北森高校不思議研究会の退屈な日常
「あぁ~やる気ない。しんどい。疲れた。ジュース飲みたい。」
夏の始まり。蝉がうるさくなってきた季節。運動部のように動くこともなく
かといって文芸部のように行動しているなんて事もなく。
隣の机に突っ伏してダラッダラと文句を垂れる我らが同好会部長。北森高校2年、如月乙女。
「黙って下さい部長。読書の邪魔です。」
冷たく突き放す眼鏡王子、もとい同好会副部長。北森高校2年、遠宮照。
「なぁんか、楽しい事ないですかね~」
部長と同じく机でだれているのが私。北森高校1年、藤堂みくら。
同好会はこの3人のみ。なんの同好会かって?
聞いて驚け見てひざまずけ、我らなんと詰め将棋研究会!
…とは表向き。中身は将棋とは一切関係ない、不思議研究会でございます。
なにそれ、とお思いでしょう。お気持ち痛いほどわかります。
私自身なんでここにいるのかわかりません。姉のみくりが同好会の存続の為とか言って
投げ込まれて早3ヶ月。途中、古い物置の奥から大昔の棋士の想いを受け継ぎライバルと
戦う運命を背負った1年生だとか、将棋の世界に魅入られて仲間とともに全国のライバルや
最強の姉と戦う1年生なんかも入部しそうになってたけど、その度にことごとく部長が
「お前ら来るとこまちがってっから。」と追い返したせいで今年の新入部員は未だに私だけ。
ちなみに今までの部活動の内容はダラダラする以外ない。
「おい、みくら。」
乙女部長が横っ面を机に押し当てたまま怠そうに私を呼ぶ。
う~む、嫌な予感しかしない。
「わたしを背負って便所まで行ってくれないか。」
おわーぉ。めんどくさい事この上なし。
「みくら、ウザかったらウザいと言える大人にならないとダメだぞ。」
本のページをめくりながら淡々とした口調で言う副部長。
「じゃあここで漏らすまでだな。みくらが連れていってくれないせいで部室がアンモn」
「はいはいはい、行きます。行きますよ。でも背負うのはウザいので肩ならお貸しします。」
「さすが、できる女だな、みくり~。」
そう言いながら、しな垂れかかってくる部長。結局おんぶみたいになってしまい
ズリズリと部長を引きずりながら女子トイレを目指す。
「あ」部室を出ようとドアノブに手をかけた時。
「そういや最近知ったんだが、3年の女子トイレに花子さんが出るとか噂あったな。」
この野郎…余計な事言ってんじゃねぇ!
「ほーん、じゃそこ行こか。」ほらな。
今いる部室棟は2年生の校舎と渡り廊下で繋がっている。
2年の女子トイレならすぐ近くなのに…。まぁ言っても私よりちっこい部長はめっちゃ軽い。
が、この暑い中、人1人をズリズリ引きずっていくだけで汗まみれ。
2年の女子トイレ前で強引にひっぺがし、これ以上は自分で歩けと言うとぶーぶー言いながらも
歩いていく所を見るに、花子さんが気になって仕方ないようだ。てかトイレは???
誰もいない校舎をペタペタと2人。上履きのだらしない音が響き渡る。
「トイレの花子さんねぇー。」
「そういえば、花子さんって学校によって居る場所とか違いますよね。会う方法も違ったり。」
「えっ」
急に立ち止まったかと思うと素っ頓狂な声で私を見る。
「そなの?」「そですよ。」
乙女部長は難しい顔をしていたかと思うとパッと元のゆるい顔つきに戻り
「ま、いっか。」と、歩き出した。
3年の校舎の1階、女子トイレ。2階は男子トイレなのでここであってるはず。
「失礼します~よっと。」
オッサンみたいだな…。なんて思っている間に部長は1番奥の個室の前まで行っていた。
ゴンゴンゴン!ちょっと乱暴かと思うくらいにドアを叩き
「は~なこさ~ん、つ~らか~しな~。」と。なんともな事を言う。
…。
……。
なんにも起きない。そりゃそうだ。
部長もあきれ顔で戻って来る。「だめだこりゃ、騙されたな。くそー」
「早く戻りましょ。あ、そうだ昨日面白いサイト見つけたんですよ。それ見ましょ。」
「まじか!」
私が後ろを向いてすぐ、ガタガタッと音がした。
なんだなんだ?と振り返る。そこには乙女部長のみ。
「どうしました?何かしました?」
「うん。なんか急に顔に蜘蛛の巣かかったから思いっきり手振り回したら、
用具入れになんかぶつかったっぽい音がした。」
「え?なにが???」
「さぁ?わっかんない。それよりそのサイト、面白く無かったら罰ゲームね!」
今までのけだるい感じはどこへやら。素晴らしいスピードで部室を目指す部長。
あ~あ。なんか楽しい事とか不思議な事ないかなぁ。
そんなこんなで今日も日が暮れていくのであった。