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地方出身の少年、魔王軍のそうじ大臣になる。第一話 魔王の玉座の下、200年ぶりの掃除

作者: 和no名

ここは『この世界』ではないどこかの異世界。

その世界の田舎町にジュレという名の犬耳の亜人の少年が暮らしていました。


田舎にはとにかく何もありません。

出現する魔物も猫パンチで逃げていく弱いのばかり。

熊やイノシシなど野生の獣のほうが怖いくらいです。

そんなところに冒険者も来ないし、小さな街には特筆すべき産業や観光資源もありません。

ジュレは何もない田舎町に飽き飽きして、都会に出ることを夢見ていました。

ある日、ついに都会に出ることを決断しました。


「決めた!父さん、母さん、ボク、ノレントに行くよ!」


「今やってる教会のアルバイトはどうするの?」


「神父さんに、近々辞めるかもって話はしてあるよ」


「そうか。お前が決めたことなら応援する。気を付けて行ってきなさい」


「疲れたらいつでも帰ってきなさいね?」


「お兄ちゃん、帰ってくるときはお土産買ってきてね!」


「ははは。余裕があったらね!」






グリシュカ大陸最大の都市、ノレント。




「うわあ、初めて来たけど、さすがに大きい街だぁ…」




地元では見たことのないほど高層の建物、行き交う様々な種族の人々…ジュレは圧倒されます。




「まずは仕事を見つけないと」



きょろきょろ…。

露店でパンを売っている人の好さそうなおじさんが目に付きました。



「あの、すみません。ボク仕事を探していて…」


「仕事探し?冒険者かい?…ってそんな感じじゃないか」


「なんでもいいんです!仕事はありませんか?」


「うーん。うちはのんびりした商売してるからなあ…。

 戦いで強いとか高レベルの魔法や特別なスキルがないと冒険者ギルドでは仕事はみつからないかも。

 役場の入り口に一般的な仕事を募集してる掲示板があるから、そこを見てみたら?」


「はい!行ってみます!」


「この頃君みたいな子は多いから、頑張ってね」


「ありがとう!」





役場にきました。




「神殿かと思うほど役場がでっかい…えっと、掲示板はこれか」



 

 『森で薬草を採取してきて頂ける方募集。薬草と雑草の見分け方はイチから教えます。時給900G※午前中のみのお仕事です』




『武具店にて、鎧のサビ落としして頂ける方募集。やや力が要ります。根気の要るお仕事です。時給950G』




『公衆浴場の清掃のお仕事。営業時間終了後から朝までの数店舗掛け持ちとなります。時給1000G。※福利厚生としてお仕事終了後、入浴が可能です』




「うーん…」





『ヒーラー技能持った方募集!Lv2以上の解毒魔法が使えるとできる簡単なお仕事です。時給1200G×8時間。詳しくは店舗まで』




「これだ!」




お店まで来ました。



「あの、役場の掲示板の募集を見て来たんですが…」


「あ、キミ治癒魔法使える?」


「教会で働いてたから信仰Lv2の解毒魔法が使えます!」


「そう!うちでは冒険者ギルドが扱わないような軽微な解毒の治療をやっててね。

 今すごく忙しい時期だから早速だけどとりあえず今日一日だけでも働いてみてくれる?」


「はい!ボク、ジュレといいます!」


「私は店長のハルドンだ。よろしく」





「農作業をしていたら蜂に刺されてしまって」


「ジュレ君、頼める?」


「はい。ディトキシア!」





「昼寝してたらムカデに噛まれてちゃって…」


「ジュレ君、頼める?」


「はい。ディトキシア!」


「いい感じだ。君ならこの仕事は任せられそうかな」




ところが



「飲み残しのオレンジジュースを飲んでから熱と寒気がすごくて…」


「ディトキシア!」




「お昼ご飯を食べた後からお腹を壊してて…」


「ディトキシア!」



「昨日の残りの魚を食べたら、それからずっと吐いてて…」


「ディトキシア!」




「ぜーはーぜーはー…ふぅ…」


「ジュレくん大丈夫?」


「ちょ、ちょっとMPがやばいです…」


「さっきも言ったが、この時期忙しいというのは時期的に食中毒が増えるからでね。

 解毒魔法のレベル自体は低くても対応できるものだが、何せ患者が多い。

 MPは少なくとも信仰レベル6相当くらいはないとしんどいかもね…」



「ごめんなさい。この仕事、ボクにはちょっと無理そうです。辞めさせてください。ごめんなさい…」





夕方。

働いた時間分の給料は受け取って、ジュレは噴水の淵に腰かけて落ち込んでいました。




「現実は厳しいなあ…」




犬耳としっぽはだらーんと下を向いて、初日なのにほぼホームシックです。



「今日働いた分の給料でとりあえず今夜はどうにかなるけど…明日からどうしよう…」


「あれ、君は午前中に会った。仕事は見つかったかい?」


「あ…。あなたは…パンの露店のおじさん…」



ジュレは今日一日の顛末を話します。


「なるほどねえ…。まあ仕事はたくさんあるから今日は宿でゆっくり休んで明日また考えたらきっと大丈夫さ。宿は決まりそう?」


「いえ…まだ何にも考えてないです…疲れちゃって」


「そう…。じゃあ、ここからまっすぐ行くと冒険者ギルドがある。そこの角を曲がると安くていい宿があるよ」


「訪ねてみます」


「冒険者ギルドに近いからいかつい人もいるかもだけど…。公営の宿だからそこは心配しないで」


「おじさん、いろいろありがとうございます」





ジュレはてくてくと歩き始めます。



「ここが冒険者ギルドかあ。ボクも戦えたり高レベルの魔法が使えたら、こういうところに仕事はあるのかな…」



ふと、ギルドの軒先の求人の掲示板に目が行きます。



『危険モンスター討伐 要・冒険者ランクC以上』


『戦場における治癒職 要・信仰レベル5以上』


『未踏の遺跡のトラップ解除と宝箱開錠 要:盗賊スキルLv4以上。4人以上のパーティならなおよし』




「とほほー。仲間も必要だったりするのもあるのかぁ…。現実は厳しいなあ…(2回目)」




「あれ、これって…」




掲示板の隅っこに、小さく、ぼんやり光って見える求人が目に入りました。



『闇バイト急募 魔王城の清掃 日給10000G~ 経験不問 細やかな心配りができる方希望 面談は以下の場所にて……』




「えっ、これならできるかも??しかも給料いい!でも闇バイトって…冒険者はそんな仕事もするのか…」




求人の張り紙の指示に従い、街の路地の奥、人気のない場所まで行くジュレ。

細い道を何度も右に曲がり左に曲がり、階段を上がったり下りたり…夕暮れが近いので方角がまるでわかりません。




「この辺…だよな…」




「おやおや。もう帰ろうと思ったんだがナ。”視える者”とは都合がいイ」


「”視える者”…??」


「こっチの話。亜人ならバあり得るナ。キミ、募集をみて来たのだろウ?」


「そうですけど、まだ何も言っていないのにどうしてそれを…」


「それもこっチの話。キミ、毎日ずっと掃除とかしていられル?」


「それは大丈夫ですけど…」


「じゃあ行こうカ。ついて来テ」


「えっ、そっちは壁…」




『スゥ…』




「壁の中に入った…!?」


「日が暮れちゃうヨ。早く早ク」


「ちょ、ちょっと…!?」




ジュレが手を引っ張られて壁の中に入ると、一瞬意識が遠のき




「ここは魔王城。今日からキミにはこの城の掃除を担当してもらうヨ。なお住み込みだから部屋はあるヨ。ついて来テ」




いくつも階段を下りて長い長い廊下を行った先に牢がありました。




「ここがキミの部屋」


「牢屋ですよね?なんか随分と豪華な気が…」




ジュレがベッドに腰かけると、ふかふかすぎて後ろに倒れ込んでしまいました。




「今はもう使ってないけド、何百年も前に人間の姫を捉えていたことがあってネ…。

 わがままな姫で、やれ日当たりをよくしろだのふかふかベッドがいいだの、

 温泉を引けだの水洗トイレは必須だのって…あのときは本当に疲れタ…」




「そ、それはご苦労さまでした…」


「でネ。急ぎで悪いんだけド、キミには今日中にしてほしい仕事が1つあるんだけど、いイ?」


「はい」


「魔王様の間の掃除なんだけド…」


「魔王………!」


「魔王様には話は通ってるかラ、ついてきテ」





魔王の間に入る二人、ジュレをみてにわかに魔物たちざわつきます。




「魔王さマ。担い手が確保できましたのデ、連れて参りましタ」


「「人間…亜人か。話は聞いている。せいぜい我に、魔族に尽くすがいい」」


「じゃあまず玉座の下から掃除をするので、ちょっと退いてもらえますか?」


「なっ…」


「小僧!魔王様に対してなんと不敬な!」


「この場で食いちぎってやる!」





「「我に退け…だと?」」





「ここから見ててもその下、ホコリすごいですよ!掃除してます?」


「「ふむ…。そういえば200年前に置いてからそのままだな…頼もうか」」



スッ…。

立ち上がる魔王。



「馬鹿な!魔王様を立たせただと!?」


「伝説の勇者の渾身の一撃ですら動じなかった魔王様が…あの小僧何者だ…?」


「齧ろうととしたら歯が欠けるかもしれん…」




「「すごいホコリだったな…」」



「きれいになりました。こんな感じでこの部屋全体もぱぱっと…」



「「・・・・・・・・・。」」



「ハイ!終わりましたよ!」



「「…お前、名は何と云う」」


「ジュレと言います」


「「ジュレ。お前にこの城の全室の鍵を渡しておく。 

 それからこっちは最寄りの人間の街と行き来できる首飾りだ。必要なものはそこで買え。

 今を以てお前を我が軍の『そうじ大臣』に任命する。掃除に励むがよい」」





「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!????」(魔物たち)



「…魔物に掃除させるト、炎で焼き尽くしたり魔法で爆散させたりと繊細さガ無いんだよネ…。

 魔王様はキミの真面目さや丁寧さガお気に入りになられタんだと思うヨ。

 じゃあ今日の仕事はおしまイ!ゆっくり休んで明日に備えてネ!」




自室(牢なのに豪華)に戻ってきたジュレ。




「今日は朝から一日大変で疲れたなあ…。」



ジュレがベッドに大の字になって倒れ込むと、眠気に襲われるのは間もなくのことでした。



「でも仕事も住む場所も確保できたし…明日からも頑張ろう…」




(第一話・完)



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― 新着の感想 ―
かわいいお話をありがとうございます。 続きをお待ちしております。
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