闇
月狼たちの進化が完了し、荒野に静かな夜が訪れた。
悠真は焚き火を囲み、ルナと群れの狼たちに囲まれながら、横になっていた。
サンジーバニーの効果で体力が回復し、月影の実で一族が強くなった今、大地を変える希望が見えてきた。
だが、闇の霧はまだ完全に消えていない。
ルナの言葉通り、残滓が潜んでいるらしい。
その夜、荒野の端から影が忍び寄った。
黒いローブを纏った、瘦せた人影。
闇の魔導士の残党――かつての主の意志を継ぐ、霧の使い手の一人。
彼は主の命令で、不毛の大地の異変を偵察に来ていた。
最近、緑の気配が増しているという噂を聞き、霧の力で身を隠しながら近づく。
「ふん……ただの砂漠のはずだ。緑など、幻覚に違いない」
影は木々の影に隠れ、悠真の小さな森を覗き見た。
桜の花びらが散り、果実が実る畑。
そして、そこに佇む100頭の狼たち。
銀色の毛並み、オーラを放つ体躯、金色の瞳。
影の目が大きく見開かれた。
「ま、まさか……伝説の月影狼!?
あれは災厄の前に絶えたはずの……生き残っていたのか!」
驚愕の表情で、後ずさる。
心臓が激しく鼓動し、手が震える。
月影狼は闇の霧を払う力を持つ、魔導士の天敵。
一族が蘇ったなら、主の計画が崩れる。
「こ、これは報告せねば……主に、すぐに!」
影は霧を纏い、身を翻して逃げようとした。
だが、その瞬間。
ルナの耳がピクリと動き、金色の瞳が闇を貫いた。
「ウォン!」
短い吠え声が響き、数匹の月影狼が瞬時に影を囲む。
影は慌てて霧の呪文を唱え、黒い霧を噴出させる。
「消えろ、獣ども! 闇の霧よ、飲み込め!」
戦闘が始まった。
霧が狼たちを包もうとするが、月影狼のオーラが霧を弾き返す。
一匹の狼が爪を閃かせ、影のローブを切り裂く。
影は杖を振り、闇の矢を放つが、狼の速さに追いつかない。
ルナが低く唸り、前へ躍り出る。
体が青い光に包まれ、爪が月光のように輝く。
一瞬の動きで、影の胸を斬り裂いた。
影は目を丸くし、血を吐いて倒れる。
「こ、こんな……瞬殺……主よ、報告が……」
息絶える間際、影の体は霧のように溶け、消えていった。
ルナは悠真の方を振り返り、静かに言った。
「恩人よ。闇の残滓だ。我らで片付けた」




