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なぜ、私に関係あるのかしら?  作者: シエル


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33/40

Ep.31 手駒






「もういいわ。一人にしてくれる?」




最近の日課となった、離宮の庭での散歩。



少し前までの私は、ハインリヒ様から突きつけられた信じられない言葉の数々を、ただ受け止めきれずにいた。







『私がお飾りの側妃』


『永久に離宮から出ることは叶わない』


『私との間に子を作ることはない』




……嘘よ。嘘、嘘、嘘よ!!!



ハインリヒ様が、私にそんなこと言うはずがない!


だって、私は『選ばれた』のだから。



けれど、現実は残酷だった。


離宮の使用人たちが、ひそひそと噂している話が聞こえてくる。




「もうすぐヴィクトリア様と王太子殿下の婚約披露パーティーね!」



「とても素敵なパーティーなんだろうな~。あ~私も行きたーい!」




⸺⸺婚約披露パーティー。



本来なら、私の為に用意されるはずだったのに……



心は石のように重く沈み、指一本動かす気力も湧かない。


何を食べても砂を噛むようで、ただ毎日、ぼーっとベッドで天蓋を見上げて横たわっているだけ。



心配をして様子を見に来てくれたお父様とお兄様も、私に冷たい言葉を投げた。




「……クララ。辛いのは分かるが、これはお前が招いたことなのだ。しっかりしなさい」



「現実を受け止めるんだ。逃げていても何も始まらないぞ」




……何で?どうして二人ともそんな事を言うの?



私が可愛くないの?


何で、助けてくれないの!?



結局、私が何も答えないことに二人は肩を落とし、去って行った。




「クララ様。お加減はいかがかしら?」




そして、この皇女()は毎日やって来る。




「困りましたわね……ただでさえ、教育が遅れてますのに」




困ったような顔をして小首を傾げているけれど、私を見下ろす瞳は氷のように冷たい。



時計の秒針の音だけが響く静まり返った部屋で、どれほどの時間が経ったのかさえ分からなかった。




そんなある日。



何の反応も示さない私に油断をしたのだろう。


部屋の掃除をしている使用人たちが話し始めた。




「こないだの披露パーティー、凄かったらしいわね!」



「そうみたいね。ヴィクトリア様が手配された会場も料理も、とても評判らしいわ。挨拶のスピーチも素晴らしくて、拍手喝采だったみたいよ」




あの皇女()が賞賛を浴びていると聞いた瞬間、私の指が微かにピクッと跳ねた。




「それよりも、トレヴァント辺境伯夫人でしょ!」



「聞いたわ!まるで『闇夜の女王』のような威厳で、その美しさに誰も声を出すことが出来なかったとか……ああ!直接見たかったわ!」



「……ねえ。夫人ってクララ様の『お姉様』でしょう?全然似てないわよね?」





⸺⸺お姉様。




その言葉を聞いた瞬間、急に意識が引き戻されたのが分かった。



お姉様(あの人)は選ばれなかったのに。


王都から、惨めに追い出されたはずなのに。



どうして?どうして私じゃなくて、お姉様(あの人)が賞賛されているの!?




……違うわ、すべて間違いなのよ……



また、私が正してあげないと……





「……だ……れ、か……」




掠れた声だったけれど、使用人は驚いて駆け寄って来ると、「水がほしい」とだけ告げた。


そこから、私は少しずつ食事を摂り、体を回復させていく。




「まあ!クララ様。お食事を召し上がれるようになりましたのね!」




皇女は胸の前で手を叩き、嬉しそうに声を上げている。



……白々しい。私が回復して残念でしょう?



お姉様だけじゃないわ。皇女(あなた)も、私の敵よ。




「……ありがとうございますわ。少しずつ、食べられるようになりました」




儚げに微笑んで見せると、そのまま皇女が連れてきた侍医の診察を受けることになった。




「精神的なストレスで一時的に体力が落ちてはおりますが、身体に異常はございません」



「まあ、本当に良かったですわ」




侍医の報告を聞き、瞳にうっすらと涙を浮かべながら微笑んでいる。


『慈悲深い正妃様』を演じる皇女に、使用人も侍医も感動しているようだ。



反吐が出る……



その後、体力を取り戻す為に庭の散歩を勧められ、皇女たちは退室して行った。



庭の散歩を始めた時、久しぶりに外の空気を吸い、いつの間にか強張っていた肩の力が抜けた気がした。


散歩の最中は、パーティーの後に付けられた侍女が一人と騎士が一人、常に付き添った。



ずっと放置されていたこの離宮に無理やり押し込まれた時には、雑草だらけだったこの庭も、皇女の指示で整えられ、今では季節の花が咲き乱れている。


その事を理解していたからこそ、その花々を見て歩いても、私の心が慰められることなど一度もない。




「……悪いけれど、一人にしてくれないかしら?」




三歩ほど後ろを歩く侍女に告げると、彼女は懸念の表情を浮かべた。




「……逃げたりしないわ。ただ、静かに一人になりたいだけなの」



「……侍女殿、私が残ります」




そう声を上げたのは、護衛の騎士だった。


侍女は少し悩んだかのように間を空けた後、「……承知いたしました。近くにおりますので、何かありましたらお声がけください」と一礼してその場を去った。




「ありがとう。あなたのお名前を伺ってもいいかしら?」



「はい、ブラムウェル伯爵家三男、イディオと申します」



「……そう、イディオ……」




ブラムウェル伯爵家。


確か、クロンヴァルト帝国寄りの辺境に領地があり、絵に描いたように平和で穏やかな地域だと聞いたことがある。



同じ辺境でも、トレヴァント辺境伯領とは正反対だ。



王都育ちのお姉様が魔獣が出没したり、隣国との小競り合いが多いトレヴァント辺境伯領に嫁げば、さぞかし苦痛を味わうだろう……


そう思い適当な理由を付け、ハインリヒ様に強請って王都から追い出したのに……



そこで使用人たちの言葉が頭の中をぐるぐるとかけ巡り、急にガクッと足の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。




「ご令嬢!!」




その様子に駆け寄ってきたイディオの声が遠くに聞こえる。


私の顔色は真っ青だったのだろう。



色々と声をかけられたが、その言葉は耳に入らず気付けば、ベッドの上で横になっていた。




翌日の散歩の際、その日の護衛もイディオだった。




「昨日はごめんなさい。あなたが運んでくれたのでしょう?ありがとう」




私は、今にも壊れてしまいそうなほど弱々しく、そして今にも消えてしまいそうな微笑みを彼に向けた。




「いえ、私の役目ですので、お気になさらないでください。今日の体調はいかがですか?ご無理はなさらないでください」




眉尻を下げ、心配そうに私を見つめている彼の瞳には、明らかに同情の色があった。




「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」





……この男は使えるかもしれない。



私は彼の同情心を、蜘蛛の糸のように手繰り寄せながら、ゆっくりと庭を歩き始めた。











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あらら? >『私は彼の同情心を、蜘蛛の糸のように手繰り寄せながら、ゆっくりと庭を歩き始めた。』 ーゆっくりと?ー ー蜘蛛の糸のように手繰り寄せ?ー ココで噂の【闇夜の女王】をー本来の蜘蛛の糸の主…
クララがしめしめって思うことすらヴィクトリアの手のひらの上なんだもんな。 せっせこ糸を張ってるところを上から人間に観察されてるのに気付かない虫でしかないクララ……。 イディオ氏は左遷コースだけで済め…
イディオくんは、イディオット:お馬鹿さん役なのでしょうか。 間抜けは見つかったようだな
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