3流魔術師⑩
「偽エリーの話ですね。ニアさんたちの。」今日はハンナお姉様が話を聞かせてくれる。私もよく知っている人たち。ニアさんたちは学園卒業後探検家グループ偽エリー一味と名乗り各地の秘境、魔境を探検している。私が3日間意識を失っている間にもお見舞いに来てくれたらしい。枕元に毒薬とドックフードとカエルの干物と手裏剣が置かれている。笑みがこぼれる。怖いイメージをもたれ始めた魔術師の印象を少し良くした人たち。
取材時に喧嘩していたのに次に日には仲良さそうに出かける色物探検家。ニアさんが偽エリー、毒舐め男さんが偽ピー助、その他は不明。カトリーナさんに聞いてもぶつぶつ言ってごまかされる。
ハンナさんは
「有名になっちゃたよねぇ、魔術はそんなに大したことなかったけど、一発芸というか、探検家向けの能力をそれぞれ持ってて」といった。その時扉が開かれる。
「誰が魔術は大したことないですってぇ」
忍者男さんは今日はくのいち女さんになっている。私は大笑いする。くのいち女さんはハンナさんにつかみかかる。錬金術師はけんかっ早い人が多い。知らない人相手には押し黙るけれど、知り合いにはけんかっ早い。くのいち女さんはハンナさんに袖釣り込み腰を決められる。
「エリーちゃん!」
ニアさんに抱きしめられる。ケロちゃんもやってくる、分身男さんが私に抱きつこうとしたときはお兄様が超高度な魔法で動けなくした。くのいち女さんは床にもぐって衝撃を減らそうとして地の底に沈んでいく。カトリーナさんは部屋の中をきょろきょろしている、昔お兄様に渡した衝撃を受けると光る石を探しているのか、今回私にお見舞いに持ってきて処分されたものを探しているのだろう。
私の体の状況は聞いた。クレイジーメタリックブルーバードが出たと聞いたときは私も会いたかったと思った。私の命はやっぱりもう長くないらしい。
けれど一つだけ可能性がある。天使の世界に行き、天使長から出される試練を突破すること。私は世にも珍しい錬金術による人造人間の為、私の治療は個人的な願いに当たらず。試練を突破すれば、治してもらえるのだ。天使長兄妹から直々にそのような手紙が届いた。
私が意識を取り戻したとき、希望をもってそのことを話す兄にハンナさんは、
「もうエリーちゃんの体はボロボロ、今にも死んでしまう。こんな体で突破できるわけないしょうが」といって泣いていた。エリクお兄様が手を振り上げる。二人はいつも仲良くしていたし、お兄様は普段誰にでも優しく女性に手を挙げるような人じゃない、お兄様はギリギリその手を止め同じように泣いていた。自分で止めたのか、悲しさが勝ったのかはわからない。それでも止まってくれてよかった。お兄様はひどい後悔に襲われるし、ハンナお姉さまもお兄様に叩かれたらきっと一番痛い。
私はその時は目を覚ましていなかったふりをする。
今私の体は万全だ。ハンナさんが夜通し手を握り魔力による治療をしてくれた。一時的に体調が戻っているだけのこと。
ほとんど外に出られなくなってからできた友人たちに見送られながら、招待状は私と兄に届いている。
某年某月某日
私と兄は初めての探検に向かう。
ニアさんたちは本当は探検に出られない私の代わりに偽エリー一味を名乗って探検家をしている。
けれど今日私は初めての探検にでる。
ニアさんたちははもう偽エリー一味を名乗らなくていい。




