会社の帰り道に通路がある
ホラー書くのって楽しい。
ホラーなら全てを許したくなる。
みんなのホラーも読みに行っちゃうぞ♪
「会社に行くときと家に帰るときってさ、意識して変えない限りは道自体は同じになるじゃん。でも、この前気づいたんだ。帰り道のときだけ、なぜだか通路が増えているんだよな」
と、同僚に話をしたのがきっかけだった。
「帰りに酔っぱらっていたってことはないよな?」
同僚の疑問には否定をしておく。
興味津々な同僚の顔を見て、
「今日、俺の家に泊まって明日一緒に確かめてみるか?ただし、二日酔いで分からなくなるのは困るから酒は飲みすぎるなよ」
二つ返事で肯く同僚。
けっして特別な関係ではないが、翌朝は同伴出勤となる。
「ここを覚えておいて」
ビルが二つ並んでいるだけの景色である。ビルの間には埃が通るような隙間はあれど、人が通れるような通路はない。。
このまま突っ立っていては遅刻することになるので、訝しげな表情を浮かべる友人を促して会社へと向かう。
終業後、同僚と一緒に俺の家への帰り道を歩く。
今朝ほど確認がてら立ち止まったビルの前に到着する。
「だろ?」
同僚が肯く。
目の前には二つ並びのビルが建っている。
ただ、出勤時と違うのは、ビルとの間に人が一人で通れるぐらいの隙間ができていることだろう。
「この通路ってさ、通ったことあるの?」
同僚の質問に対して否定する。
ビルの間の通路から向こう側の景色は見えない。ちょうど中間と思われる位置でいったん行き止まりになっているのだ。そして、L字のような形で右へ曲がれることが陰影で確認できる。
「さすがにそんな勇気はないわ」
先の見えない、存在しないはずの暗めな通路。正直、興味はあったが一人で行くのはちょっと怖い。
「それじゃ、行ってみようか」
さすがに横二人で歩くほどの広さはないので、まずは俺が先頭、続いて同僚が通路に足を踏み入れる。
本当は後ろが良かったけど、俺から誘った話なので仕方ない。
さすがに暗いのでスマホのライトを付けて足を進める。
二人の足音だけがビルの壁に反射して鳴り響く。
かすかにだが胃酸を吐いてしまったような酸っぱい臭いが漂っている。
ビルの壁自体は普通なのだが、圧迫されている感じがするからだろうか。それとも通路が暗いからだろうか、一歩進むごとに嫌な感じがして不快感をつのらせていく。
それでも俺たちは突き当りまで進んだ。
右へ振り向くと、一メートルほど進んだところで、次は左に曲がるように通路はできていた。
意味の分からない通路の形に、ビルの方はどうなっているのだろうとは思ったが、そもそもこの通路自体が異常なのだ。今さら疑問を浮かべても仕方がない。
俺たちは足を進め、左に曲がった。
通路の先には大通りが見える。
「緊張でつい黙っていたけど、なんか安心できたわ」
と、同僚が言った。
大通りの先には某牛丼チェーン店の看板が見えるし、人が歩いている姿も見える。もし、異世界に繋がっていたらどうしようなんて頭の片隅で考えていたが、こうやって見慣れた風景を見ると心が落ち着く。
「さっさと出ようぜ」
それでも通路自体に嫌な感じはしているので、出口に向かう足を早める。
「おにいさんたち、どうしたの?」
ふと後ろから、若い女性の声が聞こえてきた。
「ん?」
と、同僚の落ちついた声。足音が止まったこと、衣が擦れる音から同僚はきっと振り返ったのだろうと思う。
俺はそれどころではなかった。
全身に鳥肌が立ち、通路に一秒でもいたくない気持ちでいっぱいになった俺はダッシュで大通りまで駆け抜けた。
「はぁ、はぁっ」
膝に手を置いて、息を切らす。
後ろから声をかけてきた若い女性はどこから現れたのか。
真後ろから声が聞こえたことを考えると、俺たちは中央で曲がっているから、通路の入り口から声をかけてきたのではないことは分かる。
だからといって俺たちのように通路に入り、追いついて声をかけたというのも考えにくい。俺たちに追いついたと仮定するのなら最低でも小走りする必要がある。
でも、それはありえないのだ。
通路に響いていた足音は二人分だけだったのだから。
歩いている足音が響いていたのだ。小走りしているのなら三人目の足音がないとおかしい。
そのことに気づいた俺は居ても立っても居られなくて出口に向かって駆け出した。
大通りに出た瞬間、車や雑踏などのいつも当たり前に聞いていた街の喧騒が聞こえてきた。
先ほどまでは自分たちの足音しか聞こえていなかった。
それを思うとやっぱりこの通路は異常だ。
出口に大通りが見えていたのに、聞こえていたのは二人の足音だけで、街の喧騒が耳に入ってこなかったのだ。
息が整い始めたとき、同僚の気配がないことに気づいた。
慌てて通路を振り替える。
「…………」
言葉が出なかった。
すでに通路が消えていたのだ。
同僚の姿も見えない。
その日から同僚は行方不明となった。
仲が良かった俺はいろいろと聞かれたが、何も知らないとしか答えることができなかった。
その日以降、ビルの間に通路が現れることはなくなった。
あの日のことを思い出す。
「おにいさん、どうしたの?」
どうしたの?とはどういうことだろう。
別に通路を歩いていただけである。こちらが困ったそぶりも見せていないのに「どうしたの?」と疑問を入れて声をかけてきたのだ。
あのとき俺たちは何をしようとしていたか?
大通りへと通路から出ようとしていた。
……あぁ、そうか。通路から出ようとしたことに対しての声かけだったのか。
今考えればあの言葉には続きがあった気がする。
「おにいさん、どうしたの?なに勝手にわたしから出ようとしているの?」
きっとあの女性は通路自身だったのだろう。
そして俺たちを逃がすまいと声をかけてきた。
あの通路は興味本位という蜘蛛の巣のような罠を張り巡らせ、入り込んでしまった俺たちのような人間を餌とし、捕食者として食らい尽くしているのだ。
同僚はあの通路に捕食された。
俺が逃げ切れたのは同僚が捕食されている最中に出口に向かうことができたからだ。
もし振り返っていたら腰が抜けて動けないまま捕食されていたのかもしれない。
たまたま運が良かったのだ。
だからそれに気づいた俺にはもう、通路は見えない。
いいね、感想など、ぜひお待ちしております。
現在、連載物を書いております。
怪談調査~成仏させれば解決するというわけでもないんです~
https://ncode.syosetu.com/n1905ih/
ジャンルはホラーではありませんが、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。