表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】なぜ、私に関係あるのかしら?【番外編更新】  作者: シエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/96

Ep.86 悔恨〜ハインリヒside






真実がヴィクトリアの口から語られ、感じたのは怒りでも、悲しみでもなく、ただただ『無』だった。




「……そ、うか……」



「あら、怒りませんの?」



「いや……怒、る……資格、な……ど……私に、は……」




全て、私が始めて、私が選択し、起きた結果なのだ。


そのことが、すとんと胸の中に落ちた。



ルシアンもルチアも、私の子ではなかったが、レイヴンクレストの王族の血を僅かでも引いているなら、いざ真実が暴かれたとしても、彼女たちならどうにか出来るだろう。ただ……



「……ヴィク、トリア……頼み、が……ある……」





それから、どれ程の時間が経ったのか────。



再び、目を覚ますと部屋の中は明るくなっていた。


射し込む陽光の色を見る限り、昼くらいだろうか?



視線をベッドの傍らに向けると、そこには一人掛けのソファに座るセシリアと、その背後に黒髪の執事が立っていた。




「ご機嫌よう、国王陛下」



「……ああ……来て、くれて……ありが、とう……」




今日のセシリアも、相変わらず銀糸のようなさらさらの髪を下ろし、上品なダークブルーのデイドレスを身に纏っていた。



昨夜、ヴィクトリアに願ったのは、セシリアに会いたいということだった。



激痛に堪えるだけで精一杯なうえ、食事もまともに摂れていない。


どうやったって人間だから、そんな日々を送っていれば体力が落ち、身体がどんどん弱っていく。




……私は、そう長くは保たないだろう。



その前にセシリアに会って、ちゃんと謝罪せねばと思ったのだ。




「……セシ、リア……すまな……かった……」




ただ一言……それだけでも、聡明な彼女なら何についての謝罪なのか、すぐに察するだろう。


……こういう部分も、彼女に甘えていた証拠なのだろうか?




「以前も申し上げましたが、謝罪は結構ですわ。 それに、賠償として『侯爵位』もいただきましたから」




感情の読めない淑女らしい笑みを浮かべ、彼女は淡々と話す。




「……分かっ、て……いる……だが……ちゃん、と……言い、たかっ、た……」



「さようですか」




私の話を聞く方針なのか、彼女から口を開くことはなさそうだ。


視線をセシリアの後ろに向けると、彼女の執事と目が合った。




「……私、は……彼に……嫉妬、し……ていた……。 いつ、も……君の……傍、に……いて……君、も……彼に……心……を……許、して……いるよう、に……見えた……」



「それはそうでしょう……私の周囲は、私に何も確かめもせず、クララの策略に嵌って、私に悪意をぶつけてくる方しかおりませんでしたもの」




それまでの淑女の仮面を剥がし、無表情のまま冷めた翡翠色の瞳に見据えられる。



セシリアの言う通りだ。


クララの言い分を鵜呑みにし、彼女に事実を確認することもなく、己の自己満足で諭しただけでは飽き足らず、ぞんざいな扱いをし、その影響で周囲にもそれを許してしまった。



そして最終的に引き起こしたのは、あの『婚約破棄』だ。



クララの策略に嵌ったのは、彼への嫉妬が心のどこかにあったからなのだろう。



いつも淑女として完璧な彼女が異性である彼を常に側に置き、彼の前では素直に感情を見せているように見えた。


婚約者なのに心を開いてもらえていないような、自分に向けられないその『特別感』に苛立ちを覚えていたのだ。




「陛下は知らなかった……いえ、知ろうとなさらなかったのでしょうが、私は学院だけではなく、社交界でも『悪女』と呼ばれておりましたわ。 当然です。 学院で得た情報は家でも共有されます。 私は約十年、多くの『国内貴族』たちから謂れのない悪意を向けられておりましたの」




彼女は自嘲気味な笑みを浮かべ、私は絶句した。



よく考えたら、その通りなのだ。


学院という箱庭の中のことだと思い込んでいたが、学院に在籍している生徒たちは一部平民もいるが、殆どが貴族子女だ。


学院内のことを親兄弟に伝えることは、情報共有として当然のことだった。



そんなことにも思い至らず、ただ謝罪や贖罪だけで終わらせようなど、厚かましいにも程があるだろう。




「……すま、なかった……そんな……こと……さえ、思い……至ら、なかっ……た」




取り返しのつかないことを引き起こしたが、謝罪の言葉を口にするしか出来ない。




「ですので、『謝罪は不要』と申し上げましたの。 私の名誉を傷付けられた後に謝罪などされても、一度崩れた信頼を積み上げ直すことは難しいですもの」




セシリアの言葉に怒りのようなものは感じなかった。


ただ事実を語っているだけだ。



長い間、少しずつ彼女の名誉を削り、そして最終的には貴族令嬢として『傷物』という評価をつけた。


本来、貴族たちをまとめる立場である王家が、一令嬢の人生を壊したのだ。



ようやくそのことを理解し、彼女に切り捨てられた理由が分かった。




「……君は……私、を……恨ん、で……いる……か……?」



「恨む? 何故、私が?」




私の言葉の意味が分からないとばかりに、不思議そうに小首を傾げている。




「ヴィク、トリア……に……協、力……した、だろ……う……?」



「……協力……そうですわね。 多少、お力はお貸しいたしましたわ。 ですが、私の助力があったとしても、避けようと思えば避けられたことですわ。 全ては皆様が選択した結果でしょう?」




彼女はそう言うと、穏やかに微笑んだ。




「私はただ、離れた場所からそれを見ていただけですわ」




何の感情も湧かない、と言わんばかりの言葉に胸の奥を抉られた気がした。


最早、何の言葉も浮かんでこない。



呻きながら言葉を紡ぐことが出来なくなった私を、ただ黙って待った後、彼女はソファからゆっくりと立ち上がった。




「もう、お話することはございませんわね。 私はこれで失礼させていただきますわ」




うっすらと瞼を上げると、一礼するセシリアの姿があった。


いつもの完璧なカーテシーではなく、浅く頭を下げた礼に違和感を覚える。


座っていた時には気付かなかったが、彼女の腹は大きく膨らんでいた。




「……その、腹……は……」



「ああ……今、妊娠しておりますの。 大きくなって参りましたので、簡略的な礼で申し訳ございませんわ」




愛おしむように腹を撫でるその姿が、かつてのヴィクトリアと重なったせいか、胸がズキズキと痛んだ。


父親は誰だ?と確認する間もなく、セシリアは黒髪の執事に支えられながら、私の前から去って行った。




静寂に包まれた部屋に独り残され、ゆっくりと目を閉じる。



瞼の奥が熱を帯び、溢れた涙が静かに顔の横を流れていった────。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
セシリアがいう通り、結局は魔法契約による婚姻から この結末になったのは王家自身の選択ですね。 そして特にこの王が王の器でなかったのが一番大きい。 先代の王に側妃の件を相談しなかったのは内心で言い訳並…
自嘲気味な笑みを浮かべ、私は絶句した。 って表現が違和感あるんですが私だけ? 絶句って予想外の驚きや強い感情のために一時的に言葉が出なくなることなので、自身の感情表現を忘れるくらいの衝撃を受けたのに、…
ハインリヒ君。0点の謝罪だったねー 最期の機会をも生かせないって、、、、 貴族にも向いていないから仕方がないか そもそも謝罪には全くなっていないよー ただ。自分が楽になりたいが為だけの 釈明?する時…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ