新しい魔法⑨
エリーは最後に戦う。エリーは幸太郎と呼ばれる男はそう伝えた。その他はくじ引きで順番を決める。カティアは自分が最後じゃないことに不満げな顔をしたが他の4名は納得している。私がなだめる事で了承した。幸太郎は私に、マナとシエルとどちらが自分と戦うかを問われたときは、どちらを選んでも窮地に追い込まれそうでうまく答えられなかったが、苦し紛れでエリーとも戦う事に決めてよかったと耳打ちした。先程のカティアの言動を見てのことだろう。とるに足らない実力者なら順番なんてどうだっていい。それでも既に他の世界の王から話しは聞いている。なぜエリーが知らない振りをしたのかは私には分からないにしても2次魔法にも達していないものがなぜ各世界の1次魔法到達者を打倒できたのかはわからない。きっとエリーには分かっている。幸太郎は
「エリーさん達の世界の石ころと人が競争する話は知っていますか?あの話は魔法の格が上の相手には勝つことが難しい例えです。でも人が石ころを、殺せる訳でもないんです。これもよく聞く方便です。」私にはそれが何を意味するか分からない。石ころを、4次魔法に加えないとするひとがよく使う例えだ。
「幸太郎君はわかってるね。」とエリーに肩をたたかれている。彼は照れたように後頭部に手をやる。
シエルは「オマールは見てないんだね。きっと驚くよ」と私にささやきながら戦いを見つめる。シエルに近くでささやかれ顔が赤くなりそうなのを抑える。彼女にかっこ悪い所を見せたくない。
戦いの順番が決まる。私、シエル、カティア、マナ、そしてエリー、私だけが世界最強ではない。私は武器をとるが、いったん魔法の力によりしまう。幸太郎は何も持たない。魔術師の基本である杖さえも。私の表情を見て奴は
「杖は使わないのです。大昔に廃れた文化です。」と答えた。彼は構えるでもなく立つ。杖があまり使われなくなったという話は聞かないわけではない。杖は魔法の制御でなく武器として使うようになったという話も聞く。右手で魔法を左手で剣を、錬金術師の影響だろう。彼は手をかざしさえしない。
「面白い」私はそうつぶやき弓を放つ。彼はようやく弓を受け止める様に手を伸ばす。おかしい、2次魔法を超えた物の魔法は0秒で届くのだ。矛盾の克服が魔法である。魔法であれば0秒で届く魔法を後から反応して迎撃できる。なれた者同士であれば魔法はほとんど当たらない。ただし私の魔法は0.5次魔法、ルールを捻じ曲げるだけの2.5次魔法や、ルールを世界ごとつくりなすだけの1.5次魔法とは格が違う。すべての世界を内包しコントロールするのだ。1.5次魔法で無限に魔法を創ろうがすべて内包してしまう。それはもう戦いであって戦いではないはずだった。それを魔法という形にしてしまうという奇跡。それを奴は2.5次魔法で受け止めた。格が一つ違えば止めるのに無限の力か奇跡がいる。そしてそれはそれぞれ1度しか起こらない。おこってしまえば無限でも奇跡でもない。二つ違えばその二つがそろっている必要がある。私は魔法を放つ。1発のみの魔法。それ十分だと思ったが奴はただの2.5次魔法で迎撃する。1度でも起きてはならないことが2度起きる。驚いたときには彼に背負い投げを決められていた。彼は追撃をしてこない。
「まだやりますか」と問いかける。私はまだ全力を出していない
「今のは小手調べだ。思ったよりやるようだが、そんな攻撃では私に傷一つつけることはかなわない」といった。彼は嬉しそうにしている。




