魔族の気配
一同は夜明けに街に着く。霧煙る入口に人気はない。当然、門は固く閉ざされている。「街ってより監獄みたいだな」ラヨミコルは思ったことを口にする。「はっは、心外だなぁ……まぁあながち間違いではないんですがね」ボイスラがやれやれと説明を始める。「悪い奴らにギルドを乗っ取られてから、門番の仕事まで奴らの管轄になってね。昼間は監視、夜は徹底防衛ってな感じで逃げられないようにしてるのさ」「国が動いたりは無いのか?」「悪徳領主が1枚噛んでるせいで情報が伝わらないらしい」
ヘルゲルの案内で薄暗い地下通路から街に侵入を試みた。足音が地下中に鳴り響く。「ここは何だ?まるで戦争時の避難経路みたいだな」レンガ造りの地下通路は所々禿げたレンガの隙間から鉄板が見え、壁には謎の模様が長々と画かれていた。「私の予想を言うならこの線は魔法みたいなやつじゃないか?」模様は基本線のように壁に巡らされ、要所で丸い円になっていた。「ミコルって本当は魔法知ってるんじゃない?その通りだよ」ウィルドがその答えを告げる。実践のようにボイスラが円に手を当て「点火」と放つと、線が赤く光り、円の場所に火が灯り始めた。「私んとこでは電気っていう似たようなもんがあったんでね。雷知ってるだろ?アレ使うんだよ」「「「?!」」」3人は固まる。雷を使うというフレーズに困惑を隠せない。「なんだお前ら。ベールボト・ファランヒスの偉業を知らないのか、地に落ちた雷が金属を伝い家を焼いてしまった事からその特異性を発見し科学に貢献したんだぞ」「雷が金属を伝うことは知っていますがそれを利用するなんて危険ですよ」「あぁ、そうだ。だから沢山の賢い奴らが色々な発明をして市民に届く頃には安全に使えるって感じにした訳だ」ちょくちょくと自分の世界の情報を漏らす。「ってことだが似たような話をする人間はいたりするか?妄言を吐くじいさんでもいい」暗い地下道を歩きながら尋ねる。「あいにくとそんな話は聞いたことがないな」首を横に振る3人。「そっか、まぁまだここに来てスグだしな」10分ほど歩くと行き止まりに辿り着いた。「ここが今の新しいギルドの監視範囲から外れた理由はこれだ」巨大な魔法陣が描かれた壁が道を塞いでいた。「これは?」「旧隠者の隠し蓑、古い形式の隠れる専用魔法さ」ガタガタの線に、所々円形のズレた魔法陣、中に連なる円に書かれた星は子供のイタズラレベルの酷さだった。「魔法ってのはこんなデタラメで発動するもんなのか?私が知ってる魔法陣って正円なんだが、あの壁に書かれたやつみたいに」「あぁ、今は専用の道具で描くんだけど。昔は自力だったからね、魔法学校で円陣の科目が消えるまではね」ボイスラが魔法陣の真ん中に手を置く。「星や星、暗き夜に照らす我らの兆し。雲に隠れし幾億と。万物そこにありて見えざるは、神の怒りし夜の如く」まるでそこに壁がないかのように魔法陣の描かれた部分が透明化する。「これで通れますよ」魔法陣で空いた穴を通り抜けると階段が存在していた。「今は誰も使っていない倉庫に繋がる。安心して欲しい、私の家が持つ倉庫だ」階段を登り、木製の扉を押し開けると沢山の木箱が積んである場所に出た。「この匂い、火薬か」「そう、でもこれは意図的に水を撒いて使えなくしてあるの。それより新ギルドは危ない。私とボイスラは現時点で死亡か裏切り扱いのはずよ、だから旧ギルドに行くよ」「ヘルゲル、それは危険だ。僕らは旧ギルドの反対を押し切って新ギルドに行ったんだ」「情報提供として行き、もう居れなくなった。と言えばなんとかなる」2人がしばらく言い合いを始める。「なぁ、ウィルド。魔法ってのは誰でも使えるものなのか?」そのすきにウィルドに質問をする。ウィルドは少し悩んだあと「ミコルは使える側だよ……」と少し暗い顔をした。「なんだその使える事がやばい見たいな感じは」「人間に魔法は使えないって知ってる?ミコルの洞察力ならある程度知ってると思うけど、杖や本とか何かしら魔法媒体を持ってみんな使ってるんだ」ウィルド曰く人間は5つの精霊から見限られ、6つの種族に反旗し10を超える冥界への敵対行為が仇となり体内部の魔力回路と大気に漂う無数の魔力を得ることが不可能になったという。擬似的に物にやどるナニカシラの力を得て使えるようになったが未だに悪魔と契約を結ぶか、神に認められる。以外は弱い力に頼って使うしかないと。
「話を纏めると、人間は善か悪、それと弱い何かの力を借りて魔法を使う訳だな?」「そう。ちなみに僕は普通に魔力回路もあるし心臓も魔力に対応してるから、体中に魔力を貯めれる」「んで、私が使える事の問題点はなんだ?」「狙われるよってこと。魔法を簡単に使える人間の子を欲しがる人は多いから」「ひぇー、嫌だなそれは」そうこうしていると話が纏まったようだ。「旧ギルドに向かう」ボイスラに先導され古びた酒場に足を運ぶ。中は普通に明るく、沢山の人で賑わっていた。その中の一人がボイスラに目をつけ殴り掛かろうとする「ボイスラぁぁ!!どの面下げて来たんだ!」それを見て、ラヨミコルは前に飛び出す。拳をつかみ、そのまま前へと引っ張り、腹に膝蹴りを入れる。男は腹を抑えながら倒れた。「あぁん?喧嘩売りに来たのか」それを合図に酒場内のみんなが立ち上がる。高い天井、吹き抜け2階部分からは弓を番える者までいる。「ウィルド、二人を守れ」「わかった」ラヨミコルが飛び出すと共にウィルドが土壁を精製する。「話し合いに来ただけなんだよ!」剣を振りかざす男達に素手で相手をしていく。「ほら!次来な!てりゃー!!どぉりゃ!」あえて大声を出しながら倒していく。剣の間合いに慣れずたまにかする。「いってーなゴラァ!」余計狂人と化し、酒場らしからぬ悲惨な場所へと変貌していく。「ちょ、抑えるなっ!」両腕を捕まれ動けなくなったラヨミコルはその場で肩を外し地面に垂れるように倒れ込み、横2人の足を狩る。「ふぅ、んで?あと3人やるの?」2階の柱から覗いている弓使いとテーブルを盾に怯えている2人に声をかける。「降参だ、やれやれ。じいさん呼んでくるから待っとけ、ってか俺なんもしてないけどな」弓使いの男はそのまま奥へ消えて行き、しばらく経つと年寄りとメイドが出てきた。「騒々しぃと思ったらまた喧嘩してんのか!全く、酒は人をダメにすると言っただろ」「ギルド長、騒がないでください」メイドに支えられながら降りてくるギルド長。「おっとと、すまんな。所であんた何しに来たんだ」「あぁん?喧嘩売りに来たんだよ!見りゃわかんだろ。ころすぞジジイ」
「ひぇえ、ルイスたん。客人が睨んでくるよォ」「ギルド長、誠心誠意持って対応してください」「何ルイスだと?!」平和的カオスが始まり、終わる。
「まー!そういうことなんだわァ」4人の出会った経緯を話し、旧ギルドとしての会見を問い詰める。「はぁ、なるほどのぉ。そりゃそうじゃ。魔力が──」話を聞きながら脳みそでマップを生成していく。悪徳な領主とやらがギルドを乗っ取る。乗っ取ったあと、バレないように手続き書類の偽装。魔族関与。そして繋がる野盗行為及びウィルドの種族を襲った理由。
「ウィルドたちの種族は魔力を剥せるから、王族たちが不審に思う前に消して頼れなくすると」「そうじゃ、野盗に関しては外に情報を漏らさないようにするため」ウィルドが拳を作りながら怒りを溜める。「ウィルド、聞きたくないならボイスラたちと一緒に居ろ。今は私の事情聴取みたいなもんだ」「いや、いい」「それで、ワシらはどうしようもなく裏ギルドみたいな感じで細々としているんじゃ」紙に簡易的にメモをとり、対策案を出す。「それなら領主とやらを吹き飛ばせばいいだろ」「そんな事で上手くいくなら今頃やっておるわ。魔族関与まで来るとのぅ」話し込んでいると急に音声が響き始めた。『皆さん。王国より派遣されたドボルザ様が視察に来ました。無礼のないように』と2回ほど流れ止んだ。「なんだこれ?」「あぁ、王族視察と言ってな。野蛮な事をしている場所をあぶりだすという行為なんじゃが。見ての通り効果はない」「ちゃんとしてると思ったが、そうだよな。実際ここはこんなだし」「領主はお金を王国に納めなければならない。だから民達に仕事を与えるギルドを作る。領主達はそれでもやって行ける」「ってことは中に何かしら入るってことだな?」「そう、領主達の次は貴族達。そこから王族に渡るのだが貴族達は働かないから収支が低い。元々お金がある物もあれば、二世で財政難もある」「んで、あれか?王族に近いから口は効くけど散財尽くしで金なしの亡者達か」「あぁ、そこで領主達からお金を貰いと。まぁただ今日来るのは権力がないから頼れないんですがね」
話を終え酒場を出る。ちょうど銀色の鎧を纏った男と側近らしき集団が通りがかった。「うっす」軽く頭を下げる。「ふむ、どうですか?この街は。見たところ来たばかりのようですが」「そうだなぁ、どち────」鋭い殺気にその場を退く。「どうかされましたか?」「いや、あんたじゃない。おい!出てこいお前」物陰から太った怪しいオッサンが出てくる。「これはこれはドボルザ様と、そちらはどこの国の冒険者かな」強く睨みをきかせてくる。「もうしたもこうしたも、私はそこの紳士に街はどうですか?と尋ねられたのでとても良い場所ですよと」「それは良かったです。ドボルザ様、いつもの場所は手配してあります。では失礼します」オッサンは消えていく。「あー、あんたがやっぱドボルザ様とやらだったか」「いかにも、私はドボルザ・ペルド・ラッーフ・グランディッシアです。本家名はドボルザで名前はペルド、これも何かの縁です。ペルドとお呼びください」手を差し出される。「よろしく、私はラヨミコル。まぁなんか周りからミコルって呼ばれてるからそれで頼むわ」手を取り軽く握手を交わす。「あのさっきの太ったやつ何もんだ?」オッサンの去っていった方に指を指す。「彼はここを管轄しています領主のポートさんです」「なるほどなぁー、偉そうにしやがって」まぁまぁと諭されたあと目を見てハッキリと言われる。「あなた、隠密が得意ですね?では言わなくても分かりますよね?では、皆様。用意された借家に向かいましょう」一行は去っていく。「ははぁーん、ここを牛耳るのがタヌキならペルドさんや。あんたは狐だな?」軽く問いかけると去り際に親指を立ててグッドマークを作っていた。
旧ギルドの酒屋に戻るとみんな治療が終わり、熱も覚めていたようだ。「あぁ、さっきのねぇさんじゃねぇーか。すまねぇ!酒奢るよ」背中をぽんと叩かれ席に案内される。「よっしゃ奢りかっ!お前らが破産するまで飲んだらァァ」筋肉質の男がジョッキを2本ドン!と置く。「はいよ!お待ち」飲みが盛り上がると今度は樽が運ばれてきた。「はいよ!自慢大会、あねさんもどうぞ」「お、私あんたらより多分若いけどな」テンションアゲアゲで樽に手を載せる。「ほらこいよ!」みんなで腕相撲大会をし、的当てをして夕方を迎えた。
「ギルド長、こいつらいっつもこんな感じか?」「まぁな、元は冒険者なんだがなにぶんなぁ。酒だけはあるから仕事がないせいで余計」「そっか、あれならなんかやろうか?裏稼業みたいなの」「はっは、わしもそこまでおちゃいないよ。せめてココに残った50人程はワシが面倒を見れるようになっている」「その生き様に乾杯してやるよ」ギルド長をメイドに預け、後にする。
「まぁつまり、そういうことだよな」握手をした時に発振器を取り付けていた。モニターを起動し場所を確認する。辿り着くとそこは柵に囲われた普通の屋敷だった。「警備はさっきの人達じゃないな。となると見つかったらキリングしても問題はなさそうか」と言いつつも隠密に行動を始める。警備の代わり際を見て、柵を超える。大して広くない庭を通り越し窓に差し掛かる。「鍵がねぇ……これはめ込み式か?普通に扉から入るのもありだが、リスキーだなぁ」上を見ると一つだけ窓が空いていた。壁を登り、滑り込むように入り込む。そのまま転がり、近くの物陰に入る。中は照らされているものの誰も居ない。「そういや、魔力で扉とか開閉出来るんだよな?ってことはトラップだったりしてな?まさかな」バン!と窓がとじ、カーテンがサッと掛かる。
「しまった、と思っているかね?安心してくれ。私は君の敵じゃない」「あんたはペルドさん」ピストルを構えているのに堂々と拍手しながら出てくるペルドに銃を下げる。「ミコル君と言ったね。私のことはどこまで知っているかな」「聞いた話ではそこまで権力のない貴族と」大笑いした後、失礼と詫びを入れ向き直るペルド。「私は王族執行人の1人、第6席フォルボード。弱さという鎧を纏うことで、人は裏を見せる」近くの本棚からいくつか本を取りだし、近くの机に置くペルド。「えっと、詰まる話。王国はこの街について知っているがまだ実地調査中ということか?」「えぇ、そうです。特に魔族が関わっているのが」本を開いて情報を得ていく。「調査資料か。なぁ、このレイアドってなんだ?」「レイアドを知らないのですか?レイアドは魔力の通路ですよ」「すまんな、ちょっと色々あってな。あんたになら話してもまぁ大丈夫か」ペルドに異界侵入の話を伝える。自分の世界、ここに至るまで。「ってなわけでな。信じらんないだろ?私も未だに夢半ば」やれやれと本をヒラヒラする「魔法のない世界からですか、想像もつきませんね」「魔法じゃないけど似たもんはあるんだわ。だから置き換えとか出来れば知識理解は出来る」電力を例にだし、説明をしていく。「確かにそうですね。ところでその異界に居た時に働いていた職についてですが、私の考察道理でしたね」「まさかバレるとは思わなかったぜ」
証拠品をいくつか漁る。「旧ギルドにはこの事伝えてんのか?」「いえ、情報漏洩を防ぐ為に私とその部下のみです」「統率取れてるな。ふんふん、私に渡す情報すらも選定してんな」カバンからカメラを取り出す。「なんですかそれは」「高速メモの魔法さ」写真を取り、現像していく。「凄いですね、メモというよりそのものです」「お、そうだろ。すごいの作る人居るもんだよね」
カバンに持っていってもいい書類を聞き入れていく。「ひとつ聞きたいんだが、私使って解決するつもりか?」「さて、適材適所というやつですね」窓際に寄ってあくどい笑みを浮かべるペルド。「まぁいいけど高いよ。私が異界侵入前に働いてた時は1件1億5000万ペドンからだったぞ」「ペドンですか?」「簡単に言うとこの豪邸あるじゃないか。まんま買えてさらにお釣りが来る程」「私の1年間に支給される金額の2倍程ですか、ちなみに戦闘力が高いとみましたが。魔族の方だけ任せるとどうなりますか?」「つまり、人間側は王国が処理するから。人外の域は私に頼みたいと」「そうですね、もとより私が全て方をつける予定でしたが。巡回回数が周2回なのでなかなか掴めないという事で」先払いですがと重い袋を渡される。「魔族関与は確定です。その魔族を掴めないのです、私たちには魔力が溜まりません。だから魔力を感知することが出来ないのです」「私には魔力が見えるみたいな言い方だな。あいにくないぞ」「貴方は魔族の知り合いがいますね?その方に頼んで頂けると助かります」「分かるのか、全部知ってる上で頼みたいって話か?」ペルドが片膝を折り、頭を下げる。「はい、承知の上です。私達では敵わない、だから視察をすることで圧をかけて下手に動かれないようにする。というのが王族の総意です」「頭上げな、まぁーいいぜ。あんたは多分実力者だろ?しかも暗躍が得意な」
握手した時に分かった。彼の指は3本が義手、それぞれに隠しで何かある。音のならない歩き方。髪の毛はカツラ、左目は義眼。鎧越しでは分からなかったが今来ている服は所々解れている。匍匐の後、ベルトは不自然なナックルが着いている。全身に仕込まれた隠密暗器部隊の痕跡。
「断る理由もない。所でひとつ尋ねたいんだが、どこまでならバラしても問題ない?私が森に入った時点から不自然な偵察跡があった辺り、人数や経緯も把握しているだろ」「はっは、バレていましたか。実は彼らがウィルド君の集落を攻撃している時、避難活動をしておりました。その時にですね、少し離れた場所で異音がしたので確認の者を向かわせたのです」「良かったー、そん時に敵と間違われて殺されてたら困ったぞ」「安心してください、我々は市民の味方です。優先は命なので」「んじゃなんでほっとかれたんだ?」「訳の分からない物に触れないのは鉄則です。あなた達を再度見つけれたのは偶然です、ですのでわざわざ視察を譲ってもらい訪れました」
ペルドと別れ屋敷を後にする。ウィルドにのみ話をしていいと言われた為、噛み砕きの説明文を構築していると見かけない老人にであった。
「おっと、じいさんふらついてるぞ」「すまんのぅ……」フラフラっとしている所を支える。「御礼にコレをやる。魔族には効くぞぉ」手に握らされたものを確認する。ドス黒い石だ。「黒曜石か?おい!じいさ、あれ?」気付けば誰も居なかった。