不審と不信
ジャンネにも裏切られ、彼女の魔法の炎に包まれた主人公はーー
今日は二話投稿予定です。
「……どうやら、使えたようだな」
あの人に借りていた魔道具……あいつらの妨害を潜り抜けられるかは賭けだったが、なんとかなったようだ。
だが、もうそのようなことはどうでもいい。
(殺してやりたい! どうすればいい?! あいつらを地獄へ叩き落とすには……!)
僕はもう、この衝動を抑えることができそうもない……!
「レイム……か?」
怒りに震える僕の後ろから声がかかる。
とっさに振り向くと、そこには寝間着姿のエルフがいた。
「どうしたんじゃ? こんな時間に……? 何かあれば来いとは言ったが、こんなに遅い時間におなごの家に上がり込むのは考えものじゃぞ?」
少し照れたような表情。
いつも通りの彼女だ。
――いや、本当にそうであろうか?
(フィリアさん……いや、違う……! こいつは……フィリアは何を考えている?)
彼女は信用できるのか?
彼女は何かを企んでいないか?
彼女は僕を見下していないか?
彼女は僕を――裏切らないか?
「なあ? 本当にどうしたのじゃ?」
そう言って、彼女は怪訝そうな顔で近付いて――
いや……こいつは、笑っている……! こいつは僕を嘲っている……!
こいつは僕を……陥れようとしているに違いない……!
ニヤニヤと悪魔のような笑みを浮かべた怪物が僕に近づき、手を差し伸ばす。
「近付くなッ!」
ビクリと、肩を震わせ彼女は足を止めた。
「ど、どうしたのじゃ? ラーナ達と何かあったのか……?」
「その名を呼ぶな! あんなクソ女の名前なんて……! 聞きたくもないんだよ!」
怒りに任せ、彼女に溶岩のような、ドロリとした身を焼き焦がす感情を彼女にぶつける。
「あいつらは……! あいつらは僕を裏切り、僕を否定し、僕から全てを奪った……! それじゃあ、お前は何を考えている? 金か? 家か? ハハハ……残念だったな……! 僕にはもう何もない! お前の望むモノなんか僕は持っていやしないぞ!」
ざまあみろ!
今まで僕に優しくしていたのも、何か目的があったんだろうが、もうお前の目的は何一つ果たせやしないんだ!
「レイム……お主何を言って――」
「しらばっくれるんじゃねぇ! フィリア……! あんたも僕を利用して裏切るんだろ?! 女なんてみんな同じだ……! 人を散々利用するだけ利用しておいて、いらなくなればゴミのように捨てる……!」
今日一日で、それが痛いほど分かった。
「もう僕は誰も信用しない……! 特に女は……!」
例え自身がいくら正しいことをしようとしても、善性を持って接したとしても、相手が同じように返してくるとは限らない。
いくら話し合いで解決しようとしても、相手が暴力を振るうかもしれない。
いくら教会にお金を寄付しても、神父が私利私欲に用いるかもしれない。
いくら他人に対し良い行いをしても、恩を仇で返されるかもしれない。
いくら人を愛し尽くしても、相手も同じように愛してくれているとは限らない――!
「これは返す……」
僕は彼女に借りていた魔道具を近くの机に置く。
自身の心の内をぶちまけたことで、僕は幾らかの落ち着きを取り戻していた。
「じゃあな、もう会うこともないだろう」
僕は店の外に向かう為、ドアへと足を向ける。
「……おい、何の真似だ?」
目の前には手と足を大きく開き、行く手を遮るエルフがいる。
「駄目じゃ……」
「なんだと?」
フィリアを睨むと、彼女はピクリと震えつつも、僕を正面に見据える。
「駄目なんじゃ……! 今ここでお主を行かせたら……取り返しがつかなくなってしまう……!」
「何を言っているんだ? 僕はもうお前にとって利用価値のない人間だ。何かが欲しいなら他をあたってくれ」
だからそこをどけ、僕の邪魔をするな。
「違う……! そうじゃない……!」
大げさなぐらいに首を振り、フィリアは僕の言葉を否定する。
「違う? 何が違う? お前があいつらとは違うとでも言いたいのか? ハッ……! 何も違いやしないさ!」
だってお前は僕に優しくしたじゃないか。
だってお前は僕を心配したじゃないか。
だってお前は僕に笑いかけたじゃないか。
全部僕を利用する為だったとしか考えられない……いや、そうでなければいけないんだ。
そうでなければ――!
「ちがう……我は裏切らない……!」
嘘を言うな。
「今までだって……確かに、我も何も思惑がなかった訳ではない……」
やっぱりそうじゃないか……。
「でもそれだけじゃない……! 我はお主を否定したことも、見捨てたことも、傷つけようとしたこともない……!」
それ、は……。
「もちろん何も奪うつもりだってないのじゃ……!」
いや、駄目だ……これは駄目だ……!
彼女の言葉を受け入れたら僕は――!
炎から逃れた魔道具は、数話前の『帰って……』で、受け取っていたやつです。
覚えてますかね?
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