鍵
ルナの言葉に、悠真は静かに耳を傾けた。
群れの狼たちは伏せたまま、静かに息を潜めている。
不毛の大地に沈む夕陽が、ルナの銀色の毛並みを赤く染める。
悠真は焚き火を囲むように座り、ルナに促した。
「災厄……って、何があったんだ?
詳しく教えてくれ、ルナ」
ルナは金色の瞳を細め、ゆっくり語り始めた。
声は低く、古い記憶を掘り起こすような響き。
「我が一族の伝承に、災厄の過去が刻まれている。
遥か昔、この大地は『エデンの森』と呼ばれていた。
豊かな緑が広がり、川が流れ、花々が咲き乱れ、獣たちは自由に駆け巡っていた。
我が一族は、その守護者として生きていた。
月狼王の血統を継ぐ我は、当時の長の末裔だ。
だが、百年前……闇の魔導師が現れた。
彼は大陸の覇権を求め、禁断の呪文を解き放った。
『枯渇の霧』と呼ばれる災厄だ。
霧は大地を覆い、植物の根を腐らせ、水源を干上がらせ、土を不毛に変えた。
森は枯れ、川は砂に埋もれ、生き物たちは飢えと病に倒れた。
我が一族は戦ったが、霧の力は強大で、多くの仲間を失った。
生き残った者たちは散り散りになり、我は長として、蘇りの手段を探し続けた。
あの白い実……お主が育てたものは、我が一族の伝説の薬草。
災厄の前に、森の奥で守られていたものだ。
お主の力で蘇った今、我らは再び団結する」
悠真は息を呑んだ。
不毛の大地の裏側に、そんな悲しい歴史があったのか。
地球の環境破壊を思い浮かべ、胸が痛む。
「魔導師……今もいるのか?
災厄は終わったのか?」
ルナは首を振り、群れを見渡した。
「魔導師は倒されたと聞くが、霧の残滓は今も大地を蝕む。」
ルナの語る災厄の過去に、悠真は深く頷いた。
焚き火の炎が揺れ、狼たちの影を長く伸ばす。
悠真はルナの金色の瞳を見つめ、静かに問うた。
「その災厄……闇の霧を、どうやって倒せばいいんだ?
俺の能力は植物を育てるだけだぞ。戦う力じゃない」
ルナは低く笑うような唸りを上げ、言葉を続けた。
「否、恩人よ。お主の能力こそ、闇に真っ向から対決できるものだ。
あの白い実――サンジーバニーは、災厄の霧を浄化する力を持つ。
お主の力で育てられた植物は、ただの緑ではない。
地球の恵みを宿し、闇の残滓を吸い取り、大地を癒す。
我が一族の伝承にも記されている。
『異界の緑の使い手が現れ、霧を散らす』と。
お主こそ、それだ」
悠真は息を呑んだ。
能力がそんな大それたものだったとは。
神の贈り物が、単なる生存のための力じゃなく、世界を変える鍵なのか。
「でも……俺一人じゃ無理だ。霧が残ってるなら、危険も多いはず」
ルナの視線が鋭くなり、群れの狼たちを振り返った。
全員が一斉に立ち上がり、低く唸る。
「そのためなら、我が一族は盾となり、矛となる。
お主を守り、戦う。
災厄の闇に立ち向かうため、命を賭けて従う。
我らはお主の剣となり、壁となる。
共に、大地を蘇らせよう」
狼たちの遠吠えが夜空に響き渡った。




