マナ番外編② 大魔王と大勇者
某年某月某日
日付になど意味はない。二次魔法に達すれば全てが見える。魔法とは時として、生物としての格をあらわす。この世界の魔族と人族、合わせて人間という生き物の中でたった二人、同じ日に生まれた大魔王と大勇者、この二人だけが、生まれながらの二次魔法使い。
私は魔術をつかわない。バタフライ効果といわれているものがある、蟲の羽ばたきのようなほんの少しの条件の違いが世界に大きな変化をもたらす。
二次魔法使いである私は思うだけで世界中の全て、そして過去も未来も自在に操れる。術なんて必要ない。
「シエル様、どうかこの国をお救い下さい。」
私の国の大臣はそう言って悪魔退治を依頼する。僅か4才の少女にだ。歴史上悪魔認定を受けた巨人は3体、大魔境によりしきられておらず、界の実力の者でもこちらの世界にやってこれるドラゴン以外の異世界生物を退治出来た例は無い。私がいなかったからだ。
「こちらから手を出したのでしょう。私は知っていますよ。」
巨人の住む森に進んで侵入する、巨人は警告を発していても更に進む。己の実力を過信した魔術師が一人殺され、仲間の魔術師が王に悪魔認定を要請した。
「既に多くの被害がでております。」
そう言って頭を下げる。討伐対は壊滅し、どこからともなく現れた巨大な手により、悪魔認定を定めた、隣国の王城はゴマ粒のようにされている。
巨人にとってはかなり抑えたそれこそ、それ以上の手加減は難しいといえるような反撃だ。二次魔法使いである私はむしろ巨人の配慮の方に思いが寄ってしまう。
けれど私は人間だった。頭を下げ続ける大臣はシエル交渉担当大臣という役職であり、私と交渉することが仕事であり、私と交渉する者がいることが他国を萎縮させるのだ。
私は少しでも、罪悪感を減らすように、何百年も前から巨人が無作法に暴れ回っている世界に過去を作り変え、少し巻き戻す。
「まだ幼き少女であるあなたに依頼する事は大変心苦しいのですが、シエル様どうか、悪辣非道な巨人から我々をお救い下さい。」
私の国の大臣は、焦りで息を切らし、目に自らの力のなさに涙を浮かべながらそのように依頼した。それでも私が微笑みかけるとつい見惚れてしまっている。私は大臣の手を取り
「どうかお顔を上げて下さい。私の力はこのような時の為にあるのです」と答えた。大臣は感謝し何度も頭を下げる。気持ち悪いので退治後はまた元に戻す。何百年も前から巨人が無作法に暴れるようなら世界はとっくに終わっている。あり得ない状況。そんな状況に私が術を使わされるまでもなく、陥る、異世界の巨人といえど私の敵ではない。
「でも、大怪我しちゃったんだよね」
目の前の二人の少女の一人はそう語りかける。目の前の少女は大勇者、隣の少女は誰だ。大勇者と大魔王の物語。一滴の不純物
、私の心を読まれた。不快気にそちらを見る。「深層は読んでないよ。それに魔術でもなく表情から推察しただけ」と答えた。大勇者は隣の少女の袖を引っ張り何か二人で話す。凄い美人だとかそういう話だ。二人だって滅多にみられないような容姿だけれど、魔法使いとは大抵そうだ。
大勇者は「エリーって言います。魔王様はしめまして」と言った。