エスカ・イラ
投稿遅れてすいません!
知らない女の子に、いきなりプロポーズされたレイムは……。
全く関係ありませんが、最近宣伝用に、ツイッターを始めましたが、全く使いこなせる気がしませんね……。
こいつは……この少女は今何と言った?
思わず思考が停止してしまうくらいには、今の僕は動揺している。
もしかしたら、結婚ではなく、血痕だったのだろうか?
私と血痕して下さい……いや、意味が分からない。
先程マジマジと見られていた僕であるが、今度はこちらが見る側になるとは思わなかった。
「もう……恥ずかしいですから、そんなに見つめないで下さいよ……」
少女は顔を赤らめ、顔を俯かせるが、フィリアの同じ姿と比べると、月とすっぽんも良いところと言いたいぐらいに僕の心は動かない。
別に少女に女性としての魅力がないとか、そういうことは全くない。
むしろ、昔の僕がこの少女を町中で見かけたなら、おそらく二度見してしまうくらいには顔立ちが整っている。
少し身長が小さく、子どもっぽさは残っているが、そんなことはゴミ箱に投げ捨てても良いくらいには魅力的な少女なのだ。
だが、彼女はフィリアではない。
ただそれだけで、僕の心は拒絶反応しか示さない。
「僕は見つめていない……頭のおかしい女の顔を頭の中に刻みつけているだけだ」
もしくは、どこの病院に連れていこうか見極めていただけ、ということでもいい。
「そんな……失礼な人ですね……」
その言葉は僕がお前に送りたい。
僕を紹介されたときの言葉をこいつは忘れたのか?
メアリは“フィリアさんの良い人”と言ったはずだ。
こいつが言葉を知らないバカと言う可能性も捨て切れはしないが、とりあえず理解しているという前提で話を進めることにする。
僕がフィリアの恋人だと聞いたはずなのに、そんな僕にプロポーズをする人間だぞ?
そんな不誠実なやつが失礼でなく、何というのだ。
大体、どこの世界に初対面で結婚の申し込みをするやつがいるんだ。
いや、実際に目の前にいるがそれはどうでも良い。
どうせこいつは本気なんかじゃないのだから。
それよりも、こいつの本心が全く読めないのだが……まあ、それでも、幾つかの可能性を考えることはできる。
ほぼ確実に、本気で僕と結婚したいという可能性はゼロだろう。
さっき初めて会ったときに、僕のことをお客さんかと、メアリに尋ねるということは、彼女は僕の顔すら先程まで知らなかったはずだ。
そんな相手に結婚など申し込むはずがない。
そして、彼女が僕に何かを求めているということは間違いない。
それもフィリアに関することだ。
なぜなら、さっきも言ったが、こいつは聞いたはずなんだ……僕がフィリアの恋人だということを。
逆にいえば、それを聞いたからこそ、少女は僕にプロポーズをしたのだとも考えられるはずだ。
「お前は……何がしたいんだ? お前の言っていることを真に受けるほど、僕はもう純粋な性格じゃない。回りくどいことはやめてきっちり要件を言え」
正直この女の話など聞きたくはなかったが、フィリアが関わるとなれば話は別だ。
それに、下手にちょっかいを出されたら、僕も対処することが難しくなってしまう。
ならば、最初から彼女の思惑とやらを知っておいた方が、僕も動きやすくなるだろう。
「……分かりました。それでは単刀直入に言います」
少女は一つ溜息を吐いてそう言った。
「レイムさん……あなたフィリアさんと別れてくれませんか?」
少女は一切邪気のない笑顔で、何も悪いことをしていないとでも言わんばかりにそう言った。
「あ……?」
こいつ……僕の聞き間違いか……?
いや、違う……今こいつは確かに……!
「エスカ、いい加減にしな!」
怒りが僕の心を包み込む前に、メアリの怒声が部屋を包み込む。
「だ、だってお母さん……!」
「だっても何もないよ! あんたって子は本当に……!」
メアリが頭を抱えて首を振る。
どうやら相当に呆れかえっているようだ。
「悪いね、レイム……気を悪くしないどくれ。この子は昔っからフィリアさんの弟子になりたいって言ってたからね……。どうしても諦めきれないんだろうさ」
メアリは少女をひと睨みし、怯んだ少女に大きな溜息を吐く。
……なるほどな。
僕は今抱いている感情をリセットする為に、眼鏡をクイッと上げる。
こいつはフィリアの弟子になりたい。
それで、フィリアが伴侶を持つことを嫌がった。
だから、僕にプロポーズした。
ハッ……意味が分からん。
大体自身も伴侶を持てば、どうせ弟子などやっていられなくなるだろうに。
まあ、所詮ガキの考えること……そこまで深くは考えてはいなかったのだろう。
まあ、確かに彼女の夢を潰しているのは僕なのかもしれない。
フィリアが弟子を取らなくなったのは、僕の眼鏡の維持に専念する為だと思うし、僕と共にあるうちは弟子を取ることはまずないだろう。
だが、だからなんだというんだ。そんなことは僕には関係ない。
どんな理由があろうと、僕から何かを奪おうとするやつに、容赦などしてやるつもりはない。
「メアリ、僕は最初に言った通り、僕からフィリアを奪おうとするやつは全力で排除する……!」
「…………!」
メアリは僕に怒りに燃える目を向けられ、たじろいだ。
先程の僕の魔力を見たのだ……恐怖しない方がおかしい。
そして、僕は状況を理解できていない少女を目に映し、心底バカにしたような雰囲気を以って鼻で笑い、彼女に告げてやることにする。
「だがな……フン……こんなちんちくりんなガキに、少しくらい何かを言われたくらいではな」
まあ本当は、メアリの顔を立てる意味もある。
流石に娘を守ろうと、自身の体を盾にするやつに悪感情は抱けない。
「し、失礼な……! 誰がちんちく……ぅッ!」
少女は肩をわなわなと震わせて、文句を言おうと身を乗り出すが、その瞬間、少女の頭にメアリのゲンコツがめり込んだ。
……これは相当痛い。僕なら絶対に受けたくない。
「失礼なのはあんただよ! 全く……!」
メアリは痛みでうずくまる娘を見て、手をパンパンとはたき合わせる。
「すまないね……そして、感謝するよ……レイム」
「なんの話だ?」
まあ正直、あのゲンコツを受けた少女を見て、既に溜飲は下がった。
だから、僕はもうあの少女への興味は消え失せているのだ。
「素直じゃないね。まあいいさ、この子にはきっちりと説教しておくから、あんたは早く帰りな。そろそろ立っているのもつらくなるんじゃないかね」
「ああ……そうさせてもらおうかな」
確かに、少々辛くなってきたところだ。
しかし……まだ、説教するのか……容赦ないな。
僕は少しだけ少女に同情し、メアリと軽い挨拶を交わして、家へと戻った。
「ほお、そんなことがのう……」
時は夕食時、今は今日あったことを報告がてらに食事を進めている。
僕達は向かい合って座っているが、フィリアは何故かうつむきがちだ。
別に元気がないというわけでは、なさそうだがな。
「……ああ、それにしても、弟子を取ってたなんて初めて知ったよ」
「なに、昔の話じゃよ」
「……やっぱり、それを教えなかったのは僕に気を使っていたからか?」
僕の為に弟子を取るのをやめて、それを知った僕に気を使われることを心配しているのだろうと考えていたのだが……。
「いや、そういうわけじゃない。そもそもお主のことと弟子のことはあまり関係ないのじゃ」
「そうなのか?」
なんだ勘違いだったか……。
まあそれならそれでいいが、少し自意識過剰気味で恥ずかしいな。
「元々はお主の眼鏡の件を受けた後も、しばらくは弟子を取っておったぞ。しかし、あるとき弟子を取ることに意味を見いだせなくなってしまっての……まあ、タイミングが良かったから辞めただけじゃよ」
フィリアの顔が少し暗くなる。
「何かあったのか?」
「……我は――」
フィリアは僕の目を見ては、すぐに慌てて反らした。
その後、少し逡巡したが、意を決したように語り出す。
もしかしたら、僕が言った、「僕達の間に隠し事はなしだ」という言葉を思い出していたのかもしれない。
「……我は弟子を沢山持った。その中には優秀な者、不出来な者……まあ様々な者達がおったが、その中でな……やはり、悪人と呼ばれる人種がおったのじゃよ……しかも、才能もずば抜けて高い奴がの……」
なるほどな……。
僕は眼鏡をクイッと上げる。
その悪人が何かしでかしたから、フィリアは弟子を取らなくなったということか。
才能のある悪人なんてモノは始末におえない。
才能を別の方向へ向ければ、歴史に名を残すことだってできる人間も、私利私欲のみを追いかけた瞬間に、その名は泥に塗れ、闇の中に紛れてしまう。
そうなれば、後は闇の中で醜く蠢く汚らしいゴミ以下の存在になり果てる。
ただ自身の為だけに生き、光の中の人間を蹂躙しようが、同じ場所へと落とし込もうがお構いなしだ。
「今日異空間の魔道具をつかったのじゃろう?」
「あ、ああ、あれはすごいな」
「ああ、すごい、すごすぎたのじゃよ……」
僕は素直な感情を口に出したが、フィリアの反応は決して自画自賛などではない。
なぜなら、彼女の顔が暗く歪んでいたからだ。
「その悪人の作った魔道具はの……その異空間魔道具を応用したものでな。時間を止めて、人も物もなんでも簡単に持ち運べるという優れたモノじゃった」
それは掛け値なしにすごい。
遠くの港町から魚を取引するのも容易だろうし、病気の人を病院に運ぶことだって簡単にできる。
商業、医療、他にも色々数えればキリがないほどに、いろんなことに応用できる。
そんなモノがあれば、僕達の生活は間違いなく豊かなモノになるだろう。
……それが平和利用されれば、だが……。
「あやつは、あろうことか、ソレを裏社会の人間に高値で売り付けたのじゃよ。おぬしは知っておるか? V・L狩りを……」
「ああ……確か女性との霊的な繋がりを欲する人間が、無差別に若い女を襲う犯罪行為だったな?」
昔の僕なら信じられなかったかもしれないが、今はそういうことをするやつがいることくらい分かっているさ。
「ああ、そして、ソレを組織ぐるみでやっている集団がいるのは知っているか?」
「いや……知らないな……まさかそれが?」
「そうじゃ。せっかくじゃし、覚えておくのじゃぞ……。その組織の名は『アストレイ』。上流階級から、冒険者まで、様々な顧客がいると言われているが、その犯罪の尻尾は一切つかめない。何故なら――」
「――あの魔道具を使用しているから……か?」
「……そうじゃ、あれは持ち運びも容易じゃし、やましいことを隠すには適しておるのじゃろうな」
「……その魔道具はどのくらい出回ってるんだろうな?」
そんな恐ろしいモノが、犯罪組織に量産されてしまえば、こんな穢れ切った世界では、弱い者はただ蹂躙され、搾取され、圧殺されてしまうだろう。
僕だって無関係ではいられない。
僕の愛する人を狙う輩がいないとも限らないのだから。
「確か……三点ほどじゃったかな。それはお主の眼鏡と同じように、特殊な素材が必要でな。だから多くは作れんのじゃよ。まあそれがせめてもの救いかの……」
フィリアは何かを思い出すように遠くを見つめていた。
彼女は僕より長い年月を生きている。
確か百年以上前からこの街で弟子を取っていたと聞く。
長年続けていた師匠をやめたとき、彼女は何を思ったんだろうか?
僕という言い訳がなければ、彼女は辞めずにそれを続けていたんだろうか?
考えても仕方ないことなのだろうが……僕は昔のフィリアを何も知らない。
今の彼女の瞳には……僕は映っていないのだ。
「……そういえばフィリア?」
「ん? なんじゃ?」
「どうして今日は、僕の目をあまり見ようとしないんだ?」
ぎくりと、フィリアが肩を震わせる。
「僕は今日魔力枯渇で、魔眼は休眠状態なんだから、そこまで警戒することはないだろう?」
魔力枯渇による体調不良……今はもう気分も大分楽にはなったが、まだまだ体は重い。
魔眼も言わずもがなで発動すらしないのだ。
普通なら彼女の警戒に値するようなことは一切ないはずだ。
でもまあ、一応尋ねてはみたが、本当は彼女がこういう態度をとっている理由はあらかた予想がついているのだがな。
「べ、べつになんでもないのじゃ……!」
フィリア……何かある人間はみんなそういうのさ。
「……そうか、それならそれで良いんだがな……。でも、一つだけ言っておくが、僕はフィリアが心配なだけだぞ? それとも僕に心配なんてされたくないか?」
僕は眼鏡をクイッと上げ、うつむく。
あたかも僕は悩んでいる……と言わんばかりに。
「あ、いや、その、ほ、本当に何でもないのじゃ!」
「そうか……なら僕の目を見て言ってみてくれ」
「あえ! で、でもそれは……!」
「もしかして僕の目が嫌いか? この紅い……ルビーのような目が……」
僕の薄暗くも赤い瞳……例え魔眼が発動していなくても色まで変わることはない。
その暗く透き通った瞳が、フィリアの姿を捉える。
彼女の顔はやはりうつむき気味で、僕の瞳の中でも揺れ動いている。
「あ、あ……その……」
口をぱくぱくと動かすフィリアを可愛らしく思う。
あまり苛め過ぎても可哀想か……。
「ふふ……ああ、分かっているよ……僕の目を見てると思い出すんだろう?」
僕の言葉にフィリアはビクリと体を震わせた後、上目づかいで僕の様子を窺ってくる。
「いいんだよ……隠さなくてもね」
「あ……」
僕は手を伸ばし彼女の頭を撫でる。
「僕はフィリアの目に留まらないことの方が哀しいよ」
「う、うん……すまんのじゃ……」
いや……そうじゃないな。
フィリアの申し訳なさそうな顔を見て、僕は少し思いを改めた。
「……でも無理して克服することもないかもな」
そうか……君の瞳に僕が映っていなくとも、僕の瞳には今は君しか映っていない。
今はただそれで良いじゃないか……。
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