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思いがけない出逢い

昨日が投稿予定でしたが一日遅れで投稿します。

楽しみにしていた方は本当に申し訳ありません!


魔法の師匠がエスカになりました。

「そろそろ、実戦といこうか?」


 魔法をエスカに習い始めてから、一週間ほど経った頃だ。

 今日は珍しく家にいたメアリが、いきなりそんなことを言い出した。


「実戦? 魔物と戦うということか?」

「ああ……あの異空間の中だと、魔法の威力とかが分からないだろう? せっかくだし、ギルドにでも登録して、弱い魔物でも倒して来なよ。確か登録したことないんだったね? エスカがいればあんたでも大丈夫だろう」


 なんだその言い方は……初めてのおつかいに行く子どもじゃあるまいし。

 それに、僕が保護者ならまだしもエスカが保護者扱いなのが気にくわん。


「ふふ……レイムさん、全部私に任せておけばオールオッケーです!」


 何やら顔を手で覆ってポーズを決めているが、いったいそれは何の真似だ?


「なんだそのポーズは……バカにしてるのか?」

「あ、分かりますか? レイムさんの真似ですよ! レイムさんがよくやる眼鏡をクイッと上げるあれです!」


……僕はいつもああいう風に見えているのか……。

 というか本当にバカにしてたのか、こいつは……!


「あのな……!」

「でも、私バカになんてしてませんよ! かっこいいと思うんですよね、このポーズ! ドライで性格の悪そうなレイムさんっぽくて!」


 こいつは僕を褒めているのか、けなしているのか本気で分からん。


「……それはどうも」


 面倒だ、適当に流しておくか……。


「アンタ達も随分仲良くなったね? 最初は少し不安だったんだけど……」

「断じて仲良くはない」


 ノータイムで否定させてもらう。


「そんなことないですよぅ! 私達とっても仲良しじゃないですかぁ」


 口を膨らませ、拗ねたような反応をエスカは返してくるが、知ったことではない。


「年下だろうと、子どもだろうと、教えを乞うなら敬意を以って接しなければならないから、仕方なく会話に付き合ってやってるだけだ。仲が良いなどと、ふざけた勘違いをされるのは非常に不愉快だ」

「またまた、レイムさんってば照れちゃって……」


……これ以上もう何を言っても無駄そうだな。

 分かってるんですからね、と言わんばかりのエスカの態度に、僕は反論を諦めた。


「そんなことはもうどうでもいい。それならさっさとギルドに行くぞ」


 僕はエスカを一瞥し、声をかけることなく店の外へと足を進める。

 エスカを待つ気など、僕には一切ない。

 普段僕はこいつに振り回されてるんだ……少しくらい仕返ししても良いだろう。


……どうせこいつはついてくるんだからな。


◆◇◆


「あ、ち、ちょっと、待って下さいよー!」


 レイムに置いていかれたエスカは、すぐに彼の後を追いかける為に駆けだそうとしたのだが……。


「……エスカ!」


 何故かメアリに呼び止められる。


「え、な、何? お母さん」


 叱られるとでも思ったのか、エスカは体を少し縮ませながら、メアリに視線を移す。

 だが、メアリはかける言葉を用意していなかったようで、少し上を向き、何やら言葉を選んでいるようだ。

 エスカはそんなメアリを訝しく思いつつ非難するようなことはせず、置いていかれたことに焦りを覚えながらも、黙って母親の言葉を待つ。


「……楽しんでくるんだよ?」


 しばらくしてでてきた言葉は、叱責でも叱咤でもなく、ただ娘のことを気遣うような他愛もないモノだった。


「……? う、うん、もちろんだよ! 行ってきます!」


 エスカはメアリのその言葉の真意を測りかねつつも、その気遣いへの感謝と、レイムに置いていかれそうな状況に後押しされ、深く考えずに言葉を紡いだ。

 そして、言うが早いか、エスカはバタバタと大きな音を立てながら、急いでレイムの後を追いかけていった。


「バタバタと、騒がしい子だね……。娘には普通の恋をして欲しかったんだけどね……まあ、初恋は実らないって話も聞くし、仕方ないことなのかね……」


 そんなメアリの呟きは誰にも聞かれることなく、店の薄暗い天井の彼方へと溶けて消えていった。


◇◆◇


「……どうなってるんだ、全く……」


 メアリの魔道具屋を出発してから、特に何事もなく、僕達はギルドへと到着したのだが……。


「人、多いですね……」


 ギルド内には何故か人だかりができており、中に入れもしないのだ。

 ギルドに着いて、一番最初に思ったことは「ここで魔法をぶっ放せたら気持ちよさそうだな」だった。

 それから「魔法ぶっ放そうかな」に変化し、最終的に「もうぶっ放そう」という真理にたどりついた。

 そして、それを実行に移そうとしたところでメアリに止められ、一度は断念したのだが――


「やっぱりヤるか……」

「だ、ダメですよ! レイムさんって冗談を言ってるのか本気で言ってるのか分からないので困りますよ!」


 何を言ってる……?

 冗談など言うはずないだろう。僕はいつだって本気だ。


「……最近レイムさんが何を考えているのか分かるようになりました……。とにかく、気持ちは分かりますが、抑えて下さいよ?」


 複雑そうな表情をしたエスカが、僕に釘をさす。


「……大丈夫だ、僕にも常識くらいはある」


 僕はそう言って眼鏡を上げる。


「……レイムさんって誤魔化そうとするときも、眼鏡をよく上げてますよね?」

「……気のせいだ」


 ジトッとした、メアリとよく似た表情を、エスカは僕へ向けてくる。

 まさかそんな癖があったとはな……気をつけるとしよう。


「それにしても、何があったんですかね?」

「さあな、気になるなら、誰かに聞いてみればどうだ?」

「……それもそうですね。もしもし、そこの方。今日は何でこんなに人が多いんですか?」


 僕の提案をあっさりと受け入れ、エスカは近くにいた人間に声をかける。

 この行動力は大したモノだと思う。

 僕だってこの人の多さの理由が気にならないわけでもないが、自分から声をかけにいく気にはなれない。


「なんだ、嬢ちゃん、知らないのか?」


 訳知り顔のオッサンが、嬉しそうな顔でエスカの顔を見る。

 こういう風に事情を知らない人間に教えてやれることが、嬉しいっていう人間はどこにでもいるモノなんだな。


「それがな、この町で冒険者をやっていたラーナってやつがいたんだけどな」


 その名前を聞いて僕の心臓が蹴り上げられたように跳ね上がる。


「どうやらそいつが、別の町の有能な女性の冒険者を徹底的に痛めつけて、かなりの怪我を負わせたらしくてな……その町から抗議に来た奴らの対応で時間をくってるんだよ」


 クソ女(ラーナ)……あいつは何をやってるんだ?

 そんなことをする理由がまったく以って分からない。


 腕の立つ冒険者は、町にとっては用心棒みたいなものだ。

 彼らは山賊討伐などの町を脅かす大きな問題から、喧嘩の仲裁という小さなトラブルまで解決してくれる、治安維持の為には欠かせない存在だ


 その他に、病気に聞く薬草を採取したり、魔物などの被害から救ってくれたりするのも、一握りの英雄と呼ばれるような存在ではなく、地域に密着した彼らのような腕の立つ冒険者なのだ。


 いくら腕試しをしたかったからって、そんな冒険者にむやみに怪我を負わせて良いはずがない。

 今のあいつはハーレー王の部下のようなモノなのだから尚更だ。


 だが、そうであるならば、その行動はクソ女の独断ではなく……ハーレー王の指示で行った所業である可能性が高いのではないか?


「へえ……怖いですね、レイムさん?」

「……ああ、そうだな……」


 自身で驚くほどの生返事で返答すると、エスカは少し不満そうに頬を膨らませる。


「もう……せっかくレイムさんの為に聞いたんですよ?」


 冗談っぽく拗ねたような態度でエスカはうつむいた僕の顔を下から見上げる。


「そうか……それはありがとう……」


 僕の言葉を聞くとエスカは目を見開き、まるで町中にドラゴンが出たような驚きようを見せる。


「レ、レイムさんが……お礼を言った……!?」


 だが、そんなエスカの失礼な反応も今はどうでもいい。


 クソ女の行動の理由。ハーレー王の指示だとして、その指示を出した思惑。冒険者という国にとっての財産を損なう可能性があるのに、そのような凶行に出た要因。

 様々な思考が、蜘蛛の巣のように複雑に絡み合い、僕の思考を捉えて離さない。


「レイムさーん……! 聞いてますかー? ……ダメだ、聞いてない……」


 エスカは僕の目の前に手を振りかざして、呼びかけていたが、反応が全くないので、どうやら諦めたようだ。


「うーん……理由が分かっても、それじゃあしばらくはどうしようもないなあ……」


 エスカがにっちもさっちもいかない状況に、溜め息を一つ吐いたときだった。


「話にならん! あいつがギルドの所属を外れたから関係ないだと?! ふざけるのも大概にしておけ!」


 一人の女性の声がギルド内に響き渡り、僕の思考も現実へと引き戻された。


「そう言われましてもね……私共もいきなりギルドを辞めると言い渡されて何が何だか分からないのですよ。ラーナは国王の直属部隊に入ったと言っておりましたし、これ以上抗議されるおつもりなら、国王にでも直談判したらいかがですか?」


 ギルドの職員は丁寧な口調で対応しているが、表情の方は非常に迷惑そうにしており、隠そうともしていない。

 これがいつも通りなのか、相対する女性があまりにもしつこいからなのかは分からないが、とても接客しているようには思えない。


 まあ、職員にとっては、客というよりは迷惑なクレーマーのような認識なのだろうな。


「しかし……!」

「しかしも、かかしもありませんよ。このやり取り一体何回やってると思ってるんですか? あなたがいるせいで業務も滞ってるし、こっちはいい迷惑なんですよ……!」


 とうとう職員は本音をぶちまけた。

 言葉遣いこそ丁寧であるが、その言葉に含まれた怒気や殺気が彼の苛立ちを感じさせる。


「分かった……もういい……! 帰るぞ、お前達……!」


 女性は後ろにいた数人の女性に声をかける。


「いいのですか? ここで引き下がったらお姉様が……!」

「仕方ない……このギルドの職員が言っていることも間違っていない。あいつはここを辞めて王都へ向かう途中にあんなことをやったんだ。姉さんも抗議しても意味がないことを分かってたから私達を止めたんだろうな……。王に直談判といきたいところだが、捕まって終わりさ……もう泣き寝入りするしかないんだよ」


 リーダーとおぼしき女性の諦めの反応に、抗議を続けようとした女性もこれ以上は無駄であると気づいたようだ。


「そうですね……すいません、帰りましょう」


 一団は悔しそうに顔を歪めながら、ギルドを去る為に、僕達の方へと歩いてくる。

 これは都合がいいかもな。


「おいお前」

「え、ちょっ、レイムさん!?」


 エスカは僕が声をかけると思っていなかったようで、飛び上がらんばかりに驚いている。

 だが、僕にはそんなことは関係ない。


「なんだ……? 見ての通り我々は今気が立っている。下らない要件なら話しかけないでくれないか?」


 そう言って、視線を僕の方へジロリと向けてくる。

 並みの人間なら恐れをなして尻込みし、子どもなら泣き出すだろう彼女の迫力も、僕には通用しない。


「いったい……ラーナ、に何をされたんだ? できれば詳しく教えてくれないか?」


 僕がその言葉を吐き出した瞬間、場が凍りつき、張りつめたような緊張感が空間を支配する。

 僕の目の前の女も、取り巻きの女も、殺気を隠そうともせずに僕を親の仇のように睨みつける。


 それはそうだ。

 この状況を例えるなら、泥棒に入られた家の人間に「おい、お前の家、泥棒が入ったんだって? 詳しく話を聞かせてくれよ」などと言うようなモノだ。

 怒りを買うのは当然……だが、僕はこの機会を逃すべきではないと思った。

 ラーナ達の狙いを知ることで、僕の復讐の一助になるのではないかと、そう考えたのだ。


 取り巻きの数人は既に剣の柄に手をかけており、もし目の前の女性が僕を斬れと言ったら、おそらく僕は斬られる。

 避ける間もなく確実に。


「……どういう意味だい?」

「どうもこうもない、僕はただ話を聞きたいだけだ」


 最初は僕達の動向を見守っていた周りの人間も、徐々にその数を減らし、今はただ遠巻きに見つめるだけだ。

 誰でだってこんな剣呑な雰囲気に巻き込まれたくはない。


 チラリと横にいるエスカを見ると、僕の顔を不安そうに見上げている。

 彼女は僕の服にしがみついており、どうやら離れる気は全くないらしい。


 全く……怖いなら他の人間と同じように、避難すれば良いモノを……。


「……悪い、言葉が足りなかった。僕自身ラーナには恨みがあるんだ。だから……聞かせて欲しい」


 頭を下げる僕を見て、エスカは驚き、目の前の女性は、値踏みするように僕を観察する。


「ハア……良いよ、教えてやっても」


 深く溜め息を吐いて、女性は了承の言葉を絞り出した。


「良いんですか?」

「ああ、嘘は言ってないようだし、何よりこいつの目……あいつと戦った後の姉さんと同じ目をしてる」


 同じ目か……。

 さしずめ復讐に狂った人間の目といったところだろうな。


「……ここは少し目立つな。ギルドの外で話を聞こうか」


 僕の発言を聞いて頷く女性を見て、僕達は外へと足を向ける。


「え、あ、ちょ、ちょっと待って下さいよー」


 驚き放心して、いつの間にか僕の服から手を離していたエスカを置いて。

お読みいただきありがとうございました!

またのお読みをお待ちしております……

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