狼
それから数日が経った。
悠真の周囲は、少しずつ緑の気配を増していた。
桜の花は散り始め、林檎と蜜柑の木は毎日新鮮な実をたわわに実らせている。
疲労の回復が早いおかげで、なんとか生き延びている。
ある夕方、荒野の向こうから、かすかな気配を感じた。
悠真が目を凝らすと、痩せこけた影がゆっくり近づいてくる。
それは一匹の狼だった。
体は骨と皮ばかりで、毛並みはボロボロ。
体中傷だらけで、特に後ろ足の傷は深く、血がにじんでいる。
目は虚ろで、歩くのもやっとという様子。
だが、鼻をくんくん動かし、果物の香りに引き寄せられるように、悠真の木々の方へやってきた。
「可哀想に……お腹すいてるのか」
悠真は警戒しつつ、林檎の木から一つ実を摘み、狼の前に転がした。
狼は最初、怯えたように後ずさったが、香りに負けたのか、ゆっくり近づいてかじりつく。
むしゃむしゃと音を立てて食べ、汁を滴らせながら一気に平らげた。
次に蜜柑も転がすと、同じく夢中で食べ始めた。
痩せた体が少し震え、目が少し輝きを取り戻す。
食べ終わると、狼は悠真の前に座り込み、頭を低く垂れた。
まるで感謝をしているようだ。
牙を剥く様子もなく、ただじっと見つめてくる。
「へえ……賢い奴だな。
もっと何か与えられるかな」
悠真はポケットを探り、数日前に育てたあの白い実を取り出した。
苦くて美味しくない薬草みたいな実。
効果はわからないが、試しに狼の前に置いてみた。
「これ、食べてみるか? 毒じゃなさそうだけど」
狼は匂いを嗅ぎ、ためらいなく口に含んだ。
実を噛み砕き、汁を飲み込む。
すると――。
狼の体が光に包まれ始めた。
みるみるうちに、傷口が塞がり、血が止まる。
痩せた筋肉が膨張し、毛並みが滑らかになり、体全体が元気を取り戻す。
さらに、体がどんどん大きくなり、元の倍近くに膨れ上がった。
背中の毛が長く伸び、まるで伝説の獣のような威容に変わっていく。
狼自身は、自分の体を不思議そうに見下ろし、前足を上げて確認するように動かした。
金色の瞳が大きく見開かれ、驚きの様子を露わにする。
そして、悠真の方を振り返り、視線を向けた。
先ほどの恭順とは違う、深い尊崇の念を込めた目。
まるで、神か恩人を見るような、敬意に満ちた輝き。
悠真は息を呑んだ。
「あの実……そんな効果があったのか。
お前、元気になったみたいだな」
狼はゆっくり近づき、悠真の手に鼻を寄せた。
懐いたようだった。、




