開眼・黎明編 #102 蘇生
プッッシュウゥゥゥ・ゥ・・ゥ・・・。
「・・。つっ、ぷはあっ!」
過去マシーンからもうもうと白い煙が沸き上がる中、ティアが座席シートから這う這うの体で出てきた。
バン!
「ララちゃん!!・・・!!」
ムーンは戻るや否や飛び出し、血相を変えてララの元へ向かう。
「・・おのれムウ・・。おのれムウ・・。」
ケッツァコアトルはモモカをほっぽって座席から動かずブツブツと呟いている。
「ティア―!早くララちゃんを治療してくれーっ!!」
「くそっ!やはりまだ戻ってきていないのか!」
ムーンの呼びかけにティアもララの元へと急ぐ。
ムーンが座席からララを引き出そうとしているが、ララの目は半開きに開いたままで、体はまるでマネキン人形のようにピクリとも動かなかった。
抱きかかえるムーンの体から左腕が零れるようにポトリと力なく落ちた。
「・・うそ・・。うそでしょ?ララちゃん!!」
ドッドッ!ドッドッ!
「おらぁ!勝手に死ぬなララぁっ!!」
ムーンは鬼気迫る表情でララの上半身の装備を解き心臓マッサージを始める。
ドッドッ!ドッドッ!・・ドッドッ!ドッドッ!・・。
懸命に心肺蘇生法を繰り返しているムーン。
ティアは座席に埋まりながらブツブツ呟いているケッツァコアトルに掴み掛る。
グワシ!
「おわっ!?なんじゃティア・・。」
「戻り際ムウが・・ララには雄一の加護があるから安心だとか言ってた気がする・・。今すぐ雄一をここへ呼んできて・・。」
「・・雄一様に、妾のダブル漏らしのこと・・黙っておいてくれるかの・・?」
ドン!
「うぃっ!?」
いつまでも座席シートから離れずもじもじしているケッツァコアトルに壁ドンをかますティア。
「いいから!早くしろ!今から10分・・いや5分以内に雄一を連れてこい・・!」
「ふぁい!」
ティアの強烈な気迫に押されケッツァコアトルは慌てて雄一に念話を飛ばしつつ、迎えに走った。
「ぐっ!ララ・・。」
ギリギリと歯ぎしりを抑えきれないティア。
ドッドッ!ドッドッ!
「うっうっうっうっ!」
心肺蘇生法を繰り返すムーンの目に涙が溢れ、ぽたりぽたりとララの胸を濡らしていく・・。
ずるずる・・ずるずる・・。
・・20分後、ケッツァコアトルが巨大な草加せんべいを咥える雄一を引きずるように連れてきた。
(※流石の雄一も5000人組手の疲労と空腹で動けずにいたため)
「パリパリ・・。もぐもぐ・・。」
「雄一様、こんな扱いをして申し訳ないのじゃ・・。許してたもれ、許してたもれ・・。」
「あれー?みんなこんな所で何してるの?パリパリ・・。ん?ララ姉ちゃんはおねんねしてるねぇ。」
ララは戻ってこなかったようでムーンにより、身体をまっすぐにして胸の前で両手を組んで眠っていた。
「間に合わなかった雄一様・・。わたし・・ララちゃんを守れなかった・・。うええええ・・。」
「雄一・・ううっ。ララに、あなたを愛していたララに最後のお別れを・・。くうっ・・」
涙を零しながらティアとララは痛惜の表情を雄一に向ける。
「パリパリ、もぐもぐ・・。」
「って、あんたいつまでせんべい食ってんだ!!」
ポカッ!
「あいた。」
ティアが雄一の頭をはたく。
「えっ?だって何を泣いてるのか分からないし・・。ティア様もおせんべ食べる?」
そう言うと雄一はせんべいを少し砕いてティアに差し出す。
「何!?あれを見て分んないの?バカなの?ララが死んじゃったのよ!?何とも思わないの?パリパリ・・。」
「えっ?ララ姉ちゃん死んじゃったの?パリパリ・・。」
「そうよ!ほら、あそこで横になってるでしょ?うっうう・・。もぐもぐ・・。」
「でも、やっぱり死んではいないよね?だって息してるし・・。もぐもぐ・・。」
「ゴクリ!えっ?ウソ!」
雄一の言葉にティアは慌ててララの元へ駆け寄り、ララ口元に耳を当てた。
「ス~ッ、ス~ッ・・。」
「ほんとだ!息してる!ララ!ホントに生きてる!!」
ティアの言葉にムーンは目を見開いてその場に座り込み「奇跡だ!奇跡だ!」と泣き叫んでいる。
「ララ姉ちゃん最初から死んでなんかいないよ?ずっと戦ってたの。パリパリ・・。」
「戦ってた?一体何と・・?」
そう言ってティアがララの顔から離れようとした時だった。
ガバッ!!
「うがっ!?」
ドシン!
「いでっ!」
ララがティアの頭を両手で掴み、引き寄せ、押し倒した。
「くうっ!ララのやつ・・一体どういう・・。」
ララに関節を押えられ完璧に寝技による抑え込みをキメられているティアの代わりにムーンが尋ねる。
「雄一様、一体どういうことなのでしょう?」
「う~ん。ぼくもよく分かんないんだけど、ララ姉ちゃん、ずっと何かと戦ってたんだ。きっとぼくたちと出会う前から、ずっと。」
「・・それは、ひょっとして・・。」
「うむ・・恐らく例の・・クソおやじの呪いじゃ。」
雄一の言葉にムーンとケッツァコアトルが目を合わせ、頷き合う。
「でも、その戦いも少し前に終わったみたいだね。もぐもぐ・・。」
「そうなんですか?雄一様。」
気を失ったララに寝技をガッチリ決められるティアが皆に助けを求める。
「ひょっひょ!あんひゃひゃちー!なんひょかひへよー!」
ララはティアを羽交い絞めにし、左手でララの頭部を「しっか」と抑え、右手の人差し指と中指を「ずぶずぶ」とティアの鼻の中へ突っ込んでいた。
「ひゃひゅへぇへぇーー!」
豚鼻のようにされているティアは涙目で片手を精一杯伸ばし救いを求めている。
「・・なんだか、ララ姉ちゃん嬉しそうだね。」
「・・そうですね雄一様。なんだか、ララちゃんとっても幸せそう。」
「・・きっと、悪夢を終え、いい夢でも見ておるのじゃろう。済まぬティア。ララ殿の為にも少し我慢してやってくれ。」
「にゃにをのんびりちょ・・ふがふがふがっ!おにょへー!おぼへへほよー!!」
死んだと思っていたら生き返り、突然ティアに襲い掛かったララ・・。雄一たちはそんなララを生暖かい目で眺めるばかりであった。
しかし、卒倒してからのララは生死を掛けた戦いを繰り広げていたのだった。