表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/29

レイムの秘密

寸でのところで最悪の状況から逃れたレイムだったが、彼は男としてつらい現実を突き付けられるのだった。


今日も二話投稿の予定です。

後編は少し閲覧注意ですね。

「……落ち着いたところで、我はお主に告げねばならぬことがある」


 フィリアの家で夕食をご馳走になり、居間でお茶を飲んてくつろいでいるときに、彼女は深刻そうな顔でそう告げてきた。

 僕とフィリアは小さな机の前で、お互いに向かい合っている状況だ。


「別れ話なら拒否するぞ」

「……冗談でもそういうことを言うでない……!」


 眼鏡をクイッと上げた僕を、フィリアがじろりと睨む。

 良く見ると、彼女は少し震え、目には涙がたまっている。


 やれやれ……こんなことで愛情を感じようとするなんて、僕も末期症状だな。


「ごめん、悪かったよ。……それで大事な話ってなんだ?」


 頭をポンポンと撫ぜると、最初は驚いていたフィリアが徐々に気持ちよさそうな顔に変わる。


「えへへ……」


 僕が手を離すと、彼女はハッとして、自身がしていた反応を思い出したようだ。

 顔を赤らめた後、一つ溜息を吐き、恨みがましい目をこちらへ向ける。


「お主……性格まで少し変わっておらんか?」

「……そうかもな」


 先程までは丁寧にしゃべっていた為、言葉に引っ張られていたが、今の僕は少し……言葉では表現しづらいが、とにかく昔とは何かが間違いなく違う。


 いうなれば、生まれ変わったような……そんな感じだ。


 でも、それが悪い変化だとも思えない。

 率直にいうと、僕はただ、現実というモノと向き合っただけなのだ。


 善性の人間にこの世界は優しくないこと。

 愛というのは与えるモノで、与えられるモノではないこと。

 人は損得勘定により、簡単に他人を裏切るのだということ。


 親の教え全てが、間違っていたとは言えない。

 だが、それらは全て、子どもの僕に向けられたものだった。


 汚く穢れた世界を、綺麗で穢れないモノだと教えることが、親の子どもへの優しさだとするなら、現実を知り、うちひしがれた人間を救うのはーーそれは愛する者(フィリア)なのだろう。


「僕の性格が例え変わっていたとしても、フィリアへの愛と信頼は変わらない……それで充分だろ?」

「そ、そう……じゃな……」


 頬を染めるフィリアの頭を再び撫でる。

 やさしく慈しむように……。




 そう、僕はフィリアを信じている。

 しかし、いくらフィリアを信じると決めたとはいえ、それ以外の人間は違う。

 僕は人を信じるのが美徳だと教えられ、自身もそれが真理であると思っていた。


 だが、今では『吐き気がしそうなほど甘々な理想論だ』と自信を持って言える。


 今日僕は知った。

 他人という存在は、もっと疑ってかかるべきなのだと。


 その駆け引きは出会ったときから始まっている。

 相手をどう利用してやろう、相手よりどうやって上に立とう、相手から何を奪ってやろう。

 そういった際限ない欲望に、人は塗れているのだ。


 損得勘定のない関係というのはあるわけがない――何て言うつもりはない。

 純粋に信頼し合う関係だって、確かに存在すると思う。

 だがそれは、何十何百何千何万、いやそれ以上に無数にある縁の中のほんの一握り……。

 月並みな言い方をすれば、それはまさしく奇跡であろう。


 起こるか起こらないかも分かりやしない、不確かな確率の末にあるモノがそれ――真の信頼関係――なのだ。


 僕とフィリアの関係は――決して、そうだとは言い切れないだろう。

 確かに僕は彼女を信頼し、彼女も僕を信頼してくれているだろうと思う。

 だが、疑いの心がゼロかと問われれば、僕は首を縦には触れない。


 あいつらの――あのクソ女(ラーナ)イカレ女(ジャンネ)のせいで、僕は疑念という感情が膨れ上がってしまった。


 信じたい気持ちが大きければ大きいほど、僕の中の疑念の炎が大きく燃え上がってしまうのだ。

 無理に押さえ付けようとすれば自身を燃やしかねないほどに……。

 もうフィリアには、僕がそういう状態であるということは、告げてある。


 しかし、彼女は一言……「それでもよい」と言ってくれた。


 僕は本当に、彼女に甘えっぱなしだ……。




 僕はそんなことを思いながら、彼女の頭を撫で続ける。


「えっとじゃな……嬉しいのじゃが、話ができんのでな……? そろそろ手を離してくれぬか?」

「ああ、悪いな」


 僕が手を離すとフィリアは少し残念そうな顔をした。

 おいおい……お前がやめろって言ったのに……。

 そんなフィリアを可愛らしいと思いながらも、話を進める為に僕から声をかけることにする。


「それで……どんな話なんだ?」

「ああ、お主のその眼鏡のことじゃよ」

「これがどうしたのか?」


 僕は眼鏡を外して、手にとる。


「っだ、だめじゃ! それを外されたら落ち着いて話ができなくなるのじゃ!」


 慌てて僕から目を逸らすフィリア。

 何で、眼鏡を外すと落ち着けないんだ?

 いつも整備のときは外していたじゃ……いや、そういえば外してしばらくすると、いつもどこかに引っ込んでたな……。

 まあいい、とりあえず眼鏡は着けておいた方がいいようだ。


「ほら、着けたから……続きを話してくれ」

「全く……ただでさえ、中途半端なのに……」

「ん? 何か言ったか?」


 ゴニョゴニョと何かを呟いているが、全く聞こえない。


「何でもないのじゃ!」


 何故か怒ってるし……。


「話を戻すぞ? コホン……それでな、実はその眼鏡はお主の『魔眼』の効力を抑える為の魔道具なのじゃ」


 まがん?

 聞いたこともないな。


「なんだ、それは?」

「まあ、かなり珍しいモノじゃし、知らんじゃろうな。魔眼の定義は目に常時発動している特殊能力のことじゃ。基本的に魔眼で見たモノに対し、何かしらの影響を与えるのじゃ」

「どうして僕にそんなモノが……?」


「……それはな、お主の母親の血筋によるモノじゃ。まだ我が生まれるよりも前のことじゃが、お主の先祖はここらを治める王族じゃったそうでな。稀にその魔眼を持つ者が生まれたそうじゃ。そしてあるとき、一人の男がその魔眼を悪用したせいで国は滅び去ったそうじゃ」


「もしかしてそれが……」

「ああ、ライン活性化(アクティベート)の魔眼じゃ」

「ライン活性化……」

「ああ、名前だけではよく分からんかもしれんがな」


 国を滅ぼす程の魔眼って……。


 想像もつかないような、災厄をもたらすようなモノなのだろうか?

 復讐に役立つなら良いが、自身を滅ぼすようなモノなら願い下げだ。


「その魔眼の能力はな――V・L(ヴァージニティライン)を活性化させ、新たな能力を生みだし、身体能力の強化を施せる……というものじゃ」


 新たな能力を生みだし、身体強化を施せる?


「……ちょっと待ってくれ、それのどこが国を滅ぼす力なんだ?」


 確かに新たな能力を与えるような能力はすごいと思う。

 身体能力の強化だってそうだ。

 だが、国を滅ぼせるような力……そんなに大それたものか?

 それにわざわざ能力を封じようとしていた理由も分からない。


 僕の質問に、フィリアは何故かモジモジとして、伏せ目がちになる。

 何か、自身の恥ずかしい秘密を打ち明けようとしているような……そんな反応だ。


「あのな、それは……その、ライン活性化はな、その……気持ちいいんじゃよ……」

「気持ちいい?」

「ああ、その……人間の本能を刺激する快楽……と言ったら良いんじゃろうか……フワッとして、キュンとして……プチュンとするんじゃ……」


「……抽象的すぎて良く分からないが、集中できないほど、快楽で心がかき乱される……ということか?」

「ああ……そんな能力を、常時まき散らすわけには……いかんじゃろ?」


 だからさっきも眼鏡を外すなと言っていたのか。

 顔を赤らめながら語るフィリアを見て、僕は納得した。


「なるほどな……その男はその力をどう悪用したんだ?」


「……魔眼の力を使って、平民、貴族問わず、国中の美しい美女を囲っておったらしくてな……相当にひんしゅくを買ったようじゃ。まあ一応そやつは王になったらしいが、あまりにも跡継ぎが多過ぎて、内乱が起こり、そのまま他の国に侵略されて滅亡したと伝わっておるの」


 ご先祖さんは何をやってるんだ……。

 国の滅亡ストーリーにしては陳腐過ぎやしないか?

続きが気になる方はブックマークなど、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ