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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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Ep.7 贖えない




 


セシリアと目を合わせることができないまま、ハインリヒは「…あぁ、その通りだ」と力なく認めた。




国王夫妻にもクララの()()()()()は筒抜けになっており、更に何の罪もないセシリアを嵌め、王命をもって強制的に辺境伯家へ嫁がせることで王都から追放したのだ。



それ故、国王とてこの件に無関係ではない。



しかし、国王がその間違いを認めて正式に公表し、二度目の婚約の解消、破棄となれば、王太子の資質を問われ、王家の威信も揺らぐうえ、クララを婚約者とした正当性もなくなってしまう。



その為、セシリアの濡れ衣を晴らすことも、クララとの婚約を失くすことも決してできなかった。




「…クララは、今、感染力の強い()()()()()()に罹ったとして、離宮に()()している…然るべき時が来れば、()()と発表する事になる」



「まあ!それをアシュフォード公爵家は認めましたの?」



 

ハインリヒがうつむきながら、クララの処分内容を伝えると、セシリアは口元を手で隠し、わざとらしく驚いて見せた。




「…仕方がないからね。すべてはクララが招いたことだ。アシュフォード公爵家は、受け入れるしかない」




苦悶の表情を浮かべるアーサーの声は暗く、抑揚がなかった。



ハインリヒもアーサーも、そして、レオンハルトも。


話の重みと苦痛でうつむいていた為、セシリアが三人を凍えるような冷めた目で見ていることに誰も気付いていない。




「さようですか。これでお話は終わりまして?では、私は失礼いたしますわ」



 

聞きたいことはすべて聞いたと言わんばかりに、さっさと席を立とうとした彼女の腕を、レオンハルトが咄嗟に掴み、引き止めた。


 


「すまない!もう少し、待ってくれ。まだ、私の話が終わってないんだ」


 


急に掴まれた痛みにセシリアが目元を歪ませると、レオンハルトは慌てて腕を離し、もう少し話に付き合って欲しいと頭を下げた。



セシリアは掴まれた箇所を数回擦りながら、懐疑的な顔を隠さず、無言のまま席へ戻った。




「それで、閣下のお話とは何でしょう?」



「…君との婚姻が王命で下る前から、君の噂を聞いていた…その、実の妹を虐げた悪辣な令嬢、男を見境なく弄ぶ悪女、という…」




真実を知った今、自らの口から出すのも憚られる内容に、レオンハルトは膝の上で拳をギリギリと強く握りしめた。



自分の噂を多少は耳にしていたセシリアは特に驚くことはなかったが、ハインリヒやアーサーは、いつもクララやクララに近い者から聞くことが多かったため、ここまで噂の内容が酷いとは思わず、驚きが隠せなかった。



そんな噂が流れる中、セシリアとの王命による婚姻が成され、ハインリヒからの手紙には、彼女の人柄などに触れる内容はなく、『一年経てば離縁してもいい』という内容から、余程問題があるのだろう、と思い込んでしまった。




「すまない、私も噂で君を判断し、今まで疎かにしてきた。あのような部屋に追いやり、使用人たちから軽んじられる事態を招いたのも、すべて私の責任だ。そんなつもりはなくとも、虐げられたと言われても仕方がないと思っている」




レオンハルトは深く頭を下げ、謝罪の言葉を絞り出した。




「謝って済む話ではないだろう。離縁を望むのであれば、私の有責として慰謝料を支払おう」



「セシリア、私も君に謝って済む問題ではないことは重々承知している…たとえ私たちのことが信頼できないとしても、できる限りの償いをさせてほしい。なるべく、君の希望に沿うようにする」




レオンハルトとハインリヒが償いを口にする中、アーサーだけは何も言えなかった。



共に暮らしていた頃から、すでに『他人』だと思われていた。


その事実が、アーサーの心を深く抉っていた。


完全に切り捨てられていた事実を受け入れがたく、それを挽回できるほどの償いなど、果たしてあるのだろうか?




「でしたら、離縁と同時に辺境伯の爵位を私に下さいます?」




セシリアの口から出た言葉に、その場の時が止まった。




「離縁しようとしまいと、私としてはどうでもよいのです。どうせ今までも顔を合わせることすらなかったのですから。ですが、離縁するのであれば、アシュフォード公爵家に戻るという選択肢はありません。ですから、()()が欲しいのです。さすがに、私が平民として生きていくのは難しいでしょうから」




それが難しいことは、セシリア自身も、そして三人も理解していた。


国境の要である辺境伯位をそう簡単に渡すわけにはいかず、かといって何の理由もなく新たな爵位を叙爵することもできない。



だとすれば、レオンハルトとの婚姻関係を続けていたほうが、セシリアの希望に沿うことになる。




「…分かっているだろうが、理由なく叙爵することも、辺境伯位を譲渡することもできない…貴族のままでいたいのであれば、このままレオンハルトと婚姻を続けることになる…」



「さようですか。本気で申したわけではありませんから、お気になさらず」




言いにくそうに告げたハインリヒに対し、セシリアは何でもないことのように答えた。




「…ならば、せめて屋敷に戻らないか?正式な夫人の部屋でも、別の部屋でも構わない。君の予算も増やすから、それを使って欲しい」




離縁しないのであれば、今度こそ辺境伯夫人としての立場を守らなければならない。


レオンハルトは食い下がったが、セシリアの答えは冷酷だった。




「それはお断りしたいですわね。正式な夫婦とならない以上、辺境伯家は跡取りの為に、いずれ第二夫人か妾を娶るでしょう?下手に絡まれたくはありませんわ」



「いや、それは…」



「私が何も知らないとでも?何人か()()がいらっしゃるでしょう?」




暗に『愛人が何人かいるだろう?』と指摘され、レオンハルトはヒュッと息が詰まった。



辺境伯という地位に加え、整った外見を持つレオンハルトは、女に苦労したことはない。


セシリアは自分に興味はないだろうと、適当に遊んでいることを知られていたとは思ってもみなかった。



汚らわしいものを見るような冷たい視線を向けられ、思わず項垂れた。




「もう、よろしいですか?これ以上、話す事はないでしょう」




そう言い残し、今度こそセシリアは執務室を後にした。




残された三人は、無言のまま、強い自責の念に苛まれ動けずにいた。








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