彼女の出会い
事故をした、そんな感覚。大破した車を見る。どこかで居眠りをしてしまい、森に迷い込んだと推測し付近を散策する。「何もないっ!いや、まじでどこかぉ~通信機壊れたし何もできないじゃない」大破した車に戻り、無事だったルイスを抱き抱える。「落ち着け私。こんな時こそ……いや、どうしよう。ルイスの予備弾薬は無いっ!車は乗り捨てるとして、非常食とペットボトルを持ってと」簡易式のビーコンを車付近に刺して離れる。「まぁもし戻れるとしたら修理してまた乗りたいしね」耳を澄ませながら歩いていく川を見つけ、軽く口に含む。「上には誰も居ないな、下に降りるか」川沿いに下へおりていくと木々が拓けた場所に出た。そこで、厄介なものを見掛ける。少年が黒いローブの男たちに囲まれていたのだ。「ちっ、面倒いがせっかく人を見つけたんだ助けるしかないッ」走って駆け出し、近場の石を投げつける。「な、誰だ!貴様は」「んー、その訛りはクッカチェンの西側か?」自分にターゲットが向くのを感じると、そのまま距離を置きルイスを構える。「手を挙げろ!撃つぞ」だが、ローブの男たちは杖をこちらに向けそのまま構えている。「これが見えないのか?お前たちの杖じゃ何にもできないぞ」脅すが意味は無い。よくよく見ると一人が小言で何かを呟いている。「仲間を呼ぶんじゃねぇっ!」少年がいるから無闇に撃てない。懐に手を入れ、ナイフを飛ばす。「がっ?!」呟いていた男が倒れる。それを見た残りがいっせいに杖を向け変な呪文を叫ぶ。「ファイヤー!」「しまった杖型の銃かっ!」叫び声と共に一旦その場を引く。「いや、火炎放射器か?それにしてもあのガキとあいつらの距離を開けたいんだが」ナイフでまた1人倒すが、肝心の投げナイフはもう入っていなかった。「さっきの事故で落としたか?あと2人だったら」物陰に潜み、様子を見る。敵も2人になり慌てている所だ。少年は意識を失い倒れていた。「これはチャンスだ。ルイス発射!」腰より上に狙いを附けトリガーを引く。いつもと少し変わった反動に制御がブレ、1人残してしまう。「くっ、土系の魔法を使うとは……」左肩を抑えながらこちらに迫る男。「衝撃でイカれたか?ルイスちゃん。なら素手で行かせてもらうよ」殴り掛かろうと出ると、変な札が目の前で発光した「バインド」全身を鎖で縛られた。「な、伏兵か?」「魔法対策をせずに挑むとは飛んだ間抜けだな」見下す男に睨みをきかす「変わった杖だな、戦利品で貰っていくか」男が汚い手でルイスを触ろうとする「やめろ!」無理やり体を動かし体当たりをして相手を飛ばす。そのうちにガチャガチャと外そうとするが鎖は外れない。「いってて、油断ならんな手足の健を落とすか?ウィンドカッター!」殺気を感じ体を拗じる。地面には鋭い切り口ができる。「変な道具ばっか持ってカルト宗教かよ!」まだ鎖は外れない。「ほぅ、避けるか!ならば<集え風よ!大気を切り裂け!>」さっきよりも多く、大きいのが飛んでくる。上手く避けながら鎖に当て綻びを作る。ガンッ!と鈍い音がなりながら鎖が削れていく。「天性のスキルか、避けが上手いな。だがこれはどうかなっ!狩スキルEX───ファイアアロー!」火の矢が顔目がけて飛んでくる。「危なっ、なんだこいつ……ふざけているが確実に今までのヤツらと違う」ギリギリで避けるが頬が焼ける痛みを覚える。「一撃掠ったようだな、ならこれらどうだ!6連!」「しまっ────」避けた矢先、目の前に矢が迫っている。「これでお前もおしまいだ!」目を瞑り天命を受け入れる。だが、焼ける痛みは無かった。「へ?」「なっ」放った男も自分もおかしな声を出す。「ソノヒトヲイジメルナッ!」先程まで倒れていた少年は立ち上がりこちらを見ていた。「やはりか、透明な眼……霧散か」こちらに背を向け少年の方を向く男。隙を着くなら今しかない。地面を這いながら倒れた男の首に近寄りナイフを足で挟み少年に魔の手を伸ばそうとする男の足に切り付ける。「がっぁ?!クソアマがァ!死に晒せっファイアアロー」向けられた杖先に火が集中してくが水を掛けられたかのように消える。「またお前か!」少年に蹴りをかます男。「ちっ、しかし時間はできた縄抜けっと」ジャラジャラと鎖の音を鳴らしながら男の後頭部を殴る。「がっ……」ドサッと鈍い音を立て倒れる男。「大丈夫か?少年」手を向け、助け起こす。「ん……アリガトウ」少年はぎこちない喋りだ「こちらこそ何したか分からないけど助かったよ手品?」。お礼もそこそこに立ち上がらない男の首に鎖をかけ、木に提げた。「よいしょっと。少年人里知らねぇーか?」「あ、あの人は?」「知らねぇよ。ん?お前の親だったりするなら助けるが」「い、嫌。あの人はわ、僕の村をオ、オソッタ怖い人たち」「なら死んで好都合だろ?ならとりあえずお前の村に連れてってくれ……わたしゃ疲れたわ。まぁ首都のロギガンドまで来れば組織のアジトもあるしどうにかなるんだが、あいにく逆に来たからね」「あ、あるけどもうみんないない!サッキやられた」「そっか、休まるとこはあるのか?」「あ、あるけど君みたいな怪しい人はダメだって」「そんな目で見るなよ。いいか?私は命の恩人だ。ガキは黙って親御さんに私を紹介して出すもんくれりゃいいんだよ」「ガキじゃない!もう立派なお、大人だ!」「ほぅ、見るからに10も渡ってねぇじゃねぇか。大人なんならほれ」上を脱ぎ服をヒラヒラさせると少年は下の方を向き恥ずかしそうにする「や、やめろ!そういうのは、そのあれだよ!」「はぁ、わかったわかった。ウブなだけって事にしといてやるよ」「僕はウィルド・ウルフ・ベラ。ウィルドでいいから少年って呼ばないで」「おう、よろしくなウィルド」「で、名前は?君の名前はなんなの」ウィルドからそう言われ迷う。もうかれこれ何年経つだろうか。名前を呼ばれなくなってから。「好きな名前で呼んでくれ、私は放浪の身だ。特定の名前なんてない」「ならフッツェリスとかは?導きの人達って意味だよ」「嫌な名前だ、難民の事じゃねぇーか」「え?」「はい?」しばらくウィルドと話していると違和感があった。よく見れば空を飛ぶ鳥は造形が違う。葉っぱも見知っているようで知らない物ばかり。「わたしゃ一体何処に来ちまったんだ?」迷いを抱えながらウィルドの後ろを着いていく。慣れた足付きで進むウィルドに置いて行かれないようにしつつ、突然機能が開いたかのように流れ込む情報量を処理し続ける。
「ここが隠れ家さ!立派ってものでもないけど、寝床は3つくらいあるから自由に使って」洞窟を改良したような内装の隠れ家は程よい湿気と温度だった。入口に近い場所を選び寝転がる。手のひらを上にかざしながら指の隙間から見える光に目を細める。「なぁウィルド、ファンジイ・プランティーって知ってるか?」「聞いた事ないけど、古文書クラスの呪文かな」「そっか……」何となく腑に落ちないまま、寝方を探っていると腹の虫が盛大な音を鳴らした。「お、お腹すいたの?」「たはぁー、普段はならないようにしてんだが。なっちまったか」「ご飯ならすぐ用意できるから待ってて」バタバタとウィルドが行き来を繰り返し、食材が目の前に置かれていく。「生で食えるのか?これ」「生じゃないよ。調理くらいはできるから。ウィンド」軽い風がウィルドの指から放たれ謎の葉っぱと肉が綺麗に切られていく。「変わった手品だな、飯くらいは遊ばずちゃんと作れよな~」「まぁまぁ、見てて。<クレー・【造形】>ファイア」地面から火が巻き起こり、その上に竈と土の鍋が乗っかる。「な、なんだ?!家電式のか、私の情報網にすら乗ってない最新家電とは。ぐぬぬ」物珍しさと、自分の知らないものを持っている者への嫉妬を募らせる。「それから、この実とこれを入れてしばらく煮込んだら完成だから」良い香りが立ち込め、狭い隠れ家中を包む。「ほら、受け取って?君の分」皿を受け取り匂いを体へ取り込む。「うーん、いい匂い。肝心のスープはと」ずずっと一飲みし愉悦を浮かべる。「生き返るぅ、よくよく考えたらまともなご飯食べてなかった気がするよ私」美味しそうに食べる姿をウィルドは眺めていた。「お父さんたちはまだ早いってあんまり触らせてくれないから君が初めてだよ。振舞ったのは」「まぁそうだ。なんなら40とかになっても包丁を持ったことの無い人だっているんだし」「僕はもう100歳なのにさ、ほんと嫌になるよね……」俯き悲しそうにするウィルド。「周りなんてもう成年の体躯なのにまだ僕は子供のままだし」お皿を持ったままフリーズしているとウィルドが近付いてきた。「大丈夫?」「ん、あぁ。だがひとつ聞きたい。今なんて?」「みんな成年なのに僕だけ子供の体のままって」「その前」「100歳ってところ?」「そうだよ!100歳でその見た目?!どうなってんの」「あー、僕耳隠してるからわかんなかったと思うけど獣人だからさ」「じゅうじん??」混乱が深まり、頭から煙が出る。「あわわ!ウォーター!」後ろに飛ぶほどの水を浴び、正気に戻る。「話を整理すると、ウィルドは100歳で体だけ子供ってこと?」「うーんとね、僕達の種族は経験して精神年齢をが上がると肉体も変化するの。だから僕は早く色々教わりたいのに親がダメって言ってたからこのまま」「うげぇ……歳上だったのな」「君はいくつなの?」「確か20くらいだったな。正確には覚えてないんだよ、どこで生まれたのかなんて」「そっか人間だから」「まぁでも見た目はガキだしウィルドはウィルドのままだなっ!」頭をガシガシと撫でる。「ひぇっ?!ぼ、僕は100歳だ!君より年上なんだから子供扱いはよひて!それと頭は耳があるからダメ!」頭を抑え顔を赤らめながら後ろに下がるウィルド。「はっは、おもしれぇな。夢にしては中々の出来だ」「夢?」「夢しか考えれないだろ、100歳も生きる人によくよく考えたら鍋とか火とか説明つかないしな。科学じゃ」「よく分からないけど夢じゃないと思うよ。ほっぺ抓ってみてよ」うぃーとウィルドのほっぺを両方に伸ばす。「ほんとだ、夢じゃないな」「ほくのらなくてひみの!」「あ、そうだった。イテテ……痛いな」「もしかしたらどこかで頭打って記憶がめちゃくちゃになってるだけかもよ」「だよね、寝たら治るな。おやすみ」「え、今まだおひ───」ウィルドの声を無視して寝に入る。