彼女は気付く
地面を擦る感覚に目を覚ます。心配そうな顔をしたウィルドが必死に声掛けをしていた。響く声はまだ眠る脳みそにうっすらとしか響かない。「───み、君!大変だからっ!ごめんね<インパクト>」全身に電流が走ったような痙攣が起きる。一瞬の出来事だが背はそり、指は伸び切り、目が飛び出るような感覚に見舞われる。「っ?!ウィルド、何があった」高速で脳みそを回転させ、血塗れになった自分の両足を見ながらウィルドに尋ねる。「や、奴等だ、ヤツらがここを嗅ぎ付けてさっきから爆発系魔法を打ってきてるんだ!」だんだん情報を収集しだした五感。爆破の音、振動。赤く染る自身の足、痛み。悲しそうな顔のウィルド。「そんな顔すんな、必死に私を引っ張て奥まで連れて来たんだろ?」「で、でも僕のせ、せいであしが」「ざっと、触診した限りじゃ折れてないし、擦り傷さ。ほら手を貸しな」立ち上がる。もちろん激痛が走る。「ウィルド、私のカバンも持ってきたか?」「一応全部持ってきてるよ」ウィルドがどこからとも無くカバンとルイスを取り出す。「あったあった。これを……」錠剤をいくつか取りだし口に含む。唾液を含みながら噛み砕き、足に吹き掛ける「うぇ、君気持ち悪いよ」「くっぐぅ……染みるっ。両足怪我するとか何時ぶりだ」敵が来るであろう場所にルイスを構える。「ふぅ、弾何発残ってたけな」息を整える。「き、君は立ち向かうの?このままもっと奥で隠れようよ」「追っ手を見える限り殺したのに追われてんだ、発信機の類はお前見る限り無さそうってなると。もう逃げ場が無いんだよ……せっかくの休暇にこんなことするんだし、休暇手当でも出してもらうか!」扉というより土で塞いだ穴を崩していく。「敵は10人ほどか、それに聞いた感じだと爆薬まであるんだろ?なら逆手にとるさ」石を足元に投げつける。1人がひっくり返る。「なんだ!トラップかっ、魔法に警戒しろ」「魔法魔法って、わたしゃ手品師じゃないんだけどねぇ。うらァっ!」小瓶を投げ、軽く射撃する。ダンっ!と一撃洞窟に鳴り響き、小瓶が爆発する。破片が飛び散り謎の液体と煙が洞窟中に広がる。「変わった魔法だね、今のうちに外にで───」「毒だからダメだよ。この洞窟は上に風が抜けるおかげでこっちまで流れないけどね」しばらくたって、様子を見る。動いている者はいない。「杖と本だけか、持ちもん湿気てんなぁ。あと変なペンダントか、戦利品戦利品っと。んで、こっからバレずに外のヤツらを倒すとしたら最短は上だよな」「上って、魔法使ったら感知されるよ」「魔法なんて使えるわけないだろ?まぁ見てな、こうしてこうだっ」壁にナイフを突き立て上がっていく。「後で紐を下ろすからそれに昇ってこいよ」軽い動作で登りロープを垂らす。ウィルドが掴んだ感触を感じるとそのまま引き上げる。「すごいね、ゴキブリみたいに上がってくの」ウィルドの頭に拳が飛ぶ。「乙女にゴキブリとは失礼な!ゲジゲジにしてくれ。っと冗談は置いといて。ほれ上から見てわかると思うが外で見張りする敵が3人、それと少し入った森の中に4人だ。どうウィルドを追跡してるか分からないが今上にいてもなんの反応も示さないあたりXZだけのかなり弱いやつだな」「違うよ、狩猟魔法の鎖状追跡だと思う」「なんだそりゃ」「僕の放つ自然と溢れてでた魔力を探るのと、停滞している場所が分かる。魔力制御が下手な僕は常に魔力が漏れててその魔力を追ってきてる」「どうにかできないのか?溢れてるって事はフードとかして隠せば出ないのか?」「無理だよ。魔石とか他にもっと僕に近いけど大きな魔力があればね」「(あぁやばい……現実逃避したくて考えないように避けてきたけど。魔力って何?魔法ってあるの?ってかじゃないと説明つかない事沢山あったよな?!)」「どうしたの?」「いや、魔力はよく分からないし追尾もこれといって同行する手段がないってことに動揺を隠しきれないだけさ」「打ち消し、僕の透明の目が魔力効果を全て防げる。でもそれを使うと感知されちゃうから」「それってさ戦闘しながらでも相手分かるわけ?」「た、多分無理だと思う」「全員殺してるうちにこっそり使いな。そのまま無効化されてるうちに圏外に出ればいい」「で、でも足が悪いままじゃ殺されちゃうかも」「お互いの事あんま知らないでしょ、私の特技は」先程倒した女のローブを羽織り切り取った髪の毛を簡易的にフードから出す。「アイツらは積極的に顔を見ようとはしない。内部状況を説明するフリして中に3人を入れる。入った瞬間に毒ガスを投げ込んで閉じ込めれば残り4人だ」説明をそこそこにまた穴に入っていく。爆破の怪我がいい感じに効いてきて出て直ぐに見張りの3人は駆け付けてきた。「大丈夫かっ!」「奴らはどこに逃げた?!」「奥に……気を付けて、毒が」2人だけ中に入り1人がこちらに杖を向ける「天使の導きよ……ヒーリング」足が暖かいものに包まれる感覚がし、少しづつ痛みが引いていく。「もう大丈夫よ、私も中に行くから向こうの後部隊にも説明をしてきて」せっかく治してくれたが、敵だ。「良いしょっと。あと2瓶か」瓶を投げ入れナイフで割る。空中でガスが溢れ出し、下に降りてくる。「上にウィルドが居るしな、軽いガスで上あがってコロッたら困るし」出口に向かおうとしてくる3人を前に無慈悲に岩を投げつける。入口は爆破により悲惨にも散っていたが、そのおかげでたくさんの石はあった。「お、お前仲間のはずじゃっ……」皮膚がただれ剥がれ落ちた皮膚を拾う者、怨嗟の目でこちらを睨むもその目が曇りやがて息絶えるもの。
「っと、あと4人か」走って逃げるようにその場所に向かう「た、助けてくれ!」「どうしたんだっ?!」「あぁ、死ね」駆け寄るローブの男の首をナイフで刺した。そのまま乗っかられる形のまま「向こうでアイツらが!助けてくれっ!」倒れかかる男の声も真似て「コイツは俺が見るから早く行け!」3人が背を向ける。遺体の首からナイフを抜く。まず真ん中の1人にフォーカスを向ける。蹴りで膝を崩し喉を踏む。「な、お前っ!裏切ったのか」仲間と思っている相手には躊躇するのが人の性、右の方の首を流れるように裂く。そして慌てて杖を構える左の男に這い寄るように近付き手首を掴み肩甲骨辺りを抑え地面に叩きつける。そのまま両手を持って体を蹴飛ばす。嫌な音を立て、肩周りの形が変わる。「喉潰れても生きてるよなぁ、事情を聞くなら1人でいいんだよ」プルプルと震えながら喉を抑え杖を構える男の顔を掴み地面に落とし込む。「ふぅ、で?お前肩痛いだろ?早く吐けば楽にしてあげるよ」「はぎまず、だからはやくなおじでぐれぇ!」「は?私の要求が先な?何故ウィルドを付け狙うんだ?」脇腹をナイフで軽く突っつく。服が軽くさけ、皮膚に赤い筋が入る。「いいます、あの子を生贄に捧げればっ!神託は遂行される!そうしなければこの世界は終わるのだ!」「で?どうやって突き止めたわけ?私は最初のやつらを殺したけど?」「仲間の匂いを辿った、魔力を打ち消すあの少年を追うのは無理だ……だから味方の死を利用したんだ。吐いたぞ!早く治してく───ぶべっ?!」思いっきり顔をぶん殴ると歯が数本外に飛んでいく。「んじゃお前らの死体が残らなくて、しかも私達の匂いが変われば気付かないよな?」「だずげで、むごうにはおれがらいっどくから」「はぁ、嫌だね。というかもう助からないよ、死体残したくないからさ。住処に突入した組と見張り組は毒に犯され死んでるから触れるのも至難だろうしなんなれば、こうしてと」最後の毒瓶を取りだし蓋を開ける。ふたつの死体にある程度かけ、痛みにもがく最後の男の方をむく。「ふっふーん。私は何をするんでしょうか?答えれますか」「た、助けて……死にたくないっ、俺はまだここに入って浅いし先月結婚したばかりなんだ!」「はぁ、それは可哀想にねぇ……死にたくないの?そーなの?」泣いて許しを乞う男。やれやれと悩んでいるとウィルドがやってきた。「終わったー?っておぇ……」あまりの悲惨さに口を抑えるウィルド。男は急にウィルドに謝り始めた。村を襲った理由や何故ウィルドに執着するのか。「お、生きたいって気持ちが高いんだねぇ。ならウィルドに委ねるよ、ウィルドも経験したいんでしょ?それならこれもいい経験さ」「ぼ、僕は助けたい!悪い人だからって殺しちゃダメだ思う」やれやれと瓶の蓋を締めウィルドの肩に手を置く。「回復まほう?とやらをかけてあげな。こいつを生かしとけばもっと情報が手に入るし、アジトも潰せるしね」ウィルドが男を回復させ、ある程度落ち着きを取り戻すレベルまで諭した。「本当にありがとう、聞かされてなかったとはいえ高給に目が眩んだんだ……」「あ、あなたがしたことは許されないけど。でも、まだ死ぬには若すぎるから、二度と同じ後悔を背負う人が来ないようにしてほしい」顔に決意を固め男と向かい合うウィルド。しばらく2人だけで会話をさせ戻ると意気投合していた。「男ってわかんねぇー」投げやりな感じで二人の輪に入る。
「改めて自己紹介だが……俺はボイスラだ。農民のだったんだが魔法の才があった事と高給だったのもあってあの団体に所属したんだ」「僕はウィルド」「私はそうだねぇ……未だに名前決めてないんだわ。とりあえずラヨミコルでいいかな」「ラヨミコル?聞いた事のない言語だな、ウィルド君何かわかるか?」「いーや、その人ほんとわけわかんないからね。僕も半日は一緒に過ごしたけど全くだよ」「おうおう、人のこと悪く言うなよ~お姉さんはただただ、混乱しているんだ」やれやれと車を走らせていたら訳の分からない事になっていたと2人に説明した。「────というわけでねぇ」「車だと?馬車の類か?まぁアレだなかなり強く頭を打ったんだろ、魔法もあんまりわかって無さそうだしね」「な、なんというか可哀想だね……」圧倒的弱者2人から向けられる哀れな目線に居た堪れなくなる。「で、のんびりするのもいいけどさ。とりあえず方針決めないと。私はせっかくの休暇を潰しやがった変な団体を潰して目にモン見せたる」「ぼ、僕もミコルに着いてく」「略すなよ」「えへへ」ウィルドの頭を撫でていると照れくさそうにボイスラが「俺も良いですか?自分がしたこととはいえケジメを付けないといけないって思うんです」と言ってきた。「昨日の敵は今日の友、では無いがまぁ私はなんもされてないし。アジトを知ってるなら心強い」「僕も、火をつけたりしたのはボイスラと違うやつらってのを信じるよ……彼による実害はなかったからね」「オー、大人に近づいたな」「ぽんぽんするな!子供じゃないんだ!」
少年・縛られた男・ローブを纏った怪しい奴という奇妙な3人組ができた。
「街に出向くのは良いけど1回だけ車行っていい?多分ここに戻れないだろうからせめてもの弔いをしたい」「馬とか物に感情を移すなんてミコルさんは変わってますね」「お前も略すのか!」
事故現場は離れた時と変わらずであった。「すまんな、私は旅立つ。お前もまたいつか誰かの鉄になれよ!」「それが馬車?ぺしゃんこになってるじゃんか!」「ミコル……なんだこれは」「うーん、車わかんないか。ねぇひとつ聞きたいんだけどさ。私はどこか別の世界に来ちゃったのかな?」「「いや、知らん」」「ハモらないでくれ!」また元の道に戻り歩を進める。