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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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Ep.8 手遅れ〜アーサーside






結局、謝罪だけは伝えられたものの、償いの機会すら与えてもらえず、ハインリヒとアーサーは、翌日には逃げるように王都に戻ることにした。



辺境伯領から王都までは馬車で約五日ほどかかる。



帰りの馬車の中は鉛のように重い空気が立ち込め、互いに何を話していいかも分からず、ただ無言の時間だけが過ぎていった。




ようやく王都に着くと、アーサーは憂鬱な気分を引きずったままアシュフォード公爵家の屋敷に戻った。



馬車を降りると、先に知らせを受けていた両親が、安堵の顔を浮かべて出迎えてくれた。




「アーサー、お帰りなさい」


「お帰り、よく戻ったな」




両親それぞれに声をかけられたが、顔の筋肉が強張り、どうしてもうまく笑えない…




「…ありがとうございます、ただいま戻りました…」




公爵夫妻は、アーサーの表情の暗さに気付き、色々聞きたいことはあったが、長旅から帰って来たばかりなのだ。



とりあえず、あえて何も聞かずに長旅の疲れを落とさせる為、自室へ促した。




自室に戻ると、用意されていた湯をさっさと浴びて旅の汚れを落としたものの、アーサーは濡れた髪を乾かす気力も起きず、ドサッとベッドに倒れ込んだ。



馬車に乗っての長旅だ。もちろん、体は疲れている。

 


しかし、少しでも眠ろうと目を閉じれば、瞼の裏にはアーサーを冷たい瞳で見つめるセシリアの姿が浮かび、まったく眠れなかった。


結局、一睡もできずに夕食の時間となった。



食後のお茶を父の執務室で摂ることとなり、セシリアのことを二人に伝えなければならないという現実が、アーサーの心に鉛のように重くのしかかり、更に気分が沈んだ。




「早速で悪いが、セシリアの話を聞かせてくれないか?」




父に長く仕えている家令が食後のお茶を準備してくれ、それぞれがティーカップに口をつけると、早々に父が口火を切った。




「…セシリアは、元気そうでした…」




そう言った瞬間、両親は安堵したようで表情が緩んだのが見えた。



両親も何度か手紙を送ったが、一度も返事が来ていなかった為、様子が分からずに心配していたのだろう。



…まさか、それがセシリア本人に拒絶されていたとは知らずに。





「…ただ、セシリアはトレヴァント辺境伯家で、正式な辺境伯夫人として認められておらず、辺境伯閣下をはじめとした屋敷の者たちから虐げられておりました…」




それを言葉で聞いた瞬間、両親の顔が厳しいものに変わったが、辺境伯家で見聞きしたことをすべて話した。




辺境伯は、セシリアが『悪女』だという噂を真に受け、妻としても夫人としても認めないと告げたこと。


自室は屋敷の中で最も端にあり、まったく手入れがされていない部屋を与えられ、自ら借りた別邸に住んでいること。


その部屋にセシリアが住んでいないことに、誰一人として気付かないほど使用人は一切世話をしていなかったこと。


そして、辺境伯には適当に戯れている愛人が複数いること。




一つ一つ話していく度、両親の顔はどんどん歪んでいく。




「なんてこと…!」




話を一度切ると、母は怒りに声を震わせながら一言呟いた。


手に持っている扇子が、ギリギリと音が鳴るほど力が込められている。




「…なぜ、アーサーはセシリアを連れて戻らなかったんだ?理由があるのだろう?」




父は冷静に問いかけているが、瞳には静かに怒りの色が滲んでいる。




「…拒絶されました」



「「!?」」



「…他家の人間になったから、血の繋がりだけがある他人だと…嫁ぐ前から、血の繋がりしかない家族だったと…そう、拒絶されました…」




セシリアから放たれた言葉を伝えると、両親からヒュッと息が詰まった音が聞こえた。



言いたくない、言いたくなかった…



両親を傷付けたくないという気持ちもあるが、それ以前に口にしてしまえば、そう思わせてしまったほどの過ちを、自分が犯したのだという事実が襲いかかってくる。




「…手紙も、セシリアが拒否したそうです…届いても知らせず、処分するようにと…」




執務室の中に重い沈黙が流れた。


アーサーはうつむいたまま、顔を上げることができなかった。




「…私たちは、そこまでセシリアを、追い詰めていたんだな…」




父がかすれたような声で呟いた。




「…セシリアは言いました…アシュフォード公爵家の者も、王家も、他の貴族のことも…信用も、信頼もしていないと…誰も、自分の目で見て、耳で聞いて判断せず、クララの言葉や、噂を鵜呑みにしていた…と、そう、言っておりました…」




震える声を懸命に抑えながら話すと、父は「そうか…」と一言漏らし、ソファの背もたれに深く身を預け、片手で目元を覆いながら天井を見上げた。



そんな父の横で、母はうつむきながら口元を押さえ、声を殺しながら涙を流している。




家族だから、姉だから、妹だから、そうやってセシリアの犠牲の上に成り立っていたという現実に、押しつぶされそうだった。




「…一度、私たちもセシリアに会いに行こう」




そう言いながら、見上げていた顔を元に戻した父の目は、赤く充血していた。




「…そうね、セシリアに謝らなくては…」




きっと、会うことはできるだろう。


きっと、謝ることもできるだろう。


だけど、償いはさせてもらえない。


二度と、家族だとは認めてくれない。




セシリアに直接会ったアーサーには分かる。



しかし、それを両親に告げることはできなかった。


いや、もしかしたら父は気付いているかもしれない…




アシュフォード公爵家は、娘を一人失ってしまったのだ。



そして、そのことに気付かなかった。


気付こうともしていなかった。





クララは現在、()()()()()()に罹ったとして、離宮に軟禁されている。



遠からず毒杯を与えられ()()と発表されるだろう…



もう二度と、アシュフォード公爵家に戻ることは叶わない。




すべてはクララが蒔いた種であり、なるべくしてなった結果なのだが…それでも、アーサーの妹なのだ。



やはり、心のどこかで割り切れない思いが燻っている。





…セシリアは、アーサーのこんな弱さを見抜いていたのだろうか…




 



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― 新着の感想 ―
クララという原因を丹念に育てたのは、家族であるあなたたちなんですけど。 「アシュフォード公爵家は、娘を一人失ってしまったのだ」とか言ってる 段階で、もう完全に妹の方は「切り捨てて」「いなかった」状態…
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