発現したスキル
フィリアに魔眼を使い、彼女に何かの儀式を行ったレイムは……。
「さて……フィリアの心も決まったようだし、スキルの話に戻るか」
大分話がずれてしまったが、元々その話をしていたのだ。
「ああ……そういえばそうじゃったな」
フィリアはそう言った後、しばらくの間、瞑目し精神を集中させた。
「ふむ、我のスキルは……ライン拡張……じゃな」
「ライン拡張? どんなスキルなんだ?」
「どうやら今、我とお主の間には、橋渡しをした後と同じように、霊的なつながりができておる……というかこれはお主も知っておるか……」
「ああ、そうだな」
スキルというのは、あると自覚すると、使用できるスキルの効果と使用法が分かるようになる。
だからフィリアも、僕が彼女にスキルがあると指摘し、それを自覚した後、精神を集中したことで使用方法が分かったのだ。
僕も昨日、初めて魔眼の存在を聞かされたが、問題なく能力を使えたのはそのためだ。
「……それでな、その霊的なつながりによって、お主と一緒にいるときにのみ、我の作った魔道具の効果を拡張できるという能力のようじゃな。まあ言葉では少し分かりにくいな。例に出すとすれば……お主に貸していた魔道具があったじゃろ?」
僕がイカレ女から逃げ出したときの魔道具のことだな。
「あれは一人用で、この町限定で、一方通行の転移の魔道具じゃ。しかし、我とレイムが共にあれば、理論上、多人数で、どの場所からでも、行ったり来たりできる魔道具になる……ということじゃな」
「それは……すごすぎないか?」
正直言って、少し魔眼の力を舐めていたかもしれない。
これがあればいつでもあいつらに――!
「まあ、出口の方には魔法陣を描かねばならぬから、行ったことのない場所には行けぬし、距離や人数が増えるほど魔力の消費も大きくなるから、そこまで便利というわけでもないのじゃが……」
……やはり、そこまで上手い話はないよな。
拡張できるのはあくまでも効果だけで、制約をとっ払ったりはできないということだな。
「後は……魔道具使用時の魔力は、お主と我の両方から半分ずつ負担する感じじゃな」
「そうか……それじゃあ、魔力の少ない僕のせいで、そのスキルは死にスキルになりそうだな……」
……僕は魔法がうまく使えない。
生活に支障のないレベルでは使えるが、戦いには全く役に立たない。
それに、最近はそうでもないが、子どもの頃はよく魔力切れを起こしていた。
つまり、それほどまでに僕は保有魔力そのものが少ないのだ。
「あー、そのことなんじゃがな……」
フィリアは自身の手をつなぎ合わせ、何かを言いだしづらそうな顔をしている。
「どうした? ……トイレか?」
「違うのじゃ!」
怒らせたか……まあ、言いだしづらそうな雰囲気は消えたし、まあいいか。
「全く……! ……ああ、それで、お主の魔力じゃがな……。知らんかもしれんが、お主の魔力は恐ろしく多いのじゃ」
「えっ……何を言っているんだ? 僕は初級魔法ですら、不発に終わることが多いんだぞ?」
「それは魔力の多さとは関係ないのじゃ」
「いや、でも……」
「まあ、最後まで聞くのじゃ。……その眼鏡じゃがな。本人の魔力をかなりの割合で吸っておるのじゃよ。今は、大体一日あたり上級魔法五発分ぐらいじゃな」
この小さな眼鏡に上級魔法五発分だと……?
あのとき、イカレ女が放った火の玉ですら上級魔法とは言えなかっただろう。
僕にあれ以上の魔法を放てる魔力があると言われても信じ切れない。
「お主が赤ん坊の頃に、その眼鏡の製作を依頼されたのじゃがな……。最初は断ったんじゃよ……。要望通りにすれば、あまりにも魔力消費が大きいと分かったからな。それにお主の力のことをお主の親から聞いたとき、正直、封じるべきモノじゃとも思えんかったしな」
魔力は使い過ぎれば、身体機能を害し、無理をすれば死に至る。
赤ん坊にそうなりかねない道具を持たせると言われたら、確かに断るだろうな。
それに、V・Lに作用して、気持ち良くさせると言われてもピンとこないだろうし、スキル発現や身体能力強化自体も、別に悪い能力というわけではない。
「じゃがな……お主を最初に連れて来られたときに、膨大な魔力を感じてな……魔力は使えば使うほどに増えてゆくのじゃが、どこまで増えるのか興味が湧いてな……」
少し、気まずそうにフィリアが視線を逸らす。
「おい……」
「も、もちろん今は違うのじゃ! ただ、きっかけがそうじゃったというだけじゃ!」
慌てて弁明するフィリアを見て、僕は一つ溜息を吐く。
仕方ない、一回のお仕置きで許すとするか……。
「分かった……それで?」
「コホン……それで、今ではお主の魔力は、おそらく上級魔法二十発分くらいはあるのではないかの? 人間は勿論、我々エルフの中でもそこまでの者は中々おらんはずじゃ」
魔法に関しては人間とは一線を画す、と言われているエルフの上位並みとは……。
「それと、魔法の使用に関してもじゃがな……眼鏡に魔力を吸い取られる影響で、魔法の発動を阻害されておったのじゃよ」
「なるほどな……どおりで教わった通りにやっても魔法が上達しないはずだ」
そういえば、フィリアに昔魔法を教わろうとしたとき、「魔法なぞできんでも生きていけるのじゃ」と励まされた覚えがあるな……。
あの頃は、僕の才能のなさを励まそうとしているのだと思っていたが、本当は魔法を上手く使えない理由を知っていたからだったのかもな……。
「……悪いとは思っておったが、お主の親に口止めされておったからな」
「……気にするな。フィリアはやるべきことをやっただけだ」
正直、当時は魔法を使えなくても、そこまで不満も不便もなかったからな。
流石に両親が亡くなったときは、金を稼ぐためにも、僕も魔法を使えれば良かったのに……と悔しがってはいたが。
「まあ、じゃから我のスキルはかなり有用で、お主との相性も相当によいと思うぞ」
「そうか……まあ、よかったよ。これであいつらへの復讐に現実味が帯びてきたしな……」
だがまだ足りない。
魔道具だけであいつらに勝てるとは思えないのだ。
今は雌伏のときだ……。
いつか立ち上がるときの為に、使える手札の価値を上げ、できることを増やして、準備を整えないとな。
「それじゃあ、しばらく僕は魔法の練習をしてみるとしようか……」
魔法が使え、魔力も大量にあるのなら、そこを伸ばさない手はない。
「というわけでフィリアにはーー」
「え!? だ、ダメじゃ、レイム! 眼鏡は外すでないぞ!」
しかし、フィリアが僕の考えを拒絶する。
まだ全部言ってないんだがな……。
「いや、でも、眼鏡外さないと魔法使えないんだろ?」
「ダメじゃ、ダメじゃ!」
フィリアは腕を組んで、顔を背ける。
頬も膨らませ、つんとしている。
「分かったよ……フィリアにはもう頼まない。誰か教えてくれる人間をギルドででも探すよ」
あまり他人と接触したくはないが、フィリアが教えてくれないなら仕方ない。
「悪いとは思うがの……。でも、そうか……それなら一人、我にアテがあるのじゃが、紹介しようかの? 子持ちでV・Lもないから眼鏡の問題もクリアできるのじゃ」
フィリアの紹介なら悪くはないか……。
全く知らない他人より、最愛の人の知り合いならまだ信用できる。
だが、素直にうなずくだけでは芸がない。
そういえば、まだお仕置きが残ってたな……。
僕はフィリアにどういう風にお仕置きをするかを、少しだけ悩んだが、すぐに天啓を得ることができて、内心ほくそ笑む。
(この手でいこう……)
「嗚呼……。僕はフィリアと共にいたかったんだがな、フィリアはそうではなかったということか……」
眼鏡をクイッと上げ、掌で顔を覆ったまま、心から嘆く――フリをする。
「え? え? え? あ、え、あ、ち、ちがーー!」
僕の演技にフィリアはアワアワと慌てふためく。
もう既に泣きそうだ。
うん、フィリアはやはり可愛いな。
僕がこんなことを考えているとも知らずに、フィリアは口をパクパクとさせている。
「僕はこんなにもフィリアを愛しているというのに……フィリアはそうじゃなかったのか……?」
「ち、違うのじゃ! わ、我だって本当は一緒にいたいのじゃ!」
フィリアは体全体で僕の言葉を否定する。
その姿を見るだけで、フィリアが自分のことを深く愛しているのだということを確信してしまう。
ああ、分かっているよ。
フィリアが僕を愛していることくらいね。
でも、僕は分かるだけじゃ足りないんだ。
感じたいんだ、知りたいんだ、気づきたいんだ!
当たり前のことを分かっていても、意味などありはしない。
ふとした時に現れる彼女の仕草――
その中に愛を感じ、知り、気付くことこそが、僕にとっては至高の喜び、心の震えとなるのだ。
だから僕は、彼女を試してしまう……。
これが愛に飢えるあまりの行動だと気づくことなく――
「間違いないか?」
「ああ、あたりまえじゃ!」
「そうか、それは良かった……」
ホッとした顔をしたフィリアを見て、僕は心でニヤリと微笑む。
「なら、今日はずっと一緒にいようじゃないか……」
僕はユラリと立ち上がり、フィリアの肩を優しく掴む。
「え、な、何を……?」
「良いから、良いから」
「レ、レイム……な、なんで我の体を抱え上げるのじゃ……? どこへ連れていくのじゃ……! そっちは我の部屋じゃぞぉ! なぜ眼鏡をはずすのじゃああぁぁぁぁぁ!」
この後めちゃくちゃ魔眼を使用した。
これにて第一章が終わります。
ある程度ストックがたまり次第連載再開といたしますので、お待ちいただけると嬉しく思います。
さすがに毎日更新は無理かもしれません。




