子どもの気持ち
本日二話目です!
特殊なスキルを宿して産まれた子どもは一体どうなるのかーー
「ああ、良かろう。今回も問題はなさそうじゃの」
そう言って差し出された眼鏡を受け取り、僕はそれを装着する。
「……これっていつまでかけてればいいんですか?」
眼鏡の角度を調整しつつ、いつも自身の眼鏡の手入れをしてくれる、エルフの魔道具屋さんに尋ねる。
彼女の名はフィリアさん。
老人のような言葉遣いだが、外見はきれいなお姉さんだ。
本来の名前はもう少し長いらしいが、面倒なので短くしてフィリアと名乗っているらしい。
「いつまでもじゃ」
「いつまでもって……」
僕は赤子の頃から、この眼鏡という魔道具をかけているが、その理由はよく分からない。
病気の症状を抑える為だと聞いたことはあるが、フィリアさんの店にきたときにずっと外していても、特に苦しくなることはない。
病気だとしても、治ってるような気がするんだけどな。
「わがままを言うものではないぞ? それを外したお主を解き放つなどとてもとても……」
「どういう意味ですか?」
僕の病気はうつるものなのだろうか?
「いや、何でもない、忘れとくれ」
フィリアは手をヒラヒラとさせて話を終了させた。
「まあ、その魔道具をつけるのは間違いなくお主の為になることじゃ。親がわざわざお金を出しておるのじゃから文句を言うでないぞ」
「分かりましたよ……ところで、最近整備に時間かかり過ぎじゃないですかね?」
フィリアがビクリと肩を震わせる。
何なの、その反応は……?
いたずらを僕に見つけられたときの妹と、同じような反応なんだけど……。
「い、いや、成長に合わせて色々とな、調整に時間がかかるのじゃよ!」
「……何か隠してません?」
「隠しとらん! 全く近頃の若いモンは……」
まずい……!
フィリアさんはこうなると長いのだ。
「あっと……! そろそろ家に戻りますね!」
僕はこれ以上帰りが遅くならないように、フィリアさんの魔道具屋を飛び出した。
「全く……ふふ……後五年も経てば……落ち着きも出て良い感じに……」
少年の去った店の中で、フィリアは楽しそうに、そうつぶやいた。
「遅いわよ!」
腰に手を当てて、僕を怒鳴ってくるこの女の子は、僕の可愛い幼馴染のラーナ。
「ごめん……眼鏡の調整に行ってたから……」
「言い訳しない!」
「……はい」
僕は彼女に頭が上がらない。
その理由は……勉強も、剣術も、魔法も……何もかも、僕は彼女に勝った試しがないからだ。
つまり、力関係が完全に向こうの方が上なのだ。
でも僕は、今のような関係でもそれなりに満足している。
「全く……そんなんじゃ、私の旦那にしてあげないわよ?」
「うん、ごめんね、ラーナ。なるべく君を優先するようにするから……」
惚れた弱みというやつだろうか?
それとも女の子には優しくしろと、教育してきた父の影響だろうか?
まあ、理由はどうでもいい。
とにかく僕は、彼女が好きだから、少しくらいのわがままは許すことにしているのだ。
「うん、そう言ってくれると思ったわ。だから私はレイムが好きなのよ」
そう言って寄り添ってくるラーナを、愛しく思いつつも、僕達はいつものように二人で遊び始めた。
「おにいちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、ジャンネ」
駆け寄る妹を抱え上げ、抱きしめる。
「今日もおねえちゃんと遊んでたの?」
「ああ、ジャンネも来たかったかい?」
「んーん、あの人おにいちゃんに酷いことするから嫌い」
「酷いこと? 何かされたっけ?」
頭をひねるが、そんな思い出はどこにもない。
「剣でおにいちゃんを叩いてた」
ぷくっと頬を膨らませる妹が可愛らしくて、思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、あれは剣術の練習だよ。叩かれるのはおにいちゃんが弱いからだよ」
不服そうなジャンネに微笑みで応える。
「……分かった、それじゃあ私が強くなって、おにいちゃんの代わりにおねえちゃんと戦う!」
「ジャンネは良い子だね」
頭をポンポンと撫でると、ジャンネは気持ちよさそうな顔をして僕の手を受け入れる。
「……分かった。ジャンネが強くなれるように応援してるね」
両親は共働きで、あまり家に帰ってくることがない。
眼鏡の維持費で多額のお金がかかるかららしい。
だから僕は、本当は眼鏡をつけていたくない。
フィリアさんにいつまで眼鏡をつければ良いかと聞いたのも、両親の負担を少しでも減らしたかったからだ。
両親がいない為、妹のジャンネもずっと寂しい思いをしているようだ。
「ジャンネ、今日は何が食べたい?」
「んーとね、アップルパイ!」
まさか、デザートを指定されるとは思っていなかった。
しかし、寂しい思いをさせている負い目もある……。
だから僕は、なるべくジャンネの希望を叶えてあげたいのだ。
「……分かったよ。簡単なスープと、パンと、デザートにアップルパイにしようか」
「うん、おにいちゃん。ありがとう!」
ジャンネの嬉しそうな顔を見てるだけで、僕は幸せな気分で満たされた。
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作者はあと二つほど連載しております。よろしければそちらも目をお通しください。