう一つは?」


 「私たちに厄災に立ち向かえる力を与えること。即ちゲノム・イン・ゴッドを施すことだったのよ。」


 「!!?」


 ティアが眉に力を籠め、ぎりりと歯を食いしばる。


 「なんで? だったらなんでララだけ違うのよ。」


 「ふふふ。予言の書でムウは私にこう言った。「何もしてあげられなかったし、これからも何もしてあげられない」と。」


 ララは両手をベッドにギィッと押し当て、首をティアに向けるよう上げて微笑む。


 「私は既にゲノム・イン・ゴッドを施されて生まれたデザインヒューマン。だからきっと蟲毒の儀で私に剣術スキルを付与した以上の手を加えられなかったんでしょう。」


 ふるふると震えるティアの目から殺気が迸る。


 「そんなことは聞いていない。」


 「え?」


 「なんで私が「裏・ティア」でララは「神谷・ララ」なのかって聞いてんのよーっ!!」


 「えっ!? ああ、そっち? うふふっ、まぁ、気づいてたけど。」


 「ララァー!!」


 ギュオオオオオ!


 ティアから放たれた殺気が部屋を引き裂き始める。ララはベッドに坐したままシールド魔法を展開する。


 バキバキバキバキ!


 砕けた部屋の壁が、ティアを心配してティアの部屋を取り巻いていた妖精たちにも襲い掛かる。


 「ひゃあぁ~!!」


 その騒動を聞きつけたケッツァコアトルが慌てた様子で駆け付ける。はみ出すほどでっかいオシメがふりふりと揺れている。


 「ぐおおっ! これは一体どうしたことじゃ! やめろティア! 妾のこの美しい城を壊す気か!!」


 「おはよう。ケッツァコアトルちゃん。うふふ、ティアちゃんちょっとご乱心だけど、私じゃ手が付けられないから許して? ね?」


 「ご乱心って。おい! これ以上はやめろティア!」


 ズズズズズッ!


 ティアの部屋を中心に、美しく洗練された城の一角が崩れ落ちた。

 丸みを帯びた流線形のフォルムが、事故車のように歪に歪む。

 それでも尚ティアの暴走は収まらない。


 「ねえ、ムーンちゃん。ティアちゃんを押さえてくれないかなぁ? イダニコのみなさんにご迷惑だから。ね?」


 ララが落ち着いた笑顔のまま、同じく過剰にパワーアップしたムーンに声を掛ける。


 「……。」


 「ムーンちゃん?」


 「断じて断る。」


 「えっ?」


 「うおおおりやあぁぁぁ!!」


 バリバリバリバリ!


 「ぐおおっ! ムーンまで何をしてくれるのじゃ! あわわっ、城があ、妾の城がああ。」


 ティアに混ざってムーンまで暴れ始めた。


 ズゴゴゴゴ……。


 ムーンはご丁寧に影分身を発動させ八方の壁や柱を粉々に砕いていく。縦方向に崩れた城が、今度は波紋を広げるように崩れ去っていった。


 「私だって神谷・ムーン・カオスにして欲しい! ララちゃんだけずっるーいぃっ!」


 「うぎゃあ~っ! 何を訳の分からぬことを! ティア! ムーン! てめえらバカか!」


 崩れた瓦礫の中でもベッドに腰かけたままのララが首を小さく横に振る。


 「いいえ、ケッツァコアトルちゃん。二人はバカなんかじゃないよ? 二人は脳筋になったんです。脳筋手習いと脳筋手洗いに。」


 「なんじゃそりゃ!」


 「「うるさーい! おめぇーもだろぉがっ、この脳筋見習い!!」」


 ドカーン!


 「ぐわあぁっ! てめえらまとめて出てけぇー!!」


 ティアとムーンの暴走(八つ当たり)は城の3分の1を壊滅するまで続き、イダニコ国民にメガロス王国の汚名をしっかりと刻んだのだった。


 かくして雄一一行は朝日が昇るとともに追い出されるように城を後にした。

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