魔術師戦争⑧
某年某月某日
魔術師協会激震が走る。2000人の同胞の命が奪われたのだ。ビリーはその場に向かう。15000の魔術師を率いる。世界の人口は30億人を超えている。協会内の戦える魔術師15万人の中から1割が出向く。前代未聞の出来事だし、戦闘能力があるだけで戦ったことのない者も多い。移転した先では激しい戦いが繰り広げられていた。「先生、なぜ錬金術師をかばうんですか。」若き天才魔術師といわれるサラと相手の男は知らないが、錬金術師は実力のあるものでもあまり表に出ない。サラは天才の名に恥じない実力だが、錬金術師の男を攻めきれない。そして帝国最強のウォルターがサラの攻撃をいなしている。「魔法封じ・・・」私はつぶやく。過去の錬金術師シオンが使ったことで知られる。魔術師協会のトラウマ。それを錬金術師の男が放った。2000人の魔術師の死の理由は察せられる。勝負は決まったかに思ったが、サラはただただ顔面をぶん殴った。鼻血を出し吹き飛ぶ錬金術師、少しいい気味だ。魔術も封じられていない。本来魔術封じなどよほどの実力がなければきまらない。「先生も知っているでしょう。私の祖母は帝国の侵略時その場にいなかった。魔術師協会の呼び出しを受けたからだ。そして国を守れなかった魔術師として錬金術師に魔術を封じられて殺された。私は魔術師協会も、錬金術師も嫌いだ。親が殺されみなしごだった私を育ててくれた私の大切な祖母だった。」昔あった事件だ。魔術師協会としては耳が痛い。当時の魔術師協会の中に女神正教徒が紛れ込み、小国だった今の帝国が巨大化して行く手助けをしたのだ。錬金術師は直接手を下したわけではない。魔術を封じただけ。魔術師協会の腐敗の噂とその影響による戦争から、魔術師を恨むものがたくさんいる国であり、勝った側の帝国としても反乱の目は残したくない。誰が彼女を殺したかはもう誰にも分らない。それでもきっかけをつくったのは、魔術師協会と錬金術師だろう。サラは怒りで肩で息をしている。ウォルター、サラ、錬金術師の男、それぞれが一人でわれわれ1万5千人を相手どれる程のつよさ。ただそれは私を除いた1万5千人だ。私の魔法がサラを打ち抜いた。「ウォルター殿、この度の魔術師の大量虐殺、帝国には責任を取らせねばならない。手出しは無用だ」といった。私が合図を出す。大公、弟皇帝、宰相、主要な将軍、主要な反乱貴族は一撃のもとに死に絶えた。ウォルターは崩れ落ちる。この国を守りたい一身だったのだろう。彼の部下たちは我々に攻撃を仕掛ける。我々は総崩れになる。ウォルターの500人の弟子は15000の魔術師協会の魔術師のうち8000人を倒した。そしてウォルターが動く、私のほうに向かってくる、私は身構えるが狙いは私ではなかった、サラが剣を作り出し私を狙ってきていたのを止めたのだ。「サラ、君の身に起きた悲劇は知っている、だがアーヴェルも、魔術師協会のビリー殿も、君の祖母に手を出したものではない」という。サラは泣きながら叫ぶ「そんなの関係ない。錬金術師のあり方が魔術師を追いつめる!魔術師協会のあり方が、私の祖母に恨みを貯めさせた」サラはウォルターに切りかかる、魔術の腕は互角、身体能力はサラが少し上、私はサラにもう一度攻撃を仕掛けるが今度はうまく迎撃される。私の右腕は切り裂かれた。傷がふさがらない。通常の傷なら魔術師は簡単に治るはず、呪いがこもっている。とどめを刺しに来るサラをアーヴェルの剣が止める。実力の近い魔術師の戦いは殴り合になるとはよく言ったものだ。彼と彼女は私では探知できない精度の魔法をぶつけ合っていた。先ほどの私の一撃はアーヴェルとウォルターに集中し切っていただけ、私はこの二人、そして、ウォルターより一歩劣る。それでも3対1だ。サラは守りに徹するしかなくなった。ウォルターは甘い男だ。アーヴェルは・・・錬金術師は人を殺さない流派がほとんど。とどめは刺さないだろう。私がいてよかった。魔術師協会の害をなすものを放置しない。サラは粘ったが相手が悪かった。互角の実力を持つ者を2人相手どったのだ。血まみれになりながらも剣をふるい魔法を放つ。ついに決着の時、最後の横やりが入る。サラは「姫」と呼ぶ、アーヴェルは体中が破裂して死ぬ。私は自分の死を悟るが帝国の多数の人民を道連れにした。サラではないが帝国のものを道連れにしなければ気が済まなかった。ウォルターは無力化させられる。もう一人の天才ポーラだった。ずっとこの機会を狙っていた。私の残りの部下は7000人ものこっていて、ポーラ一人を前に動けない。私は意識が消えていく。
「サラ、姫はやめてよね、ウォルター先生、だましてごめんなさい。私は月の民の生き残り、王家の血をひくものです。その血はサラよりも濃い、そして女神正教を利用してエルフから祖国を取り戻した。エルフたちは戦乱を避けて避難するけれど。私はどうしても故郷を取り戻したかった。」
「君がそうだったのか、だがそれならばなぜ泣いているんだい。」
「王族は昔神とあがめられたりしたそうだけれど、わたしは人間ですもの。知っている人が死ねば悲しい。知らない人が死ねば悲しい。嫌っているやつでもさすがに殺したら寝覚めが悪い。それを親友にさせたら永遠に後悔し続ける。」
ポーラはさらに肩を貸し歩き出す。サラは涙を流していた。ポーラは泣いていない。その後サラとポーラを見たものはいない。帝国領、サラとポーラの村やその近辺の村から約1万人が行方不明になったそうだ。彼らが月の民の生き残りだったのだろうか。サラが奪ったという旧エルフの国を訪ねたものもいたがもぬけの殻だった。