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怯え

――闇の要塞の奥、薄暗い玉座の間。

アークスは苛立ちを抑えきれずに杖を握りしめていた。

偵察の残滓を送ってから、数日が経過した。

報告はなく、気配すら途絶えている。

霧に囲まれた玉座で、アークスは独り呟いた。

「なぜ戻らん……あの愚か者が。

不毛の大地など、ただの砂漠のはず。

緑の異変など、ありえぬはずだ。

報告が遅い……業腹だ」

部下の一人が恐る恐る進み出た。

「主よ……新たな情報が……不毛の大地の緑の気配が、日増しに強まっていると。

砂漠が、森のように変わりつつあるとの噂が……」

アークスの顔が歪んだ。

緑の気配が日に日に増えていく――それは、霧の支配が弱まっている証拠。

百年前の災厄で不毛にしたはずの大地が、蘇ろうとしている。

怯えが胸を締め付け、声が震えた。

「緑が……増える? そんな馬鹿な。

あの霧は永遠のはずだ。

だが、もし……本当に緑が広がっているなら、俺の力が……」

さらに部下が言葉を続けた。

「主よ、それだけではございません。

痕跡が……狼の遠吠えと、蜘蛛の糸の気配が確認されたと。

お主が滅ぼしたはずの月影狼と影蜘蛛の……」

アークスの目が大きく見開かれた。

「まさか……あやつらが蘇ったのでは?

狼どもは霧で絶滅させたはず。蜘蛛どもは利用して捨てたはずだ。

奴らが生き残り、緑の異変に関わっているのか……

くそ……奴らが結託したら、俺の霧など……」

怯えが頂点に達し、アークスは杖を叩きつけた。

「もう待てぬ! 残滓の軍団を派遣せよ!

不毛の大地の異変を、根こそぎ潰せ。

緑の気配を消し、狼や蜘蛛の影すら残すな!」

部下たちは慌てて頭を下げ、要塞の闇に溶け込んだ。

アークスは玉座に沈み込み、霧をさらに濃くして身を隠した。

怯えが止まらない。

月狼王の誕生を知らぬまま、今度は影蜘蛛の影に怯える日々が始まった。


――数日後、不毛の大地。

悠真の森は、影蜘蛛の一族の守護により、さらに堅牢になっていた。

アラクネは悠真の傍らで、優雅に糸を紡ぎながら言った。

「主様、我ら一族は日々鍛錬を重ねております。

いつか来る脅威に備え、万全の態勢です」

悠真は頷き、畑の収穫を手伝っていた。

ルナと狼の群れも、森の外周を巡回し、警戒を怠らない。

しかし、その平和は突然破られた。

荒野の地平線から、黒い霧が渦を巻いて迫ってきた。

残滓の軍団――闇の魔導士の配下たち。

数百の影のような兵士が、霧を纏い、森に向かって進軍する。

彼らは武器を構え、呪文を囁き、闇の矢や霧の触手を放ち始める。

「異変の源を潰せ! 主の命令だ!」

アラクネの銀糸がピンと張り、敵の気配を捉えた。

「主様、来ます……闇の軍団です」

悠真は立ち上がり、能力を起動して防御植物を育て始めた。

ルナが遠吠えを上げ、狼の群れが一斉に飛び出す。

影蜘蛛の守護者たちも動き出した。










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