3
推理小説を書くって難しいですね・・・。
「・・・と、ここまでが今までの捜査の概要です」
私は、そう言って花音さんと堀江先生を見た。堀江先生は、優しい眼差しで花音さんを見ている。花音さんは、相変わらず無表情で、誰とも視線を合わせない。
御厨さんが、頭を掻きながら言葉を発した。
「聞き込みを続けていますが、全く進展がないんですよ。・・・犯人と動機はある程度絞られてるんですけど、決め手が無くて。関係者全員アリバイがはっきりしないし」
そうなの?私は絞るどころか皆目見当がつかないけど。
「・・・申し訳ないが、力を貸してもらいたい」
御厨さんが、花音さんの目をじっと見ながら真剣な表情で言った。
「・・・木下さん、大丈夫?」
堀江先生が、心配そうに花音さんを見る。
「・・・交代してみます」
私には意味が解らなかったが、そう言うと、花音さんの様子が変わった。
目が虚ろになったかと思うと、次の瞬間にスッと鋭い目つきになった。そして、両肘を机に突き、左右の指を絡ませると、妖しい笑顔でこちらを見た。
「やあ。久しぶりだね、御厨君」
「お久しぶりです。・・・秀一郎さん」
御厨さんの言葉を聞いても状況が理解できない。
花音さんは、私の方に目を向けて、にこりと笑った。
「お嬢さんとは初めて会うね。小川さんと言ったかな?」
「はあ・・・」
「私の事を知らないようだね。御厨君、私の事を説明していなかったのかな?」
「ええ。言葉で説明するより、実際に目にした方が理解しやすいかと思いまして」
「成程。・・・小川さん、君は解離性同一性障害という言葉を知っているかな?以前は多重人格障害とも言われていたが」
知っていると答えると、花音さん――秀一郎さんは、詳しく説明してくれた。
木下花音さんは、解離性同一性障害で、自身の他に瀬尾秀一郎という人格を持っているらしい。花音さん自身と秀一郎さんの他に持っている人格は無い。秀一郎さんは、年齢六十代の大学教授との事だった。
「ふむ、決め手ねえ・・・」
秀一郎さんが考え込んだ。私が花音さんの状況について理解したところで、私達は再び事件の話に戻っていた。
「被害者は刺殺との事だったね。凶器はわかっているのかな?」
「凶器は見つかっていません。被害者の胸に刺さったナイフのような物を、犯人が抜いて持ち去ったと考えられています」
御厨さんが答えた。
「だったら、返り血が犯人の服に飛び散っただろうな」
「ええ。返り血が付いてもいいように、使い捨てのレインコートでも着ていたかもしれませんが」
「被害者の関係者達が事件当日来ていた服を調べても、無駄だろうな」
「服と言えば、私、気になっている事があるんですが・・・」
私がその後続けて発した言葉を聞いて、秀一郎さんが口角を上げた。
「いい事を思いついた。・・・小川君、お手柄だ」
よろしければ、ブックマーク等の評価をお願い致します。