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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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Ep.5 沈痛






うつむきながら、ハインリヒは話を続けた。

 



「…何の罪もないセシリアを責め立ててしまった…せめて謝罪と償いをしたいと思ったのだが、アーサーから手紙の返事がないことを聞いて…」


「いや、待ってくれ。手紙?ハンス、セシリア宛に手紙が届いていたのか?」




レオンハルトは、アーサーから手紙が送られてきていた事を知らなかった。


それは、『問題がなければ報告の必要がない』とレオンハルトが指示した事ではあったが、少なくともアシュフォード公爵家から手紙が届いていたならば、把握しておかなければならない事であろうと思った。




「…はい。一度、私が受け取り、奥様にお渡ししたのですが『今後、アシュフォード公爵家から手紙が来たら、薪代わりにもならないだろうが使ってほしい』とおっしゃられ…『自分にも、旦那様にも知らせる必要はない』と」



 

まさか、セシリアが手紙を受け取る事すら拒否していた事実に三人は驚いた。




「…セシリアのことを信じてあげられなかったから…恨まれているんだな…」




「当然だな…」という呟きと、アーサーの悲痛な思いが溢れ、執務室の中に静かに響いた。


レオンハルトも真実が分かったと同時に、自らが犯した過ちの重さに酷く胸が痛む。




「トレヴァント辺境伯閣下、セシリアは…今どうしているのでしょうか?」




そう問いかけるアーサーの顔は、妹のことを本当に心配している兄の顔そのものだった。




「…私も言わねばならないことがある…」




トレヴァント辺境伯家に到着した日から今日までのことを話した。




噂を真に受け、ハインリヒの手紙の内容からセシリアを軽んじ、『夫婦になるつもりも、辺境伯夫人として扱うことはない』と告げたこと。


それから、つい先日まで一切、顔も合わせておらず、レオンハルトも拒絶されていること。




すべてを語ると、ハインリヒは顔色が青白くなり、アーサーには怒りの色が滲んでいた。



少しの沈黙の後、アーサーは怒りを抑えるように深く息を吐くと「セシリアに会わせて欲しい」と面会を望み、それを当然の事ながら了承した。



レオンハルトはセシリアの部屋が、どこにあるかさえ知らない為、ハンスに先導されながら二人を連れて向かった。




「こちらでございます」




案内されたのは屋敷の中で最も端にあり、長いこと使われていなかった部屋で、レオンハルトでさえ、ここに部屋があった事を忘れていたほどだった。




「…まさか、ここがセシリアの部屋だと?」




三人は驚きのあまり目を見開いたが、レオンハルトはすぐに気を引き締め直し、ドアをノックした。


何度か声もかけたが返事はなく、悪いとは思いながらもドアを開くと部屋の中には誰もいなかった。



室内へ足を踏み入れ、中を見回すと部屋の至る所に埃が積もっており、本当にセシリアはここに住んでいるのか?と信じられなかった。


 

レオンハルトは眉間にシワを寄せながら、ハンスに「部屋を間違えているのではないか?」と確認しようとした、その時だった。



 

「あら、淑女の部屋に勝手に入るなど、随分と無作法ですわね」




突如、入り口の方から声が聞こえ、そちらへ顔を向けるとセシリアと執事の姿があった。




「セシリア!!」




久しぶりに見るセシリアは元気そうで、アーサーは安堵感から思わず声を上げたが、チラッと視線を一瞬、向けられただけだった。




「閣下。一体どういったご用件で、わざわざこちらに?」




相変わらず、にこりともせずに無表情まま、レオンハルトに問いかけた。



そんなセシリアの様子に、ハインリヒもアーサーも動揺が隠せずにいた。


以前は、こんな風にアーサーを無視するような事はなかった。




「…その前に、君は本当にここで暮らしているのか?見たところ、使った形跡がないのだが…」




セシリアはその言葉に一つ深いため息を吐くと、真っ直ぐレオンハルトを見た。




「ここに住めると思いまして?案内をされた時から、この状態でしたの。初日にメイド長から、「あなた様を奥様とも辺境伯夫人としても扱わないと聞いておりますので、ご自分の事はご自分でお願いいたします」と言われましたので、さっさと屋敷を出ましたわ。今は別邸をお借りし、そちらに住んでおります」

 



いくら、レオンハルトが関わらないと言えど、セシリアは正式な辺境伯夫人であり、元公爵令嬢だ。


「侍女は必要ない」とは言ったが、使用人がセシリアの世話を放棄していい理由にはならない。




「…すまなかった。まさか、使用人たちが君の世話をしていなかったとは…」


「主が疎かにしている妻に、まともに仕える使用人がいないのは当然でしょう」




「至極当たり前の話だ」と淡々と返されてしまい、レオンハルトは言葉を失ってしまった。




「それで、ご用件は何でしょう。まさか、私の部屋の確認に来たわけではないのでしょう?」


「…君に話があって来た。悪いが、執務室まで来てくれないか?」




セシリアは一瞬、怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐにそれを消し「承知いたしました」と答え、執務室まで移動した。






「それで、お話とは何でしょう?今度は離縁の王命ですか?」


「いや!!違う…実は、セシリアに謝りたくて、ここまで来たのだ」

 



それぞれ席に着いたかと思うと、一番先に口を開いたのは、セシリアだった。



以前とは違う態度にハインリヒたちは戸惑いつつ、今回、自分たちが来た目的を告げると、セシリアの眉間に一瞬、僅かにシワが寄った。



ハインリヒは、レオンハルトに話した内容をそのまま話した。




「本当にすまなかった…」


「私もクララの話ばかり聞いて、セシリアのことを信じてあげられなくて…本当にすまなかった…」




ハインリヒたちは深く頭を下げ、謝罪の言葉を口にした。




「…頭を上げて下さい。王太子殿下と小公爵様に頭を下げられても困りますわ」



 

そう言ったセシリアの顔からは感情がまったく見えない。




「…もう、お兄様とは呼んでくれないのか?やはり、私が憎いか…」




アーサーは沈痛な表情を隠せず、膝の上にある拳を震えるほど強く握りしめた。



セシリアはその言葉に答えることもなく、冷たい視線を向けているだけだった。




その視線が胸に深く突き刺さり、じくじく痛んだ。






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