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中編① 焔戦隊、マネージャーピンク!

 俺の家に留学生として滞在し、同じ高校で過ごすことになったピンク色の髪を持つ少女、ほむらシュリ。


 そんな彼女が実は、俺の願いを叶えるため魔界より召喚された炎の使い手という話に俺は半信半疑であった。


 しかし、彼女の放った『ほむら』という炎の技を目の前にし、どうにも信ずるを得ない状況となっていたのである。


 ……まあ。人生には驚くべきことが驚く程待ち構えているっていうし。これもその一つだと思うしかあるまい。


 そしてその技によって先刻ツンツル坊主になった為、さぞかしパニックになっているだろう俺の頭皮さま以下毛根くん達に比べ、俺の心は至って冷静であった。


 俺は禿げた、いや冴えた頭で思い付いたのだ。彼女が魔界、ホシガラース国へ帰るためのスバラシーキ案を。


「とりあえず、野球部を手伝ってみない? マネージャーとしてさ」


 要はチームの為に誰かが熱いホームランを打てばいいのだ。そしてシュリがマネージャーとしてチームの活躍に協力すれば、間接的ではあるが俺の願いを叶えたことになる。


 そうすれば悲願の甲子園だけでなく、魔界へ帰る道も開けるかもしれないと俺は考えたのである。


 その案にシュリは承諾するのだが、ただ『マネージャー』という言葉に首を傾げる。


「ほう、まねーじゃー。それは一体何をするのですか」

「俺たち野球部の使う道具を整理整頓したり、飲み物を用意したりすることさ」

「なるほど、野球を行う殿方のお世話をすれば良いのですね」


 ほう、殿方のお世話と来たか。素敵な言葉をご存じの様で。ふつつかな青二才ばかりですが、どうぞよろしゅう。


「まあ、とりあえず今日の練習を見にくれば良いよ。そしたらどんな感じかわかるからさ」


 そうしているうちに、おっとこんな時間。練習へとGo、go、go~!!!


「焔のシュリよ。いざともに参らん!」




 ――並木道にはシュワシュワと一斉に泡が弾けるようなセミの鳴き声。


 自転車を漕ぐ俺のすぐ後ろで、荷台にちょこんとシュリが横座りをしている。彼女は自転車に乗るのも初めてだと言っていた(実際には、じめじめです、と言っていたが)。


 自転車が下り坂を一気に下ると、シュリは楽しげに歓声を上げた。心地よい風が二人の髪――あ、俺にはなかった、をなでる。


 いいね、夏だね。なんか、スッゲー爽やかな気分。さっきまでこれからどうなることかと思っていたけど、案外前向きになれるもんだな。


 そして、高校へ。自転車を置き、グラウンドへ向かおうとすると、さっそく同胞に遭遇。


「よう、トオル。今日は遅いんだな。ってなんだよ、その頭はー!!」


 はい、爆笑。カウント1入りましたー。


 人の頭を見るなり、腹を抱えて笑うこいつは汐留しおどめタツヤ。俺と同じくナインのメンバーで、ポジションはショート。普段はチャラくてふざけた面も多いが、野球になると真面目一徹。そして、なかなかの俊足の持ち主でもある。


「うるへえ。ちょうとスッキリしたかったんでい」


 そう意地を張りながらも野球帽をそそくさとかぶる俺。

 すると、タツヤは俺の後ろで佇むシュリに気づく。


「あらー、なになに。見かけない子だね、転校生?!」

「留学生だよ。どこか遠くの、しかも聞いたこともない国からの。うちにホームステイしてるんだ」

「こんな可愛い子が、お前んちに? まじかよ!  超うらやま」


 シュリって可愛いの? まぁ、整った顔をしちゃいるのかな。しかし、かなりの不思議ちゃんですよ? とまぁ、それはさておき。俺は本題を切り出す。


「せっかくだから、野球部のマネージャーにどうかなと思って。ホラ、3年生の先輩マネージャー達も引退したから今人手が足りないだろ?」

「おお、なるほど。いいねいいね! 監督に話すべ。ところでキミ、日本語話せるの? コンニチハー。アナタ、カワイイネ」


 シュリはタツヤの前に進み出る。そして突然、両足を肩幅に開いて腰を落とし、右手を地面にと突き出したのである。


「おひけえなすって。それがし、名を焔シュリと申します。どうぞお見知りおきくだせえ」


 ――どこで覚えたんだよ、その言い方。ああ、そうそう。この子ちょっと変わってるんですよ。でも根はいい子ですから、どうかひかないであげてね。


 場がシラケないよう俺は何とかかんとかフォローの言葉を考えるも。


「あはは。面白い子だねー。さぁグラウンドはこっちだよ。一緒に行こっか」


 タツヤは軽い笑みでシュリの挨拶をあしらうと、彼女の手をすんなりと引いてグラウンドに連れて行ったのである。


 呆気に取られる、俺。タツヤ君はナンパな男としても名を存じ上げておりましたが。なるほど、そのようにしておなごと手を繋がれるのですね。


 いつか俺にもガールフレンドが出来たときには、ぜひとも参考にさせていただきますね。




「うっす! トオル先輩、おはようっす!」

「おはようっす!」

「っす!」


 威勢のいい体育会系挨拶が俺の耳にこだまする。何を隠そう、うちの野球部には、3年生が引退してその数は減ったものの、部員がマネージャー数人を合わせて50人超も在籍するのだ。


 私立の強豪校に行く程ではなくとも歯応えのある野球生活を求め、地元の球児達がこの高校には沢山集まってくる。


 俺とコウはこの夏の大会と、次の秋の大会と続いてその中から選ばれし9人のうちに入ったってわけ。だけど油断をするといつ誰に追い越されるか分かったもんじゃない。


 そして今度始まる秋の大会については悩み所もそのままに。いかんせんチームには強打者がいないままであり、このままでは夏の地区大会における惜敗の二の舞だ。


 その焦りからか、監督はいつも以上にぴりぴりとした緊張感を漂わせている。


「おい、1年生! 何をちんたらやってるんだ!」


 監督はグラウンドを整備する後輩達に怒号を浴びせた。俺はその中の、いつも丁寧にラインを引いてくれる後輩がやけに困った顔をしているのに気付いた。


「おい、どうしたんだよ」


 俺は彼に近づいて声をかける。


「ここだけ、どうしても綺麗に白線が引けないんすよ」


 そう訴える彼の足元には、左打ち用のバッターボックス。昨日、俺が黄金の右足で蹴り飛ばした所だ。確かここが魔法陣となったんだっけ。もしかして、その影響?


「なんだろうなー。ま、ちょっと削れれているだけだし。そのままでいいよ、監督に言っておくから」


 俺は事情に心当たりがあるものの、適当にごまかす。


「サーセン」


 後輩は帽子を取り一礼すると、白線引きを手に去って行った。


 君のせいじゃないよ。俺は心の中で彼を庇う。もちろん俺のせいでもないんすよー、多分ね。


 それから俺はシュリを監督に紹介し、無事彼女をマネージャーとして置いてもらうことに成功したのである。


 ――山森第一高校内野球部グラウンドにてシュリピンク改めマネージャーピンク、投入完了。まずは第一段階の成功を報告する。後はホームランを打つのみ。頼むぞ、トオルレッド。……えっ。俺っすか?!

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