妹番外編④
死ぬ事については本当にギリギリまで実感がわかない。まだ怖くない。
シオンさんやザイスさん、そしてお姉ちゃんクラスの魔法使いになると名前に反して魔法を使わなくなる。
使うまでも無くなるのだ。
存在そのものが魔法になるからだといわれている。
この大勇者エリーら50年前の魔法使い達が広めた思想は魔法を信じられない程発展させた。
お姉ちゃんに聞いた話だ。
けれど魔法使いでない私には理解出来なかった。
お姉ちゃんは女神と呼ばれ始めた大勇者エリーに憧れを持っていた。お姉ちゃんが人を褒めるのは珍しい。
私にはむしろそちらが気にかかった。
自分より幼い人はよく褒めるが、ライバルや越えたい相手、そして憧れる相手こそ敵視する。
そんなお姉ちゃんでも憧れを抱きながら敵視しない数少ない3人の女神と称される魔法使い達。
私の赤い瞳がシオンさんを見据える。オオカミの血は大勇者エリー達ともどこかで繋がっているかもしれない。木こりの子孫エリー、木こりの一族はその一族のルーツとなる神話にオオカミに育てられた伝説を持つものは多い。
オオカミという魔物は、魔法を使わないものか増えた。私達月の民は山から抜け出し人の世で人して生きる道をとった。
けれど・・・、
満月の輝く夜には1人で出歩いてはならない。
満月の輝く夜には2人で出歩き、オオカミを見たら、1人を見捨てねばならない。
満月の輝く夜には・・・。
私の生まれた国には月の民が多かった。
私の嫁いだ国には月の民はいなかったし、オオカミはいなかった。それならばこちらの国の皆を見捨ててもよいのではないか。私は弟子ちゃんの顔面を殴っただけだがその喉元に食らいつけば殺せていた。
今日は満月の夜だった。
きっと大昔の月の民も同じ気持ちだった。
大昔の月の民もライカンスロープとなれば人を食い殺す事を出来るのにしなかった。それを続けるうちに人となった。
だけどお姉ちゃんは人であろうとしすぎてしまったのだ。私はライカンスロープの本性を表す。月の民とはライカンスロープの末裔。お姉ちゃんはきっとザイスさんにはライカンスロープの姿で戦い勝った。
「お姉ちゃんなら、魔術師協会の力なんて借りなくても、罪自体を消すことか出来たんでしょう?」
と尋ねた。実力のある魔術師は事件自体を隠すではなく、本当に消せるのだ。ある種それをさせない為に魔術師協会は罪を軽くする道をとっている。
戦闘態勢、ライカンスロープの姿をとった私をみてもシオンさんは無表情を崩さない。
シオンさんは「違うよ」と答える。今なら弟子ちゃんの気持ちが分かる。この男の全てを見透かしたもの言いが癇に障る。お姉ちゃんだってそうだったのだろう。
錬金術師は人を怒らせる。お姉ちゃんは最初錬金術を学んだ。錬金術師は憧れさせてしまうと同時に嫉妬させてしまう。ムキにならせてしまう。ムキになった相手をからかってしまう。
「お前に何がわかる!」私は叫んだ。ライカンスロープ状態となると錬金術師エリーのいういう所の魔法の格がかわる。未熟なものはそもそも姿を変えられず、私のように魔法の素養はないが血筋だけは濃いものが姿を変えると、人が自分と同じ種という意識がへる。
「君のお姉さん、僕のかつての恋人は、今日が満月だと知っていた。満月の夜になれば自分はライカンスロープになれる。死の恐怖からライカンスロープになり魔力を取り戻し、自分の罪を消してしまう。そう思ったから今朝死んだんだ。夜まで待つと覚悟が揺らぐから朝死んだ。方法は分からないし矛盾するようだけれど、君のお姉さんは自らの魔法により自殺した。それが僕の考えだ。難儀な性格だよ。」シオンさんは優しく私を見つめそう言った。私は動けなくなっていた。
私はお姉ちゃんの妹、男の趣味はにている。夫はザイスさんににているし目の前の男も性格はともかくとして、見た目については格好良く感じる。
「私のいったとおりだったでしょ!」
弟子ちゃんが立ち上がり何事もなかったようにふふんとそう言った。顔面にも殴られた跡はない。演技だったのだ。いったいどこからだろうか。
シオンさんに寄りかかるとシオンさんはドギマギしたように離そうとするが弟子ちゃんは離れない。
シオンさんがお姉ちゃんの事を偲び、涙を流したからそうしたのだ。この女はやはり女として私や姉よりしたたかだ。
私は「あなたの国の、復興に手を貸します」と言った。私は弟子ちゃんの言葉の意味を理解していた。
私は今日魔術師になったのだ。
お姉ちゃんは唯一生き残る可能性のあった私に魔法を譲ったんだとおもう。そんな事大勇者エリーにさえできない。シオンさんだってできない。
私はもう自分の命を自分の好きに出来ない立場になったのだ
補足情報2点
エリー達の生まれは100年以上前ですが。一線を引いたのはもっと後。引退からは50年はたってません。
姉の死に妹があまり動揺していないのはわざとです。遠い地というのか一番の理由です。また一応彼女も国主の端くれなの、彼女の感覚からすると実際の死ではなく死刑が決まった時点が死となります。




