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十六話 アホの電波をジャックしたら、爆速でハッピーエンドに辿り着けます

 理央ちゃんと仲直り? してから、グッと距離が縮まった。


 雨降って地固まる、みたいな感じで、今では"翼ちゃん“"理央ちゃん"って呼び合う仲になれたんだ!


 気が付いたらすれ違っちゃってたけど、理央ちゃんと仲良くなるのに必要なことだったのかもって今となっては思ってたりもしてるよ!



 結局、理央ちゃんが怒ってた理由は分かんないけど、双葉さんの話を聞いてたら、それとなく理由は伝わってきた。


 ──それは、ボクが理央ちゃんに壁を作っていたから。


 恥ずかしがって名前を呼ばなくて、口数も少ないせいで不安にさせちゃっていたんだ。


 理央ちゃんと距離ができて、始めて理央ちゃんが感じていた寂しいって気持ちを一緒にできた。理央ちゃんはどうしてるんだろう、どう思われてるんだろうって気にして、ずっと落ち着かなかった。


 ……ずっと、理央ちゃんをこんな気持ちにしてるんだって、分かったから。辛かったよね、ごめんねって気持ちになって、名前を呼びができるキッカケになったんだ。


 だからね、結果論だけど同じ気持ちになれて、本物の親友になれたんだって思ってる。


 お陰で、今は毎日が楽しいよ!

 理央ちゃんといる毎日が楽しいんだ!


 これからもよろしくだよ、理央ちゃん!!




 放課後、夕暮れ、屋上、二人きり。

 いつもの場所だけど、最近は毎日ウキウキが止まらない。


 ──だって、またミステリアスに、想いを馳せられるようになってきたから!


 理央ちゃんが帰ってきてくれて、心に余裕ができて。そしたらね、頭の中がミステリアス──楽しい妄想でいっぱいに溢れてさ!


 現在進行形で、ミステリアス少女としての階梯を凄い勢いで駆け上がっちゃってた。ボクは今、世界一絶好調なミステリアス少女かもしれないね!



「……夜は、時間、止まってる」


「前に言ってた、夜の時間は、みんな死んじゃってるって話?」


「そう」


 だから、今日も理央ちゃんに、ボクの妄想を聞いてもらうのです。


 自分の中で抱え込むには、色々と溢れすぎちゃってるから。いつも、真剣な顔で聞いてくれる理央ちゃんに、素敵だって思える妄想を届けたいから!


 ……熱心に聞いてくれてるし、嫌がられてるなんてこと、ないよね?


「吸血鬼に、キョンシー、幽霊。全部、夜にだけ、姿、見せる」


「えっと、生きてないから、夜にしか姿を見せられないってこと?」


「そう……あれは、太陽が弱点じゃ、ない。時間が進むこと、それが、滅びのための、条件」


 一瞬、不安になったけど、理央ちゃんは嫌な顔ひとつしてない。だったら、今はお話を聞いてもらっても良いかなって気分で、辿々しく言葉を手繰った。


 ……後で、理央ちゃんのお話も聞くから、ごめんね?


「太陽は情熱で、それを燃やして生きてるって言ってたよね」


「ん、夜しか生きられない、のは、死んでいるから。朝に、生まれ変わらない」


「……朝に産まれ変われないから、消えちゃうの?」


「夜にしか現れないのは、そういう、こと」


 いま話してるのは、この前お話しした太陽は情熱で、命の源なんだよって話の逆のこと。


 夜の世界は、生がない、実態があやふやな存在の世界なんだって妄想。


 ある意味で永遠な、夜の世界のお話。

 ……何か格好良くて、ちょっと憧れがあったりするよね?


「死にたくない、なら、夜に目、覚ますべき。──そうすれば、永遠が、ある」


 夜にだけ目覚めて、陽が登っている間は死んだように眠っている。そうしたら、伝承の吸血鬼とかと一緒で、不老で不死身の存在でいられるんじゃないかって話。


 夜に目を覚ますと、すごく静かで、澄み渡るみたいな静かさが、少し怖かった。


 だから、そんな妄想をしちゃったんだ。

 時間が、ずっと止まってるみたいに感じたから。


 夜中におトイレ行くだけで、こんな妄想できちゃうボクは、本当にいま絶好調だよ!


「翼ちゃんは、そうしないの?」


「ん」


「……なんで?」


 ずっと歳を取らない、ある意味で永遠の世界。

 そんなものがあるなら、そこで生きてみたくないのかなって、当然の質問を理央ちゃんはして来た。


 うん、確かに真っ先に思いつくよね、それ。

 でも、ボクは夜の世界は求めてない。


 別に、永遠になんか生きたくないとか、終わりがあるから美しいとか、そんな哲学があるわけじゃない。


 でも、それよりも切実な理由が、一つあるから。


「──さみしい、世界、だから」


 ──そう、夜に起きてトイレに行くと、些細なことで驚いてお漏らしをしちゃいそうになってしまう。


 本当に、切実に、真っ暗な廊下を歩いて、夜におトイレに行きたくなさすぎる。


 ボクは、夜に生きるのには、どう考えても不向きな人間だった。


「……そう、なんだ」


 理央ちゃんは、ボクの答えを聞いて俯いて。

 少しの間そうしてて、考え事してるみたいだった。


 何だろ、理央ちゃんは夜の世界に生きてみたいとか、そんなこと考えるタイプなのかな?


 確かに、ずっと歳を取らないとか、永遠に若いままとか、そういうのにはちょっと心惹かれるよね。


「……あの、ね、翼ちゃん」


 理央ちゃんが顔を上げた。

 なんか、少し緊張気味に。


 ……何だろ、夜のトイレの怖さ、気が付いちゃったとか?


 理央ちゃんは屋上のフェンスを掴んで、下のグラウンドを見下ろしていた。トイレの話じゃないっぽい感じがする。


 じゃあ、何だろう。


 ジッと、理央ちゃんを見つめて待ってると、ポツリとその口からこぼれたのは……。


「──毎日一生懸命で、疲れない?」


 なんか、思ってもみなかった言葉。


 一生、懸命? ボクが?

 ……よく分かんないけど、ミステリアス少女活動のことかな?


 だとしたら、全くもってもーまんたいだよ!

 ミステリアス少女活動は楽しいからやってるだけで、頑張ってるとかそんなのは全くないからね!


「疲れ、ない。──りおの、おかげ」


 最近は、一人の時より素敵を沢山感じられる。

 一人の時より、ずっとボクはミステリアス!


 だからね、理央ちゃん。本当にありがとうだよ!

 いっぱいの感謝を込めて、ボクは口を開いた。


「ありが、と。──りお、すき」


 いつもありがとー! って気持ちを口にすると、今日に限っては全然お口が反抗期じゃなかった。むしろ、素直過ぎて何か余計なことまで口走っていた。


 待って、いまボク何言ったの!?

 好きって、口が勝手にほざいたよね!?


「……翼、ちゃん」


 確かにそうなんだけど、なんか違うよ!

 好きっていうのは、友達的な意味合いで!!

 恋人になって〜、とか、そんなんじゃないから!!!


 だから理央ちゃん、そんなにまん丸となった目で、息を呑まないで!

 ボク、告白なんかしてないよ!!


 そう言いたいのに、さっきまでペラペラだった口が動いてくれない。


 このポンコツ! ボクのポンコツお口!

 喋らなかったらミステリアスなんて大間違いなんだよ、このポンコツミステイクお口ヤロウ!!


「……じゃあ、ね」


 結局、ボクに出来たのは、恥ずかしさのあまり逃走することくらいだった。


 敢えて言うとね、覚えておけよーってことだよ!


 あっ、やっぱり嘘!

 明日までには全部忘れちゃっててね、理央ちゃん!


「りお……また、明日」


 慌ただしく、ボクは逃げ出した。

 タッタッタっと、脇目も振らず。

 顔、真っ赤になってないか心配しながら。


 あのね理央ちゃん、ボクはレズじゃないから、理央ちゃんの体目的に近づいたんじゃないんだ。


 だからね、勘違いしちゃ嫌だよ!

 やましくなんてないんだからね!!

 信じてね、絶対だよ!!!






「りお……また、明日」


 それだけ言って、屋上からトテトテと去っていく翼ちゃん。いつもだったら、照れてるんだなとか、可愛いって思うその後ろ姿。


 でも、今日は胸が落ち着かなくて、思わず待ってって言っちゃいそうになっていた。


 ──ふと、翼ちゃんが消えちゃいそうな、そんな気がしちゃったから。



『──毎日一生懸命で、疲れない?』


『疲れ、ない。──りおの、おかげ』


 ここ最近、毎日考えていた。

 翼ちゃんは、どうして天使様の階段を登りたいだなんて──死んじゃいたいなんて、考えてるんだろうって。


 何か、辛いことがあるのかなって考えて。

 どこか、人生に納得がいかないんじゃないかって思ったりして。


 ──実は、本当は天使様で、今は偶々地上にいるだけなんじゃないかって夢想してみたりとかして。


 考えれば考えるほど袋小路で、答えなんて掴めないままで。翼ちゃんのこと、分からないことに不安がどんどんと蓄積していって。


 どうしよう、どうしたら良いのって気持ちで、胸がいっぱいになっていた。


 ……だから、今日は少し、翼ちゃんのことが分かって、ホッとした。


 それは、翼ちゃんに夜の中で永遠に生きようって、そう思わないのって聞いた時のこと。


 天使の階段を登りたいって言ってたから、翼ちゃんが永遠に生きようって思ってないことは知っていた。


 でも、その理由。翼ちゃんが、永遠を欲しくない理由は、ちょっと思っていたのと違っていて。


『──さみしい、世界、だから』


 永遠に生きていたら、翼ちゃんはいつか一人ぼっちになってしまう。それが怖いんだって、そう口にしてくれていた。


 初めて、翼ちゃんの裏側を覗かせてくれた。

 それが、嬉しいはずなのに……怖い。


 ──翼ちゃんの裏側にあったのは、辛いなんて気持ちじゃなかったから。


 いつも無表情で、不思議な空気を纏っていて、夕焼けの中で佇んでいる、天使になろうとしている女の子。


 それが私にとっての翼ちゃんで、その子の一番になれたことが、とても誇らしい。


 そんな特別な人、だった。

 一緒に空へ旅に出ようって、約束もした。


 気持ちをおんなじにしてくれる、だから仲良くなれたんだって思ってた。


 でも、それは違うんだって、さっき気がついてしまった。……だから、怖い。


 翼ちゃんは、辛いから死んで天使になろうとしてるんじゃない。


 精一杯生きて、情熱の全て燃やし尽くして、そうして身軽になってから天使になろうとしてるんだってこと、伝わってきちゃったから。


 今日の翼ちゃんのお話、夜のことについて。

 この前の陽の光の話とセットで、ようやく翼ちゃんの価値観が理解できた。


 曰く、夜の世界は死んでいて、時が止まっている。夜だけに生きられるなら、永遠があるって翼ちゃんは言っていた。


 ……そして、永遠は要らないってことも。


 止まっている、いつまでも変わらない夜の世界はいらない。それが翼ちゃんの答えで、この前はこうも言っていた。


『……生まれ変わっても、記憶が引き継げる。その断絶がない、のを、成長っていう』


 ここまで来ると、自ずと理解できてしまう。

 ──つまりは、翼ちゃんは死んじゃうことですら、成長だって思っているってことを。


 死んだ先にも世界があって、ずっと遠くまで飛んで行こうとしているんだって、分かっちゃった。


 成長したいって一生懸命なんだ、翼ちゃんは。

 私なんかと……全然、違ってたんだ。


 勘違いから、私は翼ちゃんに執着しちゃっていた。

 同じ気持ち、辛くて死にたいなんて後ろ向きなもの、翼ちゃんの中にはそもそも存在しなかったんだ。


 ……ショックかと言えば、少しそう。

 確かに、胸にチクってしてるもの、感じちゃった。


 けど、それ以上に……。


『ありが、と。──りお、すき』


 さっき言ってくれた、翼ちゃんのこの言葉は、思い込みなんかじゃないから。


 翼ちゃんは私を好きでいてくれている。

 これだけは、ハッキリと伝えてくれたから。

 本当のことだって、信じられたんだ。


 だから──胸がグシャグシャだけど、平気な顔を取り繕えてた。



「──私も好き、大好きだよ、翼ちゃん」



 だからね、ずっと一緒にいたいんだよ。

 成長なんかして欲しくなくて、翼ちゃんには永遠で欲しいの。


 ──死なないで。

 ──ううん、死なせないよ。


 ごめんね、翼ちゃん。

 私──約束、守れそうにないや。

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