魔術師戦争⑥
某年某月某所
キムンカムイは思っていた。故郷へ帰りたい。魂に刻まれた望郷。4足で歩く熊は獣に分類される。人族と魔族の分け方だ。我々四足熊には伝承があった。人々を助け、信仰を集めたものは我々の先祖の故郷、こちらの世界でいう、獣と魔物の世界に行けるという。私はそのような噂を信じる仲間たちを止めることができなかった。まるで人族のように帝国の腐敗を嘆き、女神正教にいいように利用される仲間たち。それでも私はその仲間たちをおいて、獣と魔物の世界に行くことはできない。
「あなたのような優秀な獣の神の助力を得られて光栄です。」女神正教の3人の指導者の1人、獣を使い帝国に打撃を与える。軍にまぎれさせれば、戦争扱いとなり魔術師はうかつに手を出せない。単純だが有効な策。こちらの世界でもいくらかは人族の言う2.5次魔法に達する獣はいる。私の配下から10体の四足熊が参加を表明している。人族をなめすぎだ。我々は2.5次魔法の段階では魔法はほとんど使えないに等しい。妖精的進化をするのが我々。獣と魔物の本当の違いは精霊的進化をするか妖精的進化をするかなのだ。人族にこのことを知るものは少なく、間違えた区分けをすることは多い。
妖精的進化の代表格ゴブリンは2次魔法に達しても戦闘能力をほとんど得ない。あらわれる、消える、それを繰り返す。我々四足熊は妖精的進化をしても、牙や爪が魔術師の体をすり抜けなくなる。魔法が多少耐えられる。その程度しか能力を得ないものが多い。魔術師に負け続けたのが獣の歴史だ。
「帝国の腐敗は獣も住みにくい世界になった。獣はもう人族には勝てない。権力争いでそれぞれが領土拡大を目指せば、獣の住処は更に奪われる。」と答えた。女神正教の考えは我々に近い。私とは違うが他の四足熊に近いのだ。こやつらは新たな世界を欲している。エルフの国の乗っ取り。サラと呼ばれる強力な魔術師がエルフの妖精と精霊の世界のへ移住を促した。我々も自分たちの世界が欲しい、自分たちが獣と魔物の世界に移住したとして、悲惨な未来しかない頭ではわかっていても本能が獣と魔物の世界への移住を願う。彼らにとっての故郷はエルフの国なのだ。月の民と呼ばれる一つの民族の生き残り。魔族のように見た目の違いがないからこそ、故郷を欲する。帝国は多民族国家。似た願望をもつものは多い、だからこそ女神正教と女神教のいさかいを利用して世界に混乱をもたらし、故郷を取り戻す。そのために帝国を作った、我々にはない行動力。
我々は戦うだけ、四足熊を率いた反乱貴族の軍は皇帝に味方する6人の王を倒し、ついには大王、兄皇帝まで倒す。女神教団は残り5人。100人でエルフの国に攻め込みサラをおびき出す。
50人の魔術師と内通者により宮廷魔術師たちを活動不能にした。魔術師の弱点は数の少なさ・・・?ウォルターの弟子たちは何をしている。我々の知らない何かが味方をしている。こちらにはサラが攻めてくる。サラは先頭を駆ける。無駄な犠牲を出さないためだろう、10人のみでこちらへ向かう。女神正教の指導者ともなれば、犠牲を出さずに勝つことは難しい。「・・・キムンカムイ」サラはそうつぶやく。いくらかは警戒しているのだろう。私は女神正教の指導者を不意打ちで倒し、サラに恭順を示す。私は少なくともこの世界では最強クラスの存在だと思っていた。縄張り争いで巨人とドラゴンを倒している。今は人族と争わず、力を蓄えたドラゴンと巨人、どちらも容易にそれぞれの種族の世界に向かえるが群を守るためにこちらに残ったものたちだ。サラ以外の9人は同時に相手取っても勝てる。それでもサラには勝てるわけがないことがわかってしまう。自分は胃の中の蛙だった。恐怖で暴走した彼女の部下の攻撃はすべて耐える。敵とはいえ、女神正教の指導者は人、私は獣。それでもこちらからは手を出さない。唯一の生存の道だった。「反抗の意志はない」という。サラが仲間の攻撃を制止する。「人族と獣はずっと争っている。獣退治は魔術師の仕事。一騎打ちで決めましょう。」サラは剣を構えた。私は力を振り絞る。そうなのだ、人族と四足熊は相いれない。人族がそばに置くのは安全な獣のみ。戦場では部下は数十万の人族を殺したことだろう、彼女が戦いをやめる理由はなかった。それでも獣の神とまで呼ばれた最後の意地だった。声にならない叫びは世界を震わせる。力を持つ獣の多くは魔術の阻害を武器とする。完全に封じる訳では無いことが自分より魔術に長けたものに効きやすくする。そして2.5次魔法に達した獣の速さは無限になる。その速さを受け止めきれる魔法を体にまとう事が出来る者は四足熊では私だけだ。他のものは無限の速さになったまま1歩も動けない。止まった時のなか、私とサラだけが動ける。ほとんどのものには見えもしない。優秀な魔術師でも時が動き出したのち何があったかをわかる事しかできない。極一部の魔術師でも精度、威力を大幅に落とした魔法しか放てない。サラだけが違った。サラの剣が私の心臓を貫くが私はサラの首元にかみついた。最後に自分の限界を超え、私の出会った中過去最強の魔術師、圧倒的に強きものと刺し違えた。悔いはない。
しかしサラは再生していた。獣の魔力により受けた傷の治りは非常に遅くなる。それが獣の強みだったはずだ。そういう制約を取っ払う力量差がそこにはあった。彼女は皆に気づかれないように私に治療の魔法をかけた。魔法に意志が込められている。獣と魔物の世界に行けと言っている。10体の配下はすべて討伐されたそうだ。人族の反乱軍の兵は市民にまで手をだし虐殺したが、私の配下はそのようなことはしなかった。だから1度だけ私を助けたといっていた。




