表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/60

Ep.54 入れ替わる天秤






「……よく、分かった」




容赦なく突き付けられた現実に、私たちが呆然としていると、父上の低い声が響いた。




「セシリア夫人。 よくぞ国の為に、セキトフ辺境伯と条件を取りまとめてくれた。 感謝する」




セシリアは賞賛を受けると、音もなく立ち上がり、非の打ち所のないカーテシーと共に「滅相もございません」と応えた。




「さて…… 皆、夫人の説明で状況は理解出来たかと思う。 現状、開戦を避ける為にはセキトフ側の条件を呑むほか、道はない」



「そんな……!!」




母上が悲鳴のような声を上げて立ち上がったが、父上の言葉は止まることはなかった。




「当事者のうち、王妃の両親である先代公爵夫妻は事故で既に亡く、裁くことは出来ぬ。 先代国王である父上も病死し、母上も離宮に籠りっきりだ。 だが、それでも責任は取ってもらわねばならん。 よって、王妃。 そなたには王太后と共に、王領の修道院にて終身、奉仕を命ずる」




己の末路を宣告され、母上の手から力が抜けた。



ずっと握り締められていた扇子が、柔らかな絨毯の上へ音もなく落ちる。




「……陛下。 父と…… セキトフ辺境伯の姉君との間に生まれた子ですが…… いかにして捜し出すおつもりですか? 仮に見つかったとしても、まともな貴族としての教育を受けていなければ、即座に当主を交代など…… 難しいと存じますが……」




一つ目の断罪が終わり、次は己の番だと悟ったレオンハルトが、青ざめた顔で異母弟の『資質』について口を開いた。



確かに、彼の言う通りだ。


その子はセキトフから行方を眩ませて以来、生死すら不明だったはず。



トレヴァント家も最近まで存在を把握していなかったことから、絵姿どころか名前すら知らないという。


名も知らぬ平民として育った男が、一国の盾である辺境伯爵位を務めるには荷が重すぎる⸺⸺。




「それに関しては心配いらぬ。 子の方は既に見つかっており、貴族としての教養を完璧に身につけていることは、私が直接確認済みだ」




父上が小さく溜め息を吐き、言い放った言葉にレオンハルトだけでなく、私も驚愕を隠せなかった。




「言っておくが、私が捜し出させたわけではないぞ」




父上の視線がセシリアへ移ると、彼女はどこまでも涼やかに微笑み、口を開いた。




「ご紹介いたしますわ。 先代トレヴァント辺境伯と第二夫人の『嫡子』⸺⸺ セオドリック・アラクチェーエフ卿ですわ」




セシリアが促すと同時に、彼女の背後に控えていた辺境伯家の騎士が横へ一歩踏み出した。



彼は先ほどの騎士の礼ではなく、完璧な『貴族の礼』を執った。




「ただいまご紹介に預かりました、セオドリック・アラクチェーエフと申します。 国王陛下におかれましては、拝謁の機会を賜わり、恐悦至極に存じます」




所作、声のトーン、言葉選び……。



そのすべてにおいて、幼少から貴族として教育を受けた者たちと並んでも、寸分も遜色ないものだった。




「うむ。 顔を上げ、夫人の隣へ座るが良い」




セオドリックは「ありがとうございます」と短く答え、セシリアと適度な距離を保ってソファへ腰を下ろした。




「セ、セオ、ドリック…… お前が、本当に……?」




レオンハルトの震える声に、セオドリックは『人好きのする微笑み』を浮かべた。




「ええ、閣下。 ……ああ、これからは『異母兄(あにうえ)』、とお呼びしたほうがよろしいですか?」




淡々と、しかし確かな棘を込めて自らが『異母弟』だと認めた。


辺境伯騎士団の騎士服を身に纏っている以上、レオンハルトも彼を知らないはずがない。



自分の優秀な部下だと思っていた男が、実は異母弟だった⸺⸺。



これ以上に皮肉な話があるだろうか。




「いつから…… いつから、お前は……」



「私がいつ己の出自を知ったか、ですか?」




言葉を紡げないレオンハルトに、セオドリックが先回りして補足する。




「私が先代トレヴァント辺境伯の息子だと知ったのは、まだセキトフにいた頃です。 先々代当主様が、物心がついた頃にすべて教えてくださいました」




そんな幼い頃から…… レオンハルトの顔に悲痛の色が滲んだ。




「先日、セシリア様が協定継続の交渉に同行した際、初めてセキトフ辺境伯閣下…… いえ、叔父上にお会いすることが出来ました」




そう語るセオドリックの表情は崩れることはなく、同じ微笑みを浮かべたままだ。




「セシリア…… なぜ、君はセオドリックと……」



「セオドリック卿とは、以前ご縁がございまして。 冒険者ギルドマスターにご紹介いただきましたの。 優れた才を持ちながら、貴族子息として教育の機会に恵まれなかったとお聞きしたので、僭越ながら私が直接、教育を施させていただきましたわ」




セシリアと冒険者ギルドマスターの繋がりに一瞬の違和感を覚えたが、それよりも彼女が教育を施したと聞き、すべてに納得がいった。



彼の隙のない所作や徹底した表情管理……。


それは貴族子息のそれというより、王族の『理想像』に近いと言えた。




「見たところ、確かに作法に問題はないようだ。 だが、領主…… しかも辺境伯爵位を継承するならば、武力や執務能力も不可欠だぞ」




私が懸念を口にすると、セシリアは「ふふっ」と小さく笑った。




「もちろん存じておりますわ。 私が施したのは単なる貴族子息の教育ではなく、貴族家の『後継者』としての帝王学ですわ。 武芸においても、彼は辺境伯騎士団で自力で副団長の座も勝ち取っております。 若さゆえの至らなさは、周囲が補佐すれば問題ないかと」




非の打ち所がなかった。



……いや、セシリアが関わっているのだ。


完璧で当然なのだ。




⸺⸺なのに、何故だ?



何かが、引っかかる……。




言いようのない違和感が、頭の中で警鐘を鳴らしている。



だが、それが何なのかが分からない……。




思考の沼に深く沈み込んでいる私を、父上がじっと見つめていることにも、私は気付かなかった。




「……セオドリック・アラクチェーエフを、先代トレヴァント辺境伯の正当な子息と認める。 よって第二夫人を正式な辺境伯夫人として追贈し、彼をトレヴァント家の『嫡子』とする。 ⸺⸺並びに、レオンハルト・トレヴァント」




父上に名を呼ばれ、呆然と俯いていたレオンハルトはハッと顔を上げた。


そのままソファの横へ身を移すと床に膝をついた。




「そなたはセキトフ辺境伯との交渉を停滞させ、国防を危うくした。 また、王命婚でありながら、正妻であるセシリア夫人を虐げ、先代と同じ道を辿ろうとしたことの罪は重い。 よって、辺境伯爵位をセオドリックへ即刻移譲し、今後は彼の補佐へ回ることを命ずる」



「……御意……」




父上の命令にレオンハルトは声を掠れさせ、答えた。



胸に当てられた拳は、白くなるほど強く握り締められ、細かく震えていた。









誤字報告ありがとうございます┏○ペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
全部身から出た錆ですね。全部自分で判断して命令してそれが全部自分に帰ってきた。 いっそ清々しいです。
無能なお花畑2号のレオンハルトぼくちゃんに ※お花畑1号はハインリヒぼくちゃん   お花畑3号はアーサーぼくちゃんです 辺境伯当主としての資質を問われるなんてー いやいや君にはそんな資格などないよね…
そういえば王命って「トレヴァント辺境伯との婚姻」でしたよね。 って事は、セオドリックがトレヴァント辺境伯になるからセシリアの夫はレオンハルトからセオドリックにスライドされるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ